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2019年10月18日22:46

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Barry Harrisさんのこと

今夜はじっくりジャズピアニストのバリー・ハリスさんについて書いてみようと思います。以前にもYahoo!掲示板に書いたことのある内容の焼き直しになってしまうけれど、Yahoo!掲示板が消えてしまったので、ここに再現いたします。

私とバリーさんの出会いは、新宿にあったコタニレコードで、視聴盤を店内で流していたのを耳にして、いっぺんに虜になってしまったのです。
そのアルバムは『Vicissitudes』(邦題は『有為転変』)という、ドイツのMSPというレーベルから出ていたものでした。今でもバリーさんのベストアルバムだと思っていますが、残念ながらCD化されておらず、今では幻の名盤となってしまっている、ピアノトリオのアルバムです。

バリー・ハリスというと、一般には「バド・パウエルの模倣者」「小型版バド・パウエル」「スリルのないバド・パウエル」などと言われます。たしかにパウエルの曲を録音でもステージでも多く取り上げていますし、NYのジャズクラブでも、麻薬でよれよれになっていたパウエルとステージを交互に出演していたこともあります。デューク・ジョーダン、ケニー・ドリューらと共に、パウエル派と言われるのも、いたしかたありません。

しかしハリスさんはあと二人のピアニストからも大きな影響を受けています。一人は独特のスタイルでジャズ特有の和音を開発し、作編曲面でもジャズに寄与しているセロニアス・モンクです。ジャズ界のパトロンであったモニカ男爵夫人から、ハリスさんはモンクの後、生活の面倒を見てもらった時期があります。バリーさんの演奏には、このモンクから学んだ独特の「間」があります。これはパウエルにはないものです。ハリスさんがパウエルのたんなるエピゴーネンではないことが、よく聴くと、分かります。
もう一人はスイング期の天才ピアニスト、アート・テイタム。バリーさんはソロピアノを弾くとき、この両手を一体化させたテイタム・スタイルの演奏を聴かせてくれます。右手でメロディー、左手でコード(和音)とリズムを取る、モダンジャズのパウエル・スタイルとは大きく異なる演奏です。

また、バリーさんはモダンジャズの創始者、アルトサックスのチャーリー・パーカーの曲もよく演奏しています。彼がNYに進出してくる前、まだデトロイトにいた時、ひと晩だけパーカーと共演したことがあって、それは忘れられない思い出なのだそうです。
デトロイト時代のハリスさんというと、マイルス・デイヴィス、リー・コニッツなどとも共演しており、「デトロイトに行くなら、ピアニストを連れて行く必要はない」と言われたほどでした。

このように見てくると、バリーさんは、バド・パウエルの影響下にありながらも、スイング期から、パウエル以降のハード・パップと呼ばれる時代までも抱合した、ひと回り大きな音楽を体現するピアニストだと分かります。

演奏家としてだけでなく、後進の教育にもバリーさんは大きな足跡を残しています。同じデトロイト出身のピアニスト、トミー・フラナガンはバリーさんと齢はそう違いませんが、デトロイト時代にバリーさんから手ほどきをされています。セロニアス・モンクの追悼ビデオでは、バリーさんが「モンクはこうピアノを弾いていたんだよ」と実演してみると、フラナガンは直立不動の姿勢で「うん、うん」とうなずいていました。
さらにデトロイト出身のトランぺッター、リー・モーガンやアルトサックスのチャールス・マクファーソンもバリーさんの弟子で、何枚かのアルバムでバリーさんの助演を受けています。
「ウェザーリポート」のリーダーであったジョー・ザビヌルも、フュージョンに転向する前、キャノンボール・アダレイのグループに雇われる前に、バリーさんの元を訪れ、「アメリカでやっていくには、どうすれば良いか」教えを乞うています。
キャノンボールといえば、名高いアルバム『Them Dirty Blues』の中の『ワークソング』のオリジナルテイクはバリーさんが演奏しています。
ただ、ファンキーでけしかけるようなステージングが多かったキャノンボールの音楽にはバリーさんはなじめなかったのでしょう。短期間で彼のグループから抜けてしまいました。

日本人にもバリーさんのジャズ塾に入門した人が何人もいます。もっとも有名なのは、ニューミュージックの歌手との共演も多い、国分弘子でしょう。急逝してしまった札幌で活躍していた福居良もそうでした。バリーさんは自ら歌も歌うので、歌の分野の指導もしています。齢90を超さんとしている今でも、バリーさんのジャズ教室は続けられています。

知る人ぞ知るといった存在で、知名度や華やかな人気とはほど遠いバリーさんですが、日本では尚美学園から特別講師として待遇されているので、時折、文京区のシビックホール
という比較的大きな会場で、数年に一度、コンサートを開いています。

私はバリーさんの音楽に惹かれ、リーダー作はもとより、サイドメンとして参加した100枚以上のアルバムをほとんど持っています。鈍色(にびいろ)の彼のピアノの音に触れているのは至福のひと時です。

バリーさんはGAYなので子供はいませんが、NYや日本で多くの弟子に囲まれ、孤独とはほど遠い生活を送っているようです。
1950年代から活躍しているジャズメンで今でも現役なのは、テナーサックスのベニー・ゴルソン、アルトサックスのリー・コニッツ、そしてこのバリーさんくらいしかいません。いつまでも長生きして、演奏も続けてもらいたいです。
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