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mixiユーザー(id:5348548)

2019年10月22日11:15

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帚木蓬生氏の4作品

「やめられない ギャンブル地獄からの生還」帚木蓬生(集英社文庫)

以前、単行本で刊行されていたものに加筆、再構成して文庫化。
ようやくわが国でもギャンブル依存症が病気として認知、問題視されてきたことや、それにもかかわらずカジノ誘致に国も地方も躍起になっているという現状をふまえての出版。
精神科医でもある帚木氏は、ギャンブルにハマって、生活が破壊される患者を数多く診てきており、実際の症例も列挙されているが、ギャンブルで作った借金をさらにギャンブルで返そうとますますパチンコやスロットにどっぷりつかって抜けられなくなり、その借金の返済のために家族までもが犠牲を払うパターンは、どれも凄惨で恐ろしい。
しかも、何かのきっかけで、誰しも陥りかねないところが依存症のこわいところだ。

このあと、同じ帚木蓬生氏の文庫本を、本棚から探して、お盆帰省のときに再読。それを呼び水に、続けて帚木氏の本を読むことになりました。


「白い夏の墓標」帚木蓬生(新潮文庫)

パリで開かれた肝炎ウィルス国際学会に出席した佐伯。そこで彼はアメリカ陸軍微生物研究所のベルナールなる老人の訪問を受ける、かつて仙台の大学でいっしょに研究に励んだ黒田が、フランスで自殺したのだと老人は告げるのだった。
佐伯は、黒田がアメリカに留学中に事故死した、と聞いていたのだ。
なぜフランスで、しかも自殺? 不可解に思った佐伯は、黒田の足跡を追って、ピレネーまで足を延ばすー。

1970年代に発表された長編小説だが、遺伝子操作とそれにともなう倫理問題という今日的なテーマを扱っていて、今読んでも全然古びていない。
黒田は果たして何を研究していたのか?その死の真相は?といったミステリーに、フランスの田舎の風景も描写されていて旅情を掻き立てる。
佐賀出身の孤独な黒田が、唯一心を通わせていた、佐伯との友情が物語に通底しているのがどこか心安らぐのだ。
物語の終盤近く、帰国の飛行機の中で佐伯が新聞を開くと毛沢東の訃報が大きく載っている、というシーンは、鮮やかにその時代を伝えている。


「空の色紙」帚木蓬生(新潮文庫)

表題作は、アルコール中毒の殺人容疑者の精神鑑定を依頼された精神科医・小野寺の物語。容疑者は自分の妻が息子と関係したという妄想に捕らわれていたようだが、調査するうち、小野寺は自身が動揺していく。
小野寺の兄は、知覧から出撃して戦死した特攻隊員だった。
その後、小野寺は残された兄嫁と結婚。しかし優秀だった兄のことは頭を去らず、妻が愛しているのは今でも亡き兄なのではないかと苦悩する。
鑑定のために鹿児島に赴いた小野寺は、知覧の特攻記念館を訪れた。
死に向かって飛び立つ前に隊員たちが書いた色紙。その中に、兄の筆跡を見つける・・

ほか2編の中編は、帚木氏の初期作品。
「新潮」の新人賞に応募した「墟の連続切片」は、医学界の不正、捏造と旧弊な学界がテーマで、これも今読んでもビビッドな問題作。
「頭蓋に立つ旗」は1976年の「九州沖縄芸術祭文学賞」受賞作。地元新聞社主催で、たしか受賞作は、「文学界」にも掲載されていたはず。
1970年代はじめごろの九州大学医学部と思われる大学が舞台で、当時の医学界でのモラル、倫理を俎上に載せている。
帚木氏自身の体験が色濃く反映されていると思う。登場する変わり者の教授には、モデルがいるようだ。


「閉鎖病棟」帚木蓬生(新潮文庫)

9月に大阪市内のシネコンに行ったら、映画「閉鎖病棟」のチラシを見つけた。
以前にも映画化されたことがあるが、今回の主役は笑福亭鶴瓶。
それで、また原作を読み返してみようと思った。読むのは三度目ぐらいになると思う。
精神科病棟の患者たちの物語。
舞台は福岡で、描写から、太宰府天満宮の近くに病院が建っている設定のようだ。

入院、通院の患者たちが、ここに来るまでの物語が、まずそれぞれに語られる。
義父からの性的虐待を受けた少女、知的障害があって、放火をしてしまった昭八、幻聴に苦しめられ、異常行動に走ったチュウさん、
病気の発作で、家族4人を殺害したため、死刑判決を受けた秀丸は、なぜか死刑執行のあと、絶命せず息を吹き返してしまった。
いったん蘇生した人間をふたたび死刑執行はできない。
秀丸は行き場を失い、ホームレスのような生活をしていたが、かつて病気の治療を受けていた精神病院へ流れ着く。院長は、彼の殺人も死刑判決も知っていたうえで受け入れ、雑用係として、病院に住まわせる。

患者たちにもそれぞれの人生があるし、たどってきた時間の重みがある。
それらが丁寧に描かれることで、一見理解不能な行動をする患者たちの、哀しみが見えてくる。

病院内で起きた殺人事件。
殺されたのは覚醒剤の常用患者で、乱暴者の重宗だった。
患者たちはみな重宗の暴力におびえていた。
事件の「犯人」と真相を知っているチュウさんは、裁判所の証人尋問に出廷。
検事の質問に「自分も重宗を殺そうと思っていた。被告席に座っているのは自分だったかもしれないです。犯人の彼は身代わりにわたしを助けてくれたんです」と証言する。

