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2019年10月16日09:46

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インド9〜ヒンドゥー教の三神一体説

◆三神一体説
 ヒンドゥー教には、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの三神の一体を説く思想がある。これを三神一体説(トリムールティ)という。この思想は、プラーナ文献に明確な形で現れた。
 ヒンドゥーの世界観では、世界の創造・維持・破壊が幾度も繰り返されると考える。三神一体説では、ブラフマーが創造、ヴィシュヌが維持、シヴァが破壊を司るとする。そのうえで、これら異なった役割を持つ三神は、実は同じ一つの最高神であり、三神は一体だと説くのである。そのうえ、単に一つの神が三神の姿で三つの側面を持つとするのではなく、背後に顕現しない根本原理であるブラフマンがあるとする。そして、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァは、根本原理の現れであるとするものである。
 三神一体説は、高度に理論的で哲学的な説であり、ヒンドゥー教徒の多くが信奉するものとはなっていない。ブラフマーは、哲学的・神学的には重要な存在であるにも関わらず、8世紀にはじまる中世以降は勢力を失い、他の二神が圧倒的な存在となっている。今日ブラフマーを単一の主神として祀った祠堂は極めて少ないという。
 現在は、ヴィシュヌ宗では、ヴィシュヌが創造・維持・破壊を司ると信じ、シヴァ宗では、シヴァが創造・維持・破壊を司ると信じる。それぞれの神を信じる人にとっては、自ら信じる神こそ創造・維持・破壊のすべてを司る最高神となっている。
 森本達雄は、ブラフマーの凋落とヴィシュヌ、シヴァの隆盛について、『ヒンドゥー教――インドの聖と俗』に、次のように書いている。「大衆の求める神は、宇宙・世界の根本原理や秩序の哲学的・思弁的な真理(神)ではなく、信愛の対象としての神である。世の悪を赦さず、正義を行い、病める者、悩める者に慰めと癒しを与え、貧者や薄幸の者に希望と助けの手を差し伸べる、呼べば答えてくれる神である。それは永遠不滅でありながら、時間の中にやどる神であり、絶対無形の一なる存在でありながら、衆生の救済のために臨機応変さまざまに姿を変えて現れる、多くの名を持つ権化神である」と。衆生とは、サットヴァの漢訳であり、生きとし生けるものを意味し、輪廻転生を繰り返すすべてのものをいう。

◆三大神以外の神々
 ヒンドゥー教では、最高神以外に、多数の神々が信仰されている。
 まず多くの女神がある。ヴェーダの神々は男性神が中心的だったが、ヒンドゥー教では女神の存在が大きくなった。代表的なものを挙げると、ヴィシュヌの妃とされるラクシュミーは、富と幸運の女神である。仏教に採り入れられ、シナでは吉祥天と訳された。シヴァの妃には、ヒマラヤ山の神の娘パールヴァティー、ヴィンディヤー山の民の土着神ドゥルガー、ドゥルガーの内から誕生したとされるカーリーなどがある。もともとその土地の女神として信仰されてきた神を、シヴァの妻とすることによって組み込み、シヴァ信仰を広めたものと見られる。ブラフマーの妃とされるサラスヴァティーは、初めは実在した同名の川の化身だったが、言葉・音楽・芸術・学問などを司る女神となった。仏教に採り入れられ、シナでは弁才天と訳された。日本では七福神の一柱とされ、弁財天とも書く。いわゆる弁天様である。
 ヴィシュヌ、シヴァ、ブラフマーはそれぞれ最高神ともされる神格だが、そうした神に妻があるとしたところに、ヒンドゥー教の一つの特徴がある。神を男性のみで自立したものとせず、男性原理に対して女性原理を補い、男女両性の一対を以て完全なものと考える思想が、ここに見られる。シナの概念を用いて言えば、陰陽一体の思想ということができる。シナでは陰陽の調和を重んじながら、神々の夫婦という考え方は発展しなかった。キリスト教では、イエスという男性への信仰に対して、後からマリアへの崇敬が現れた。イエスとマリアの関係は子と母であるが、ヒンドゥー教においては、神々の夫婦である。ここには、性愛を喜び、生殖を肯定し、子孫の繁栄を願う考え方が現れている。
 次に、上記以外の神々を仰ぐ宗派について簡単に述べると、象頭のガネーシャ神を奉る人々は、ガーナパティヤ派と呼ばれる。ガネーシャは、シヴァの子供で象の頭を持ち、富と繁栄、智恵と学問を司る神である。鼠に乗る。シナでは、歓喜天(聖天)と訳された。童子神クマーラを仰ぐ人々は、カウマーラ派と呼ばれる。ヴェーダに現れる太陽神の一つ、スーリヤを崇める人々、サウラ派と呼ばれる。
 他に、宗派を形成するほどではなく、特定の地域や村などでのみ信仰される神々もある。ヴィシュヌやシヴァのような主宰神やその係累への信仰と、そうした神々への信仰が、インドの社会では排斥し合うことなく共存している。

 次回に続く。

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