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2020年07月25日07:12

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日本人形の憂鬱 10.2

何度か検査入院して本格的に長期入院になった頃の話である。
友達もいない一人きりの生活であった。
憧れの一つ上の少年の事を思い出すのであった。
もう、現実世界に居ないのである。
恋多きとは言えないほど人生に疲れていた。
わたしの気持ちは……。
窓から心地よい風が舞い込み、カーテンを揺らしていた。
「検温ですよ」
若い女性の看護師さんが体温計を持って部屋に入ってくる。
それは憧れであった。
「今日も少し体温が高めだけど大丈夫でしょう」
看護師さんが帰っていくと。
わたしはシーツに包まる。
改めて体を見回すと、細い腕は病弱な体を象徴していた。
きっと、同情だ。幼くして入院しているわたしに対しての同情に違いない。
わたしは親に無理を言って色の入ったリップを頼んだ。
翌日に手鏡を使い桜色のリップを口元に付ける。
恋心をリップに乗せて気持ちはお姫様であった。
「検温ですよ」
看護師さんが入ってくるとわたしは急いで唇を拭く。
ただ、綺麗と言って欲しかったのに。
わたしは、素直じゃない、素直じゃない、素直じゃない。
わたしは内向きの性格が嫌になるのであった。
「今日は月に一度の採血ですよ」
テキパキと採血の準備かされて針が腕を刺す。
この想いも検査されたら……。
『妄想力陽性』
わたしは深い妄想に浸っていた。
検温も終わり、看護師が帰っていくと、わたしは呼び止める。
「もし、この病気が治ったなら……」
わたしは小学校の先生に成りたかった。
この病気が治ったなら、わたしの姿を見て欲しかった。
「今日も体調は良さそうですね」
そう言うと看護師はいなくなる。
わたしは今日もシーツに包まり自己嫌悪になるのであった。
……。
「何しているの?」
わたしが自宅でシーツに包まっていると母親に怒られる。
この包まる癖は入院中に付いたものだ。
あの頃の憧れを思い出していた。


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