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2019年11月20日08:51

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「月の満ち欠け」佐藤正午(岩波文庫的?)

八戸出身の小山内堅(おさない・つよし)は、東京の私大に進学、大学時代に妻の梢と出会って結婚。
生まれた娘には妻の発案で「瑠璃」と名付ける。
転勤で千葉に住んでいた頃、7歳の瑠璃は高熱を出して寝込むが、そのあと奇妙な現象が。
むかしの「黛ジュンのヒットソング」を歌っていたり、吉井勇の短歌の一節をノートに書きつけたり。そして突然、ぬいぐるみを「アキラくん」と呼んだり。
小山内夫妻はそんな娘の変化をいぶかる。
そして瑠璃は、なぜかひとりで東京の高田馬場へ出かけて行って補導されてしまう。
それは長い因縁の始まりだった。

さらにさかのぼっての物語。
やはり八戸出身の三角哲彦(みすみ・あきひこ)は大学時代、高田馬場のレンタルビデオ店でアルバイトをしているときに、美しい人妻・瑠璃と知り合い、恋に落ちる。
親密になる中、三角は自分の名前は最初「アキラ」と名付けられる予定だった、と彼女に打ち明ける。
瑠璃は「あたしは月の満ち欠けのように、死んでも生まれ変わる。そして三角くんの前に現れる」と謎のような言葉を残し、事故死する。

瑠璃のかつての夫・竜之介は、妻の死後、荒れた生活を送っていた。
ようやく再就職した小さな工務店で、社長の幼い娘・希美に慕われる。
だが、希美が高熱を出して寝込んだ後、様子が一変。
竜之介は希美のしぐさに、亡き妻の癖の面影を見てしまう。
そして希美は竜之介に「おじさん、ママが妊娠中に、わたしに『瑠璃』って名前を付けるように夢のお告げがあったのよ」と話し、竜之介は動揺。

ひとりの女性と、三人の男性をめぐっての不思議なストーリーである。
最初の「瑠璃」は、その言葉通りならば、幾度も生まれ変わったことになる。
小説の冒頭には7歳の少女「るり」が登場するが、小山内梢の親友の娘、ということがのちに明かされる。
梢と娘の瑠璃は、小山内堅に内緒で、三角哲彦に会いに行こうとして自動車事故で亡くなっていた。

錯綜する「瑠璃」の人生を、読みながら「これは転生後何代目の瑠璃だったけ?」としばしわたしも混乱(;´∀`)

言ってみれば「生まれ変わり」というある意味古来からあるありふれたテーマなのだが、登場人物たちの細部がリアルに描かれている分、「転生現象リポート」みたいな様相を帯びてくる。
たしかに荒唐無稽なお話ではあるのだけど、世代を超えてほんとうに月の満ち欠けのように生まれ変わりを繰り返す人がいるのかも、と思わされる筆致だ。
瑠璃は「三角くん」ともう一度会う、その一心で運命を手繰り寄せ、彼女にかかわった人々の運命をかく乱していくのか。
そういう意味では究極の愛の物語なのかもしれないけど、死んで生まれ変わりを繰り返していたら、相手はどんどん年取っておじいちゃんになっちゃうし、どうするんだろう?と思っちゃいますね。

本作は2017年の直木賞受賞作。
わたしが佐藤氏の小説を読むのはこれで2作目。
ずっと昔、大学時代にすばる文学賞受賞の「永遠の1/2」を読んで以来である。
佐藤氏は寡作で、作家デビュー後も出身地の佐世保市にずっと住み続けている。
たしか直木賞の授賞式も上京せず、欠席したんじゃなかったっけ。
ありえない話をリアルに、そして軽妙に読者を吸引していくのには成功している小説だ。
これが岩波書店から文庫化されたのも驚いた。
だいたい学術系のお堅い本が多いから、この文庫本も敢えてなんだろうが「岩波文庫」じゃなくて、「岩波文庫的」と印字されているあそびゴコロなんである。
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