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2019年12月15日09:36

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インド29〜ヴェーダの宗教

●ヴェーダの宗教の概要

 インド・ヨーロッパ語族は自然崇拝を行い、空、太陽、月、曙、火、風、水、雷鳴等を神とし、天を最高の神とみなした。西方に定住したギリシャ人やローマ人と同じく、東方に定住したインド・イラン人もまた天空を支配する神を信仰した。彼らは家庭では祖先崇拝を行い、祖先の霊に供物を捧げた。自然崇拝と祖先崇拝に共通するものは、アニミズムとシャーマニズムである。インド・イラン人は、単なる霊的信仰にとどまらず、宇宙は一定の秩序・法則によって維持・運行されていると考え、神々はその宇宙に内在すると考えた。彼等から分かれたアーリヤ人もまた自然崇拝と祖先崇拝を行い、宇宙の秩序や法則について哲学的な思考を行った。
 アーリヤ人は、インドでそれまでの宗教を発達させた。彼らは、膨大な文献群であるヴェーダを作成した。ヴェーダについては、概要のシュルティの項目に書いた。インダス文明は文献が残っていないから、ヴェーダがインド最古の文献となっている。ヴェーダを記した言語はヴェーダ語と呼ばれる。後に古典サンスクリット語へと発展した。ヴェーダは根本的に宗教的な文献である。ヴェーダに表された宗教的な思想や祭儀・慣習・制度等の体系を、本稿ではヴェーダの宗教と呼んでいる。
 ヴェーダの宗教は、アーリヤ人が伝承してきた神話と祭儀に根差している。アーリヤ人の神話と祭儀は、インド・イラン人、さらにインド・ヨーロッパ語族の神話と祭儀へとさかのぼる。アーリヤ人は祖先伝来の神話と祭儀を独自の内容に変えながら、ヴェーダを作成し、自らの宗教を発達させた。
 アーリヤ人がガンガーの中流域で農耕生活を行いながら国家を形成する時代に入ると、祭儀を行うバラモンの権威が高まっていった。バラモンの宗教的な権威は国王の政治的・社会的な権威を凌ぎ、カースト制の身分制度において、バラモンはクシャトリヤの上に位置するようになった。祭官が王族・戦士より上の身分にあるのは、インド文明特有の現象である。バラモンの活動は、ヴェーダの宗教に複雑に発達した祭式と極めて思弁的な性格を与えた。
 ヴェーダの宗教はヒンドゥー教の前身であり、これを原始ヒンドゥー教あるいは初期ヒンドゥー教と見る学者もいる。ただし、ヒンドゥー教は、単にヴェーダの宗教が内発的に発展したものではない。アーリヤ人がインド侵入時に持ち来った宗教が先住民族の宗教と出会い、土俗的な要素を採り入れて発達したものである。摂取した要素には、インダス文明の遺跡や遺物に見られるものも含まれる。それゆえ、ヴェーダの宗教は、アーリヤ人の文化を主体とし、そこにインダス文明や被征服民族の文化が融合した宗教である。それが、ヒンドゥー教へと成長した。そこで、本稿では、ヴェーダの宗教とヒンドゥー教を区別し、そのうえで、その関係を述べる。

●ヴェーダ文献

 アーリヤ人ほど、宗教の儀礼を重んじ、多種多様の祭儀を発達させた民族は他にない。彼らは、儀式に必要な事柄を複雑詳細に作り上げた。それがヴェーダ文献である。
 ヴェーダはシュルティ(天啓聖典)として、ヒンドゥー教の聖典中、格別のものと位置付けられている。基本的に祭儀の書であり、詩歌や歴史をまとめたものではなく、思想や道徳を体系的に記述したものでもない。主な内容は、神々への賛歌、歌詠、祭詞、呪詞、祭式の規定や神学的説明、哲学的思索等である。
 ヴェーダは、紀元前15世紀から前5世紀の間に成立したとされる。基本的に口承で伝えられた。文字に書くことがあったとしても、伝授における補助的な行為だった。
 ヴェーダは、複雑で膨大な文献群であり、その中には矛盾する表現や対立する見解が多くある。ヴェーダ研究の権威・辻直四郎は「ヴェーダの組織を非常に複雑化した原因は、つとに起こった多数の学派の分化に帰せられる」、また「時代とともにヴェーダ学派の分裂は、ますます複雑の度を増し、これに伴って文献の量は膨張した」と説明している。

◆祭官と四つのヴェーダの関係
 ヴェーダの宗教において、神々と人間の媒介をしたのは、祭官だった。祭官はヴェーダを伝承し、祭儀を執り行った。彼らは、ヴェーダの言葉に内在する不思議な霊力、神秘力を意味するブラフマンを有する者とされ、そこからバラモンと呼ばれた。
 バラモンの祭官には、4つの役職があった。ホートリ祭官は、神々を祭場に招き、讃誦によって神々を称える。彼らに属するのが、『リグ・ヴェーダ』である。ウドガートリ祭官は、『リグ・ヴェーダ』に含まれる詩節を一定の旋律にのせて歌う。彼らに属するのが、『サーマ・ヴェーダ』である。アドヴァリウ祭官は、祭祀の実務を担当し、供物を調理して神々に捧げる。彼らに属するのが、『ヤジュル・ヴェーダ』である。ブラフマン祭官は、祭儀全般を総監する。彼らに属するのが、『アタルヴァ・ヴェーダ』である。
 『リグ・ヴェーダ』、『サーマ・ヴェーダ』、『ヤジュル・ヴェーダ』の三つは、古来三ヴェーダとして絶大の権威を発揮した。『アタルヴァ・ヴェーダ』は、呪法を主とするものゆえ、格下とされたが、これらの4つのヴェーダをまとめて、『サンヒター』(本集)という。『サンヒター』を以てヴェーダと呼ぶこともある。

 次回に続く。

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