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2019年07月20日14:19

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キリスト教227〜妊娠中絶、同性愛、同性結婚の禁止とそれへの反対

●妊娠中絶、同性愛、同性結婚の禁止とそれへの反対

 キリスト教は、性行動については、人工妊娠中絶・避妊・同性愛などを禁止してきた。禁止の理由は、聖書に神の言葉として「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。」(創世記1章28節)とあり、また十戒の一つに「殺してはならない。」とあることによる。中絶を殺人に等しいものと考えるわけである。ローマ・カトリック教会では、避妊も原則として禁じている。同性愛は男女の性愛による生殖に反するものであり、『レビ記』20章13節に「彼らの行為は死罪に当たる。」 と記されており、宗教上の罪と見なされる。
 こうした教えの根底にあるのは、ユダヤ人・ユダヤ教の思想である。古代イスラエルでは、子孫を残すため以外の性行為は、すべて違法とされていた。自慰や同意の上での婚前交渉も死罪とされた。その理由として、古代のユダヤ人は、周囲を大国や有力民族に囲まれ、また、しばしば民族存亡の危機に立たされていたので、民族の純血性を守りながら、人口を維持し増加する必要があったことが挙げられる。受胎した胎児を殺す中絶や、生殖に結びつかない同性愛は、民族の存続や繁栄という目的に反する行為として断罪したものだろう。
 現代のキリスト教社会では、キリスト教の権威の低下や世俗化が進行し、また個人の自由と権利が尊重されるようになってきたことにより、人工妊娠中絶・避妊・同性愛などを認めるべきだという意見が増え、大きな社会問題となっている。
 特にアメリカ合衆国では、人工妊娠中絶、同性愛、同性結婚をめぐる論争が活発に行われており、宗教的・道徳的な価値観の鋭い対立が見られる。大統領選挙・連邦議会選挙でも争点の一つとなっている。
 ピュー・リサーチ・センター(PRC)は、中絶・同性愛・同性結婚について、米国民の意識調査を行っている。PRCの2014年の調査結果では、次のような結果だった。
 まず妊娠中絶については、米国人のキリスト教徒全体では、「すべての場合か多くの場合は合法(legal)」(以下、「合法」)が45%、「すべての場合か多くの場合は非合法(illegal)」(以下、「非合法」)が51%、「わからない」が4%という回答だった。非合法とする意見が過半数である。教派別にみると、主流派プロテスタントでは「合法」が60%、「非合法」が35%で、中絶を認める意見が多い。福音派プロテスタントでは、「合法」が33%、「非合法」が63%で、中絶を認めない意見が多い。カトリックでは、「合法」48%、「非合法」47%と拮抗している。一般に最も保守的と思われているカトリックより、福音派プロテスタントの方が、中絶に対して否定的な意見が多い。
 次に同性愛について、キリスト教徒全体では、「容認されるべき」(以下、「容認」)が54%、「やめさせるか、防がれるべき(should be discouraged)」(以下、「非容認」)が38%、「どちらともいえない」が4%、「わからない」が4%という回答だった。容認する意見が過半数である。教派別にみると、主流派プロテスタントでは「容認」が66%、「非容認」が26%で、同性愛を認める意見が多い。福音派プロテスタントでは、「容認」が36%、「非容認」が55%で、同性愛を認めない意見が多い。カトリックでは、「容認」70%、「非容認」23%で、主流派プロテスタントより、同性愛に対して肯定的な意見が多い。
 次に同性結婚について、キリスト教徒全体では、「強く賛成または賛成」(以下、「賛成」)が44%、「強く反対または反対」(以下、「反対」)が48%、「わからない」が8%という回答だった。同性愛については容認する意見が過半数だったが、同性結婚については反対が賛成を上回っている。教派別にみると、主流派プロテスタントでは「賛成」が57%、「反対」が35%で、同性結婚を認める意見が多い。福音派プロテスタントでは、「賛成」が28%、「反対」が64%で、同性結婚を認めない意見が多い。同性結婚を認めない意見の割合は、同性愛を認めない意見の割合よりより、9ポイント多い。カトリックでは、「賛成」が57%、「反対」が34%で、主流派とほぼ同じ数値となっている。
 この意識調査の結果をもとに、大まかに言うと、キリスト教の内部では、主流派プロテスタントには、中絶を合法と考え、、同性愛を容認し、同性結婚に賛成する人が比較的多い。福音派プロテスタントには、中絶を非合法と考え、、同性愛を容認せず、同性結婚に反対する人が比較的多い。カトリックでは、中絶の賛否は拮抗し、同性愛を容認する人が主流派以上に多く、同性愛に賛成する人は主流派と同程度に多い。政党別にみると、共和党は保守的で、キリスト教の伝統的な規範を守ろうとし、民主党はリベラルで、個人の選好を優先する傾向がある。政治思想においては、保守派は中絶を非合法と考え、同性愛を容認せず、同性愛に反対する傾向があり、リベラルは中絶を合法と考え、同性愛を容認し、同性結婚に賛成する傾向がある。

●個人の選好を優先するリベラリズム

 アメリカは、自由を中心価値とする国家である。自由を中心価値とする思想をリベラリズムという。リベラリズムは、もともと国家権力から権利を守るために権力の介入を規制する思想・運動だった。17世紀から近代西欧科学が発達し、18世紀には自然科学を踏まえた啓蒙主義が展開された。19世紀後半以降は、自然科学をモデルとする科学的合理主義が支配的になり、社会科学では事実と価値が峻別されるようになった。事実の領域では、認識や判断の客観性や合理性が厳格に問われる一方、価値の領域では、価値は状況や判断者によって異なり得る相対的な観念であるとする考え方が現れた。これを価値相対主義という。価値相対主義と結びついたリベラリズムは、価値の領域に対して、政府が介入しないことを求める。そして、近代国家は、価値中立的な政府が統治する国家となった。価値相対主義が支配的になった社会では、価値は主観的なものとされ、道徳も政治も個人の選好の問題へと矮小化される。その結果、現代のリベラリズムは、個人の選好の自由を追求するものとなっている。いわば選好優先的なリベラリズムである。選好優先的なリベラリズムは、あらゆる物事の判断を個人の選好に委ねる。それは、性行動にも及ぶ。
 こうした選好優先的なリベラリズムの思想に強い影響を与えているのが、フランスの哲学者ミシェル・フーコーである。フーコーは、権力のミクロ分析を行い、画期的な権力論を提示した。その基本にある思想は、あらゆる社会関係に闘争を見る脱家族・脱国家の個人主義的リベラリズムである。この個人主義的リベラリズムは、あらゆる道徳的規範より、個人の選好を優先する。フーコーは、性行動においても個人の自由と好みを守る思想を打ち出した。フーコーは、生命の維持・繁栄のための性愛を拒絶し、家族の自然的・生命的な関係を拒否し、家族に基づく国民共同体に反発する。彼の反権力・反国家の姿勢は、欧米の左翼系市民運動やフェミニズム、マイノリティの運動に強い影響を与えてきた。フーコーの思想は、彼が同性愛者であることと切り離せない。
 性行動においても個人の選好を優先するリベラリズムは、家族より個人、民族より個人、国民より個人、人類より個人の自由と権利を優先する。選好優先的リベラリズムの思想を持つ者は、人工妊娠中絶、同性愛、同性結婚を個人の自由と権利として擁護すべきものと主張する。
欧米でこうした主張が現れ、勢いを増している背景には、キリスト教の教義とそれへの反発という宗教的な事情がある。

 次回に続く。

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