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2020年01月28日13:22

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インド46〜大乗仏教の無我説、空、中観派

●大乗仏教の無我説

 釈迦は、自我を現象としては認めるが、それが恒常不変のものではないことを示して、現世への執着を捨てさせ、涅槃寂静という目標を明確にして修行に専念させようとした。これが釈迦の無我説の主旨と私は考える。
 仮に自我はそれ自体で存在する実体ではなく、恒常不変の本質を持たないとするとしても、自我の存在を全く認めないならば、因果応報の主体がなくなる。行為をする者とその結果を受ける者との同一性が成り立たない。また、輪廻転生をする主体もないことになる。だが、輪廻転生する霊魂を認めないならば、解脱を目指す必要もなくなってしまう。死んだら身体の消滅とともに、五蘊が消散し、精神(我)も消滅するという唯物論的な考え方を排除できない。
 この難問を解決するために、大乗仏教はアートマン(我)としての自我を全く否定する無我説を説きつつ、自我に替わるものを打ち出す思想を発達させた。それが空の思想と唯識説である。

●空の思想

 空(シューニヤ)とは、すべてのものは、みな因縁によって起こる仮の相であり、実体性がなく固定した本質を持たないことをいう。空の思想では、説一切有部が説く事物の構成要素としての法はすべて本性を持たないとして、その実体性を否定する。この思想は、般若経の経典群で多く説かれ、ナーガールジュナ(竜樹)によって体系化された。

◆般若経
 空の思想を表した経典の代表的なものが、般若経である。般若経は一個の経典の名称ではなく、般若経という名のつく経典の総称である。紀元前後からの約100年間に個々に成立したと見られる。
 般若経に基づく思想では、すべてのものの本性は固定的なものではないことを、自性空(じしょうくう)と呼ぶ。そして、悟りに達するために、すべてのものを空と観じて執着を離れるべきことを説く。
 般若経は、悟りに達するために、六つの修行を挙げる。この修行を波羅蜜(パーラミター)という。波羅蜜には、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、般若の6つがあり、これらを六波羅蜜と呼ぶ。
 第一の布施波羅蜜は、分け与えることであり、喜捨を行なうこと、仏法について教えることなどをいう。第二の持戒波羅蜜は、戒律を守り、自己を反省すること。第三の忍辱波羅蜜は、完全な忍耐を行うこと。第四の精進波羅蜜は、努力を尽くすこと。第五の禅定波羅蜜は、心を特定の対象に集中して統一すること。第六の般若波羅蜜は、すべてを空と観じる最高の智慧を完成させることをいう。第1から第5までの5つの波羅蜜は、最後の般若波羅蜜を成就するための階梯である。
 般若経は、波羅蜜の実践を通じて、空の智恵を得ることを目指す。般若経の要諦を表す『般若心経』に「色即是空、空即是色」という言葉がある。この名句は「諸法皆空」の思想を端的に表すものである。
 空の思想は、般若経の経典群以外に、浄土系経典、『法華経』、『華厳経』等にも盛られている。

◆ナーガールジュナと中観派
 空の思想を体系化したのが、ナーガールジュナ(竜樹)である。ナーガールジュナは、生年150年頃、没年250年ごろとされる。南インドのバラモンの出身で、最初、部派仏教を学んだ後、大乗仏教に転じた。
 縁起説によれば、すべてのものは原因・条件の結果として成り立っており、何一つとしてそれ自体で存在するものはない。ところが、説一切有部は、三世実有・法体恒有の説に立って、一定の性質をもって実在する諸法相互の関係を縁起と説いた。ナーガールジュナは、『中論頌』『大智度論』等を著して、これに反論し、独立の実体や固定した本質すなわち自性を立てようとする考えを完全に否定し、あらゆるものは無自性すなわち空であると説いた。この説は、虚無を説くものではなく、それ自体で存在する実体を否定し、すべてのものを関係においてとらえる見方である。
 ナーガールジュナは、縁起を因縁によって生起することととらえているだけではなく、相互依存の関係と理解している。AとBが互いに因となり果となり、双方が互いを規定し合い、相互依存関係を通じて、AとBが同時に決まるとする。それゆえ、時間的に継起する因果関係だけでなく、非時間的な依存関係をも因縁と理解するものといえるだろう。
 空は、有ではなく無でもない。有と無は対立する概念だが、空はその両者を超えた概念である。ただし、単にそれらを否定したものではない。空は有でも無でもないが、同時に、空は有であり無であり、また、有と無以外のものでもある、とナーガールジュナは説いているからである。この論理は、アリストテレスの形式論理学及びそれを基礎とした近代西欧の論理学では、論理と認められない。だが、この言わば論理を超えた論理が、空を示唆するものである。私は、論理を使って論理を超え、言語的な思考を停止させて、悟りに導こうとするものではないかと思う。
 ナーガールジュナは、すべてのものは空であるが、それを相対的な日常的立場からは有と見るとして、空を説きながら空に執着しない中道を説いた。これを中観と称し、中観派が形成された。
 彼の思想は弟子のアーリヤデーバ (提婆) に継承され、以後の大乗仏教各派に多大な影響を与えた。シナに伝えられて三論宗となり、わが国では南都六宗の一つとなっている。
ナーガールジュナの空論は精緻なものだが難解であるため、一部に空の思想を虚無主義ととらえる誤解を生じるようになった。

 次回に続く。

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