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2019年10月22日11:15

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帚木蓬生氏の4作品

「やめられない ギャンブル地獄からの生還」帚木蓬生(集英社文庫)

以前、単行本で刊行されていたものに加筆、再構成して文庫化。
ようやくわが国でもギャンブル依存症が病気として認知、問題視されてきたことや、それにもかかわらずカジノ誘致に国も地方も躍起になっているという現状をふまえての出版。
精神科医でもある帚木氏は、ギャンブルにハマって、生活が破壊される患者を数多く診てきており、実際の症例も列挙されているが、ギャンブルで作った借金をさらにギャンブルで返そうとますますパチンコやスロットにどっぷりつかって抜けられなくなり、その借金の返済のために家族までもが犠牲を払うパターンは、どれも凄惨で恐ろしい。
しかも、何かのきっかけで、誰しも陥りかねないところが依存症のこわいところだ。

このあと、同じ帚木蓬生氏の文庫本を、本棚から探して、お盆帰省のときに再読。それを呼び水に、続けて帚木氏の本を読むことになりました。


「白い夏の墓標」帚木蓬生(新潮文庫)

パリで開かれた肝炎ウィルス国際学会に出席した佐伯。そこで彼はアメリカ陸軍微生物研究所のベルナールなる老人の訪問を受ける、かつて仙台の大学でいっしょに研究に励んだ黒田が、フランスで自殺したのだと老人は告げるのだった。
佐伯は、黒田がアメリカに留学中に事故死した、と聞いていたのだ。
なぜフランスで、しかも自殺? 不可解に思った佐伯は、黒田の足跡を追って、ピレネーまで足を延ばすー。

1970年代に発表された長編小説だが、遺伝子操作とそれにともなう倫理問題という今日的なテーマを扱っていて、今読んでも全然古びていない。
黒田は果たして何を研究していたのか?その死の真相は?といったミステリーに、フランスの田舎の風景も描写されていて旅情を掻き立てる。
佐賀出身の孤独な黒田が、唯一心を通わせていた、佐伯との友情が物語に通底しているのがどこか心安らぐのだ。
物語の終盤近く、帰国の飛行機の中で佐伯が新聞を開くと毛沢東の訃報が大きく載っている、というシーンは、鮮やかにその時代を伝えている。


「空の色紙」帚木蓬生(新潮文庫)

表題作は、アルコール中毒の殺人容疑者の精神鑑定を依頼された精神科医・小野寺の物語。容疑者は自分の妻が息子と関係したという妄想に捕らわれていたようだが、調査するうち、小野寺は自身が動揺していく。
小野寺の兄は、知覧から出撃して戦死した特攻隊員だった。
その後、小野寺は残された兄嫁と結婚。しかし優秀だった兄のことは頭を去らず、妻が愛しているのは今でも亡き兄なのではないかと苦悩する。
鑑定のために鹿児島に赴いた小野寺は、知覧の特攻記念館を訪れた。
死に向かって飛び立つ前に隊員たちが書いた色紙。その中に、兄の筆跡を見つける・・

ほか2編の中編は、帚木氏の初期作品。
「新潮」の新人賞に応募した「墟の連続切片」は、医学界の不正、捏造と旧弊な学界がテーマで、これも今読んでもビビッドな問題作。
「頭蓋に立つ旗」は1976年の「九州沖縄芸術祭文学賞」受賞作。地元新聞社主催で、たしか受賞作は、「文学界」にも掲載されていたはず。
1970年代はじめごろの九州大学医学部と思われる大学が舞台で、当時の医学界でのモラル、倫理を俎上に載せている。
帚木氏自身の体験が色濃く反映されていると思う。登場する変わり者の教授には、モデルがいるようだ。


「閉鎖病棟」帚木蓬生(新潮文庫)

9月に大阪市内のシネコンに行ったら、映画「閉鎖病棟」のチラシを見つけた。
以前にも映画化されたことがあるが、今回の主役は笑福亭鶴瓶。
それで、また原作を読み返してみようと思った。読むのは三度目ぐらいになると思う。
精神科病棟の患者たちの物語。
舞台は福岡で、描写から、太宰府天満宮の近くに病院が建っている設定のようだ。

入院、通院の患者たちが、ここに来るまでの物語が、まずそれぞれに語られる。
義父からの性的虐待を受けた少女、知的障害があって、放火をしてしまった昭八、幻聴に苦しめられ、異常行動に走ったチュウさん、
病気の発作で、家族4人を殺害したため、死刑判決を受けた秀丸は、なぜか死刑執行のあと、絶命せず息を吹き返してしまった。
いったん蘇生した人間をふたたび死刑執行はできない。
秀丸は行き場を失い、ホームレスのような生活をしていたが、かつて病気の治療を受けていた精神病院へ流れ着く。院長は、彼の殺人も死刑判決も知っていたうえで受け入れ、雑用係として、病院に住まわせる。

患者たちにもそれぞれの人生があるし、たどってきた時間の重みがある。
それらが丁寧に描かれることで、一見理解不能な行動をする患者たちの、哀しみが見えてくる。

病院内で起きた殺人事件。
殺されたのは覚醒剤の常用患者で、乱暴者の重宗だった。
患者たちはみな重宗の暴力におびえていた。
事件の「犯人」と真相を知っているチュウさんは、裁判所の証人尋問に出廷。
検事の質問に「自分も重宗を殺そうと思っていた。被告席に座っているのは自分だったかもしれないです。犯人の彼は身代わりにわたしを助けてくれたんです」と証言する。

チュウさんは新しい女医の主治医に励まされ、社会復帰をめざして、市の郊外の実家へ帰っていく。

チュウさんが裁判所で、せいいっぱい、自分の気持ちをなんとか伝えようと証言をするシーンは、何度読んでも涙が出てしまうのだ。

映画は、もうすぐ公開、秀丸は鶴瓶、チュウさんは綾野剛が演じるようだ。
舞台は長野県に変えられているようだけど、映画のほうも見るのが楽しみ。
帚木氏によれば、患者の彼らはモデルがあるのだという。
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