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2019年12月09日11:41

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「カステラ」パク・ミンギュ(クレイン社)ヒョン・ジェフン、斎藤真理子訳

友人からお借りした、韓国の小説家の短編集。
「第1回日本翻訳大賞」を受賞している。

冒頭の短編「カステラ」は、「この冷蔵庫の前世はサッカーのフーリガンだったに違いない」と信じてる主人公が、そのやたら出す騒音がうるさい冷蔵庫に、ある日両親を入れてしまい、さらに大学や町役場やバスや地下鉄や多くの人々を次々に入れ、ついには「アメリカ」を入れるに至り、「冷蔵庫の中は国際社会になった」、そして「街からマクドナルドが消えた」というもの。
いわば不条理小説で、警句めいた文章の連なりといい、ありえない登場人物といい、どこか村上春樹っぽいテイストも感じる。
作者のパク・ミンギュは1968年生まれなので、ひょっとしたらその影響もあるのかも。

ほかにも巨大なタヌキがサウナに現れる「ありがとう、さすがタヌキだね」、
ラッシュの地下鉄でぎゅうぎゅう詰めの乗客を押す“プッシュマン”のアルバイトをする苦学生が、失踪した父親を案じているとホームでキリンと出会う「そうですか?キリンです」、
73社に履歴書を送っても採用されない主人公が、“スワンボート”の浮かぶ池がある、さびれた遊園地でアルバイトしていると、時空を越えてスワンボートが世界を飛んでいくのを目撃する「アーンしてみて、ペリカンさん」、
かつて学生運動のリーダーだった先輩を農村にたずねて、いっしょにUFOを目撃する「コリアン・スタンダーズ」、
試験勉強用の、カプセルホテルのような小部屋を、賃貸アパートに改装した奇妙な場所で暮らした日々とその住人を回想する「甲乙考試院 滞在記」、
などなど、11編を収録。
本書のタイトル小説同様の、どこかばかばかしいありえないようなシチュエーションなのだが、奇妙な物語の終わりには、ふっと切なさを残す、不思議な余韻があるのだ。

そして顕著なのは、不条理小説なのに「切実なリアリティー」が浮き上がってくること。
どれも現代韓国社会とは無縁ではない。
若者の就職難、何年も何年も公務員試験を受け続けて合格しない現状、不況の中の苦しい暮らし、過去の民主化運動時代に逮捕され、それをずっとひきずっている人間等々・・
むしろ不可解な登場人物やありえない物語設定ゆえに、それらの悲哀がいっそうあからさまになっているのだ。

韓国の小説が昨今、だいぶ翻訳されるようになり、わたしも時々読むが(わたしの友人は韓国の文学作品の翻訳家でもある)、それでも韓国で翻訳される日本語の小説に比べれば相当少ないと思う。
村上春樹は韓国でも人気だし、東野圭吾の新作は、韓国でもすぐにベストセラーになる。宮部みゆき氏は、自分の小説が韓国で翻訳出版されてソウルでサイン会があった時、韓国には自分のファンクラブもある、と知ってそんなに読んでもらえてるんだ、と驚いたという。

文学作品は時に、TVの映像や新聞報道よりも、その国の内情や国民性を教えてくれることがある。
読みながら、韓国の若い男性と「兵役」が切っても切り離せない事柄であるのが実感を伴ってわかるし、就職難が、若者から希望を奪っていっているのも感じられる。
そして、政治的に対立があっても、政府同士の関係が悪化しても、日本同様、ささやかな生活の幸福をのぞむひとびとが暮らしているのに、変わりない、ということも。
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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年12月10日 01:30
    表題作、なんともシュールな設定だなあと思いましたが、言われてみれば村上春樹的と言えなくもないですね。
    考試院、学生運動という言葉に韓国の現代社会が垣間見えると思いました。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年12月10日 06:56
    > mixiユーザー 
    訳文も、躍動的なテンポいいもので、読みやすかったです。
    突然ハルク・ホーガンが出現したり、リンゴ・スターが出てきたりと、突飛な設定には「???」でしたが、
    背景に韓国社会の苦悩が書かれているのが、興味深かったです。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年12月12日 23:54
    カステラ、落語頭山の逆バージョンみたいで面白いです。どんどん入れる穴は星新一「おーい」かな?
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年12月13日 17:05
    > mixiユーザー 「82年末生まれ、キム・ジョン」本はお約束?で読みました。その流れで同じ作者のものの入った短編集一冊本

    今「反日種族」をどっかで手入れ読みたいな。と思ってまむす。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年12月13日 17:25
    > mixiユーザー 
    ああ、たしかに。星新一の「おーい」も怖い結末でした。
    その国の文化を知るには、文学作品を読むのがいい、と聞きますが、「カステラ」も現代韓国の苦悩が透けて見えます。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年12月13日 17:27
    > mixiユーザー 
    「反日種族」はどうだろう?
    日本人じゃなくて韓国人自身が日本批判してるんだからヘイト本じゃないよね?
    という編集側の見え透いた言い訳みたいで、どうもね、という感じ。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年12月13日 20:14
    > mixiユーザー 「反日種族」は韓国の方が日本を批判する同国人についてフェアな意見を述べられている著作だと書評等で認識していましたが?

    興味がありますが、文庫本で古本になるの待つか運よく借りられるかであせあせ「蜜蜂と遠雷」もまだ気になりますが読んでいません。

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