平成から令和へ。祝祭的なのは生前退位だからだろう。
昭和の終わりは、何でも自粛だった。
スカイライン、フェアレディ・・・カルロス・ゴーンが社員首切りで会社を乗っ取る前の日産自動車は、トヨタよりセンスのよい車を多く世に出していた。
セフィーロ。「そよ風」という名前を持ち、クジラを思わせるライトブルーの流線形が美しい車だった。
天皇陛下が重症で苦しんでいるときに、サングラスをかけた軽薄そうな男が「お元気ですか」とは、何たる不敬、何たる大罪。車のCMは、セリフを消して放送された。
大切なマイミクのマサコさんが、素敵な本を紹介してくれた。
「井上陽水英訳詩集」(講談社刊)
独特の高音、不思議な歌詞を魅力ある音楽に乗せる天才歌手は、デビュー50年を迎えたという。件の軽薄そうな男だ。
著者は、日本文学研究者のロバート・キャンベルさん。大病を患ったベッド上で、陽水の歌詞の英訳を思いついて始めたという。
掲載したのは有名なものを中心に50曲。英訳する際に考えたこと、歌手本人とのやりとりも記載しており、一級の解釈本となっている。
「傘がない」は主語を私にするか。そうではないと陽水は言う。どこに本心があるのか捕まえにくい彼が、自作を語るのは貴重だ。
さらに、英訳詩を読むことで、よくわからない歌詞の意味を理解できた曲も多い。
ロバートさんの英訳が美しいのはもちろん、日本語も格調高く勉強になる。
「心もよう」=Images of The Heart
「いっそセレナーデ」=A Just-so Serenade
「ダンスはうまく踊れない」=I Can't Dance So Well
秋の夜、陽水の歌声を聴きながら、英訳詩を読む。なんと幸せな気持ちになれることか。一生の友になる本と思う。ファンの方だけでなく、ぜひお読みになってほしい。
ログインしてコメントを確認・投稿する