小学生の頃に歴史好きの父親に
釣れられてなにわ海の時空館に連れて
いってもらった。
まだできて数年経っただけだったが
館内併設のレストランはすでに
閉店していて、スタッフも雑談している
ような状態であった。
でも、金をかけて作っただけあって
原寸大の回船や入り口から建物へ伸びる
海中トンネルなど小学生の私は圧倒的な
不思議な雰囲気に飲まれた。
館内はガランとしていて
人はほとんどいない。
閉館が近づくとガラスの球体ドームから
夕日が差し込んでまるで光に包まれるような
感覚になった。
それから十年たって
父親は死んだ。
妹も行方不明
家も引っ越した
私は大人になった。
海の時空館は来月閉館する。
心にあの風景は残っていたけれど
それを大人になってもう一度見たいとは
思わなかった。
記憶はもうぼやぼやとしている
父親や妹の声も姿もぼやぼやしている
私が覚えているのは
海底トンネルの天窓から見えた魚と
包み込むような夕日だけだった。
もしかするとそういう記憶で蓋をしているかも
しれない。そのほうがいいのかもしれない。
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