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2020年08月02日10:44

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人種差別2〜人権思想の発達と人種差別問題

●人権思想の発達と人種差別問題

 人種差別問題は、人権に係る問題である。人権(human rights)の起源は、近代西欧における普遍的・生得的な権利という観念にあるが、人権の実態は歴史的・社会的・文化的に発達してきた権利である。生まれながらに誰もが持つ「人間の権利」ではなく、主に国民の権利として発達する「人間的な権利」である。私は、このような観点から拙稿「人権――その起源と目標」を書いており、人種差別問題を主題とする本稿も同じ観点から書くものである。人権思想の発達については、先の拙稿をご参照頂くこととして、本稿では第2次世界大戦後のことから簡単に書く。
 第2次世界大戦後、1948年(昭和23年)に世界人権宣言が出された。その後、1960年代から個別的な人権条約が制定された。そのひとつが人種差別撤廃条約である。人種差別撤廃条約は、国際人権規約より1年早く制定されている。そのことは、大戦後の人権思想の発達において、大きな意味を持つ。
 「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」、略して人種差別撤廃条約は、1965年(昭和30年)に国連総会で採択され、69年に発効した。
 この条約は、主に三つの要素を背景として制定された。戦後ヨーロッパでネオ・ナチズムなど人種優越主義や人種差別を唱える動きが起こったこと、1960年代に植民地から独立した国々からアパルトヘイトの廃絶を求める声が高まったこと、1964年のアメリカ公民権法や65年のイギリス人種関係法の制定のように差別撤廃の世論が国際社会に広がったことの三つである。
 条約は、前文に「人種的相違に基づく優越性のいかなる理論も科学的に誤りであり、道徳的に非難されるべきであり、及び社会的に不正かつ危険である」と記した。そして、人種差別を「人種、皮膚の色、世系または民族的若しくは種族的出身(national or ethnic origin)に基づくあらゆる区別、排除、制限または優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し、または行使することを妨げまたは害する目的または効果を有するもの」と定義した。文中の「世系」は descent の訳語で、カースト及び類似の世襲的地位の制度を意味する。このような人種差別の定義のもと、この条約は、締約国に法律及び慣行の双方において人種差別を撤廃する措置を義務付けている。
 条約のもとに実施監視機関として、人種差別撤廃委員会が設置され、締約国からの報告を審議する。締約国が条約の選択手続きを受諾している場合は、条約の侵害を主張する個人からの請願も審議する。
 2018年(平成30年)11月20日現在、当事国数は179か国、調印国数は88か国となっている。わが国は1995年(平成7年)に締約した。
 人種差別撤廃条約の1年後、1966年に、国際人権規約が国連総会で採択された。国際人権規約は、世界人権宣言のもとで、人権の理念を具体化し加盟国を直接に拘束する効力を持つ条約である。国際人権規約は、A規約・B規約という二つの規約の総称である。A規約は社会権規約、B規約は自由権規約である。これらの規約は基本的に世界人権宣言を条約化したものであり、人権の国際的保障の仕組みにおいて、最も重要な位置を占めるものとなっている。
 こうした国際人権規約の採択の前に、人種差別撤廃条約が国連で採択されたということは、大戦後の人権思想の発達において、人種差別問題が大きな問題であったことを示している。その人種差別問題の世界的な焦点の一つが、米国における黒人への差別である。
 本稿は、続いて米国の人種差別の構造と歴史について述べる。ミネアポリス白人警官黒人殺害事件とその後の抗議デモ、またそれに対する治安維持の対応は、その構造と歴史の中で理解する必要がある。

 次回に続く。

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