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2020年06月02日10:06

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仏教10〜煩悩、善悪、慈悲

●煩悩

 釈迦は、苦の原因を分析し、苦から逃れるために八正道を説き、解脱の道を示した。だが、八正道の実践によっても、容易に苦から解放されない。その理由は、無明を根源とする煩悩の消滅が容易でないからである。
 煩悩とは、心身を悩まし、乱し、煩わせ、惑わし、汚す心の作用であり、一切の妄念をいう。煩悩の根源は、貪・瞋・痴の三惑であり、それに慢・疑・見の三つを加えて、根本煩悩という。貪は、自分の好むものをむさぼり求めること。瞋は、自分の嫌いなものを憎み嫌悪すること。痴は、ものごとに的確な判断が下せずに、迷い惑うこと。慢は、おごり高ぶること。疑は、疑いを抱くこと、見は、間違った見方をすることである。部派仏教では、根本煩悩に付随して起こる枝末煩悩を詳細に分析したので、百八煩悩、八万四千の煩悩等ともいう。
 煩悩を断じた境地が悟りであり、悟りに達することによって、輪廻転生の世界からの解脱ができると仏教は教える。だが、その達成は、至難の業である。

●善悪

 因果応報の項目で善因楽果・悪因苦果、善因善果・悪因悪果について触れ、善は安楽、悪は苦悩に関するものであると述べた。これを掘り下げると、この善悪観は一般的な倫理上の善悪ではなく、解脱につながる行為が善、そうでない行為が悪となる。言い換えると、煩悩を滅して悟りに向かう行為が善、煩悩を増やして迷いを続ける行為が悪である。
煩悩は、人間だけではなく、六道と呼ばれる六つの領域を輪廻する一切の存在を煩わし悩ませる妄念であり、仏教における善悪の考察の対象は、人間界に限らず、天界、畜生界、修羅界、餓鬼界、地獄界を含む。キリスト教、イスラーム教、儒教等と違い、善悪の考察の範囲を人間界に限っていない。

●罪と罰

 善悪と関係の深いものに、罪と罰がある。罪は、何かの規範に反する行為である、仏教における規範として、釈迦が定めた五戒がある。出家者に対するもので、(1)不殺生戒、(2)不妄語戒、(3)不偸盗戒、(4)不邪淫戒、(5)不飲酒戒をいう。戒は、サンスクリット語のシーラの漢訳であり、習慣を意味する。不○○戒とは、「〜をしない習慣を身に着けよう」というものであり、禁止や命令ではない。戒は、それを守ろうとする自発的・自律的な誓いである。戒を破ったからと言って、釈迦や仏によって罰せられることはない。
 ユダヤ教=キリスト教には、モーゼの十戒(Ten Coomandments)がある。同じ戒という漢語が当てられているが、仏教の戒とは意味が違う。十戒は、神がモーセを通して古代イスラエルの民に与えた律法である。律法は、神から与えられた宗教上・生活上の命令や掟である。神から一方的に下された命令である。律法に定められた命令への違反が罪である。罪を犯すと、神から罰が与えられる。
 ユダヤ教=キリスト教では、聖書の創世記に、楽園追放が書かれている。年老いた蛇に唆されたエバは、禁断の知恵の実を食べた。そのために、人間は神に罰せられ、エデンの楽園から追放された。それゆえ、人間は罪を負っている。最初の人類が神の命令に逆らったことが人間の罪の始まりであるから、これを原罪という。原罪によって、人間は互いに敵意を抱き、男には食べ物を得るための労働、女には産みの苦しみが課せられたとする。
キリスト教では、神は人間を愛するゆえに独り子イエスを遣わし、神の子であるイエスの死は原罪を贖った。イエスの犠牲によって人間は、再び神と結び付いた。イエスをキリストと信じる者は罪の赦しを得て永遠の生命に入る。神にいたる道は一つでイエスによるのみであると説く。
 仏教には、ユダヤ教=キリスト教におけるような意味での罪はない。また、仏が下す罰もない。因縁果の法則によって、自らの行いに対する結果を受けるというのが基本的な考え方である。

●愛でなく慈悲
 
 キリスト教では、愛(アガペー、チャリティ)は、超越神である神の愛であり、至高の価値である。
 仏教では、愛ではなく慈悲を説く。漢語「慈」の原語はサンスクリット語のマイトレアである。「友情」「慈しむ」「拠り所となる」等を意味する。漢語「悲」の原語は、同じくカルナーである。「呻く」「泣き叫ぶ」「相手の身にともに泣く」等を意味する。
 キリスト教における神の愛は、創造主が被造物に対して施すものだが、仏教における慈悲は、ともに煩悩に苦しむ者、または、それを脱し得た者が同類に対して抱く友情や慈しみ、あわれみや同情である。
 仏教では、愛は欲望の一つとされる。愛は愛する対象への執着を生む。解脱を目的として、そのような愛着を離れることを目指す。

 次回に続く。

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