チュウさんは新しい女医の主治医に励まされ、社会復帰をめざして、市の郊外の実家へ帰っていく。

チュウさんが裁判所で、せいいっぱい、自分の気持ちをなんとか伝えようと証言をするシーンは、何度読んでも涙が出てしまうのだ。

映画は、もうすぐ公開、秀丸は鶴瓶、チュウさんは綾野剛が演じるようだ。
舞台は長野県に変えられているようだけど、映画のほうも見るのが楽しみ。
帚木氏によれば、患者の彼らはモデルがあるのだという。
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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月22日 12:14
    その映画は、重すぎて見れないと思います。
     
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月22日 13:01
    大学を出て働いていたころ、帚木氏にはまって読んだ記憶。(そのころ、破竹の勢いあって、直木賞候補だった)中でも、「閉鎖病棟」面白く読みましたし、わたしも泣きました。確か、ラスト近くで素麺を食べるシーンあったような。何気ない幸せのような。そして、昨日、「楽園」を観にいったところ、予告篇で「閉鎖病棟」があって、思いだしていたところです。綾野剛、上手いですね。好きな俳優さんなので、映画楽しみです。(*^_^*)
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月22日 15:38
    > mixiユーザー 
    帚木さんのファンで、小説は全部読んでいます。
    どれもヒューマンな問題がテーマになっているところがお医者様ですね。
    東大仏文科を出てTBSでテレビ局のディレクターをしていたのに2年で辞め、九大医学部に入りなおして精神科医になったというのも異色の経歴です。
    「閉鎖病棟」、原作では群像劇ですが、主人公はやはりチュウさん。でも映画はあえて元死刑囚の秀丸を主人公に据えています。映画を見に行くのが楽しみです。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月23日 06:36
    帚木蓬生さんのギャンブルに関する本は読んだことがあります。
    ギャンブルは恐ろしいです。
    福岡県は公営ギャンブルが盛んだというのもこわいです。

    「閉鎖病棟」映画になりましたね。原作は太宰府市が舞台でしたね。終戦の頃の甘木の頓田の森の悲劇と思われる辞令も書かれてありましたね。
    映画は是非観たいいですが、機会があるかどうか。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月23日 07:43
    > mixiユーザー 
    コメントありがとうございます。
    帚木さんはずいぶん以前からギャンブル依存患者の研究をされていて、警鐘を鳴らしています。
    カジノがなくてもパチンコ店などは全国に多いですからね。

    帚木さんは多作ですが、過去の古い小説を読み返しても、全然古びていない感じで面白いです。
    福岡出身だからか、福岡を舞台の小説が多いですよね。
    「閉鎖病棟」、戦時中、小学生たちが米軍の機銃掃射を受けて多数亡くなった悲劇も、物語に盛り込まれています。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月24日 17:40
    ごんふくさんお得意の帚木蓬生作品3連発ですか。
    3冊とも読み応えありそう。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月24日 19:35
    閉鎖病棟、平成19年刷の文庫本を読みました。
    今回の福岡の書店で新刊の様に陳列されてるのをあちこちで見掛け??でしたが、映画化上映だったんですね。
    この原作者は福岡の人で地元舞台の作品も多いそうですがBookOffでは人気小説の在庫が少なくて買い集められませんでした。
    次回の日本での買い物リストに入れなきゃ!
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月24日 22:18
    > mixiユーザー 
    「閉鎖病棟」は平成の初め、「白い夏の墓標」も「空の色紙」も昭和に刊行されてるんですが、古臭さがないですね。
    ニューマンミステリーとしても医学界の問題提起としても読めます。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月24日 22:19
    > mixiユーザー 
    帚木氏は、福岡出身なので、福岡が舞台の小説多いですよ。「賞の柩」なんかでは、冒頭から大濠公園が登場しますし。
    帚木先生からファンレターの返事をいただいたことについて書いたmixi日記です。
    https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1963369202&owner_id=5348548
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月25日 18:38
    > mixiユーザー 
    ファンレターのお礼を即日で書かれる帚木氏にとても感銘しました。
    私も20代の頃夏樹静子さんの著書の大ファンになり、その頃お住まいだった南区の若久のお宅を訪ねて手紙を手渡したいと真剣に思い悩んだ日がありましたが、なにせ出光石油会社の尾偉い方の奥様だと聞いてたので、訪問するのは思い留まりましたが、こういう作家先生の対応にはその人格の素晴らしさが伺えますね。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2019年10月25日 21:03
    > mixiユーザー 
    そういえば、夏樹静子さんは福岡市在住でしたね。
    実際に行かれたら、熱心な読者だったら喜んでくださったかもしれませんよ。
    帚木先生、ほんとうに拙い手紙を出しても、必ずお返事くださるんですよ。びっくりしますし、お人柄が偲ばれますね。
    もともと文学青年だったみたいで、国文科じゃなくて東大の仏文科に入ったのは、「フランス語が出来たら、商社あたりに拾ってもらえるかもしれない」と思ったからだそうです。

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