それはまだ肺の病気で入院してた頃のお話である。
窓から心地よい風が舞い込み、カーテンを揺らしていた。
「検温ですよ」
若い男性の看護師さんが体温計を持って部屋に入ってくる。
それは初恋であった。
「今日も少し体温が高めだけど大丈夫でしょう」
男性看護師さんが帰っていくと。
わたしはシーツに包まる。
改めて体を見回すと、細い腕は病弱な体を象徴していた。
これではわたしを見てくれない。
わたしは親に無理を言って色の入ったリップを頼んだ。
翌日に手鏡を使い桜色のリップを口元に付ける。
恋心をリップに乗せて気持ちはお姫様であった。
「検温ですよ」
男性看護師さんが入ってくるとわたしは急いで唇を拭く。
素直じゃない、素直じゃない、素直じゃない。
わたしは内向きの性格が嫌になるのであった。
「今日は月に一度の採血ですよ」
テキパキと採血の準備かされて針が腕を刺す。
この想いも検査されたら……。
『初恋陽性』とか。
わたしは深い妄想に浸っていた。
検温も終わり、男性看護師が帰っていくと、わたしは呼び止める。
「もし、この病気が治ったなら……」
告白は途中で途切れてしまった。
「今日も体調は良さそうですね」
そう言うと男性看護師はいなくなる。
わたしは今日もシーツに包まり自己嫌悪になるのであった。
……。
「何しているの?」
わたしが自宅でシーツに包まっていると母親に怒られる。
この包まる癖は入院中に付いたものだ。
あの頃の初恋を思い出していた。
ログインしてコメントを確認・投稿する