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2019年08月25日09:39

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キリスト教242〜フランスの移民問題とキリスト教

●フランスの移民問題とキリスト教

 2017年4〜5月のフランス大統領選挙は、世界的な関心を集めた。前年6月イギリスが国民投票でEUを離脱を決めたので、フランスはどうなるかが注目されたのである。
 英国のEU離脱を「ブレグジット(Brexit)」という。これに対し、フランスのEU離脱を「フレグジット(Frexit)」という。英国は、EUでは外様である。だが、フランスは、ドイツと並ぶEU二本柱の一つである。独仏の連携が、ヨーロッパにおける広域共同体を生み出し、EUへと発展させてきた。また、英国と違って、フランスはユーロ使用国である。それゆえ、フレグジットは、ブレグジット以上に、EUに強力な打撃を与えるに違いない。フランスが離脱すれば、その他の欧州各国でも、反EU、脱ユーロの勢力が増進し、次々に離脱が進むと予想される。EUは単なる規模の縮小にとどまらず、ドイツを中心とした再編を余儀なくされ、解体の道を進むかもしれない。こうしたことが予想される中で、2017年のフランス大統領選挙は行われた。
 今日、フランスは、欧州諸国の中でもイスラーム教徒の絶対数が多いことで知られる。比率も、人口の8%ほどを占める。私は、どこの国でも移民の数があまり多くなると、移民政策が機能しなくなって移民問題は深刻化すると考える。その境界値は人口の5%と考える。フランスの人口比率は、その境界値を超えてしまっている。
 2015年(平成27年)11月13日パリで同時多発テロ事件が起こり、130人が死亡し、約350名が負傷した。フランスでは第2次世界大戦後、最悪のテロ事件となった。
 戦後、フランス政府は、移民として流入するマグレブ人イスラーム教徒に対して、フランス社会への統合を重視してきた。だが、統合はうまくいかず、フランスの移民の多くは今日、貧困にさらされている。失業者が多く、若者は50%以上が失業している。彼らの多くは、差別や就職難等について、強い不満を持っている。そうした者たちの中から、イスラーム教過激派の思想の影響を受ける者が現れている。ISILなどが流し続ける「自国内でのテロ」の呼び掛けに触発される者もいる。こうした「ホームグロウン(自国育ち)」と呼ばれるテロリストの増加が、パリ同時多発テロ事件によって浮かび上がった。
 第2次世界大戦後、戦後フランスの政治を担ってきた主要政党は、共和党と社会党である。ともに非宗教的な政党である。両党の違いは、自由主義と社会主義の違いである。だが、どちらもEUを支持しており、EU支持勢力の中の右派と左派の違いでしかない。両党ともグローバリズム的なリージョナリズムに拠っている。仏共和党は、1990年代からイギリスやアメリカの新自由主義の影響を強く受けて、新自由主義が主流となっている。仏社会党は、社会主義ではあるが、穏健な民主社会主義である。これらの政党は、政治思想の違いはあるが、脱国家・脱国民の方向性を共有している。ヨーロッパにおいて、グローバリズム的なリージョナリズムに対抗する思想は、反グローバリズムかつ反リージョナリズムのナショナリズムである。この立場に立つのが、国民戦線(FN)である。
 FNは、ユダヤ人排外主義・反移民とネイションの強化を主張するジャン=マリー・ルペン党首に率いられて、1980年代に勢力を拡張した。「極右」と呼ばれるが、ファシズムではなく、リベラル・ナショナリズムの政党である。娘のマリーヌが2代目党首になると、排外主義のトーンを下げ、社会保障重視政策を掲げて支持者を拡大してきた。
 マリーヌ・ルペンは、2015年11月、パリで同時多発テロが起きた後、「イスラーム主義はフランスの価値観に合わない」と移民受け入れの適正化を主張し、EUが進める自由貿易を批判して、社会党の基盤である労働者層に支持を広げてきた。2016年6月、英国のEU離脱が決まると、ルペンはこれを歓迎し、「フランスにはEU離脱のための理由が、英国以上にある。その理由はフランスはユーロ圏に属し、シェンゲン協定に加盟しているからだ」と語った。シェンゲン協定は、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定である。域内の移動の自由を保障する取り決めである。
 2016年11月に米大統領選挙でトランプが勝利した時、マリーヌ・ルペンは、「イギリスがEU離脱を決めたのに続いて、トランプが勝利した。我々はトランプが差し出した手を握って進まねばならない」と述べた。
 彼女の父ジャン=マリーは、2002年の大統領選で社会党候補を破って決選投票に進んだ。だが、社会党はFN政権を阻止するため、保守系のシラク大統領(当時)を支持し、シラクが約8割の得票率で圧勝した。娘マリーヌにとっては、親子二代の大統領への挑戦となっている。経済改革に失敗した共和・社会の二大政党及び既成政治家に対する批判がかつてなく強まるなか、マリーヌは2017年の大統領選挙に立候補した。
 彼女は、大統領に当選したら、「EU離脱の是非を問う国民投票を実施する」と公約した。「離脱により、わが国はドイツや欧州官僚から主権を取り戻す」と主張している。FN副党首のフロリアン・フィリッポも、「我々が政権の座に就いたら、まず6カ月以内にユーロの使用を取りやめ、フランを再導入する」と断言した。
 仏大統領選は2回投票制で、最初の投票で過半数を得票した候補がいない場合、上位2人が決選投票に進む仕組みである。第1回投票では中道系独立候補の新星エマニュエル・マクロンが1位となり、ルペンは僅差の2位だった。マクロンは、ロスチャイルド系の銀行の副頭取だった俊英であり、背後にはロスチャイルド家と欧米の支配階層、巨大国際金融資本家がいる。マクロンとルペン、二人の一騎打ちとなった決選投票では、保守・中道・リベラルの票がマクロンに集まり、フランス史上最も若い39歳の大統領が誕生した。得票はマクロン66.1%、ルペン33.9%の大差だった。この結果、グローバリズム的リージョナリズムが継続され、フランスはEUとユーロの参加国の地位を維持した。
 大統領選挙に続いて、2017年6月には国民議会選挙が行われた。国民議会は下院に当たる。ここでは、マクロン大統領が設立した中道新党「共和国前進!」が単独過半数を獲得した。協力政党の「民主運動」と合わせて350議席、定数577議席の6割超を占めた。仏政界を長年けん引してきた共和党・社会党の2大政党は大きく議席を減らし、政治地図が大きく塗り替わった。一方、国民戦線は、大統領選挙とは打って変わって、勢いを失い、僅か8議席しか獲得できなかった。これが一時的な後退なのか、決定的な退潮なのかは、まだ予測できない。
 フランスには、キリスト教の名を冠した政党はない。かつてキリスト教民主主義に近い旧フランス民主連合があったが、2007年に分裂した。同党からキリスト教民主主義者の大半は離脱し、残りの支持者の多くは「民主運動」に移ったと見られる。「民主運動」は、マクロン政権で政権与党となっている。それゆえ、移民を規制したり、キリスト教に基づく伝統文化を積極的に守ろうとするような、有力なキリスト教系の政治集団は、フランスには存在しない。

 次回に続く。

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