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2019年02月23日09:54

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三つの問い・不思議な体験 2

(前の投稿のつづきです。)

 「本当はこれこそが一番大切だと思っていたものなんです。」
そう言って私は話を切り出した。
 「外を一人で歩いていると沢山の人が声をかけてくるんです。別にこまっているわけではなくても大丈夫ですかと聞かれます。それはとてもありがたいことなのですが、何度も断るだけでもとても疲れてしまうんです。それにもまして辛いのは、そのように話しかけてくる人の多くが私の体に触れてくることなんです。まったく知らない人に触られることは、それが同姓であっても恐怖を感じるということを、皆さん知らないようなんです。」
先生は私の気持ちや状況を把握するために質問をはじめた。
 「ええと待ってください。それはどこを具体的に触られるのですか?」
 「肘や肩を掴まれたりすることもあれば、背中や腰を撫でられたり固定するように抱え込まれることもあるんです。」
過度に動きを封じられれば重心が狂って危険ですらあるのだ。
 「助けて欲しいとは思っていないんですか?」
 「基本的にはそうなんです。私はただ歩いているだけなのでそっとしておいて欲しい。困った時には声をかけるので、ニコニコ、という気持ちなんです。」
 「声をかけられる頻度はどれぐらいなのですか?」
 「たとえばここから2時間の学校の往復をしたことがあるのですが、その時七人に声をかけられて、その内の5人が触れてきました。私はそういうことを避けたくてなるべく駅員さんと歩くようにしているのですが。」
 「そうなのですね。あなたが家に入ってきた時に私も触りましたよね。あれはどうなのですか?」
 (個人の家で誰か分かっている方に触れられるのには抵抗がありません。助けようとする気持ちが伝わってきますから。)
先生は私の気持ちをまだ完全には理解しきれていないと感じていたのかもしれない。けれども、
 「見てみましょう」
とおっしゃった。カードを開いて先生は叫ぶように言った。
 「すっごくびっくりするのね。」
 「そう、そうなんです。心臓がバクーンてなるんです。」
実は死ぬ、という恐怖を感じるほど毎回驚いているのだ。
 「ああ、本当に酷いストレスになっているのね。」
 「そうなんです。外を歩きたくない、と何度も引きこもりました。」
 「あなたの周りには悪意を感じないの。みんな何かしたくて純粋に声をかけているみたい。何も考えずに体に触れているようです。」
 「そうなんだろう、とは思うんです。ただその中に悪意のある人がときどき混じっているので、どうしても構えてしまうんです。そもそも目が見えていれば相手のパーソナルスペースに入ることはしないし、まして他人が体に触れることは失礼になりますよね。見えないとそのルールにあてはめてもらえないことがとても辛いと感じます。時には嫌だという態度を示したことで相手を傷つけているのではないか、ということがとても不安です。」
 「ですが、あなたはとても上手に対処していらっしゃるようですよ。どんな風にしているのですか?」
 「傷つけないように柔らかい言い方で触らないで欲しいと頼んだり、肘を持たせて欲しいとお願いするようにしているんです。」
 「あぁ、なるほど。もしもおかしな人がいたら大声をあげて良いのですよ。ですが、悪い人がいたらそれも分かると出ていますが。」
 「おかしいなと思ったら逆にどこまで行くのかきいてみたりします。悪いことを考えている人だとこれで逃げてしまうんです。」
 「わぁ、そうなんですね。」
 「人を傷つけていないか本当に心配していたのですが、がんばりを認めてもらえてとてもほっとした気分です。」
この時、この世界のどこかに私を見ている存在がいるのかもしれないと感じた。そしてその存在は、私自身が自分にしているよりずっと高く、私を認めてくださっていることが嬉しかった。
 「あなたは真っすぐ前を向いてとても幸せそうに笑顔で歩いているそうなの。だから、助けたい。声をかけたいと思うみたい。断られたとしても自分が傷つくことはないだろうと思えるから話しかけやすいのね。」
 「優しいオーラを纏って歩きたいな、といつも思っているんです。」
それができていることが嬉しかった。そして、私はきっと歩くことが嬉しくてたまらないのだろう、とも思った。
 「声をかけられないようにする方法は二つあります。一つは慣れてしまうことです。触られても驚かなくなるようにしてみるという方法です。」
 「すべてが善意からだとイメージできたら可能かもしれません。ただ、やっぱりびっくりはするのだろうな。」
 「ここにスターというカードが出ていて、これはどんな時でもとても良いカードなの。そしてこれが意味するのは……」
先生は少し考えているようだ。
 「人気者ということですね?」
私が笑いながら思ったことをつたえてみる。
 「そう、そうなんです。一般的には目が見えていないと誰にも声を掛けられたくない、というオーラを放っていてもし話しかけたとしてもぶっきらぼうに断ってしまうことが多いようなんです。そういう人には話しかけにくい。しかも基本的には障がいのある人とは関わりたくない、という気持ちになる人が多いみたいなの。そういう状況なのだけれども、あなたは何かしたい、声をかけたいと感じる人のようなんです。」
 視覚障害のある者が一人で歩く。それは想像をはるかに超えて難しく、だから緊張もしている。気を散らさないためにも人から声をかけられたくない、という気持ちになるのは自然なことだと思う。ただ、どうして私が笑顔でいられるかと言えば、それは歩けることが嬉しくてたまらないからだ。迷うことさえ冒険の一つだと思ってワクワクしているところがあるかもしれない。そんなことを思いながら確認してみる。
 「ということは、やっぱり人気者ということでそれを受け入れればよいのでしょうか……。」
私は笑っていた。そうだったら良いなと思っていたけれども、それは私の傲りなのではないか、と心配にもなっていたからだ。
 「はい。外出時に何人に声をかけられたかの数を数えて、私って人気者!と思ってみるのはどうですか?」
 「年間100人を超えたとなったら、たしかに楽しいですね。」
体に触れられる恐怖はまだある。けれども、それを上回る楽しみができるならどうにかなるかもしれない。
 「もう一つ方法があります。」
もっと良いものだろうか?私は期待を込めて次の言葉を待った。
 「それは多くの視覚障がい者がしていることをまねることなんです。人に声をかけられたくないというオーラを出し、もし何か言われたら強い口調で断る。このようにすれば、声はかからなくなります。」
 「ええ!!私は癒しのオーラを出して歩きたいと思っていたのですけれども。」
究極の選択をしなくてはならないようだ。先生は言う。
 「そうではなくて、誰の助けも必要ない。こちらに近づくな。というオーラを出さなくてはいけないようです。」
 つまり、こっちにくるな、オーラで自分を守るということなのだろうか?
 「表情もにこやかではなく、何か言われたら迷惑そうに大丈夫です!と断る人になれば声をかけてくる人は減るでしょう。」
歩くことに必死になっていれば、そんな

対応をしてしまうことは時としてある。けれども私はその後で申し訳ないことをしたと激しく後悔するのだ。
 人が話しかけてこない。というのは本当に魅力的だ。そして、もし人に触れられるストレスが耐えられないのならばこちらを選ぶしかないだろう。声をかけてくる人を断るのには痛みが伴うけれども、自分を守るためには仕方のないことなのかもしれない。
 けれども、私は、幸福に笑って歩く人でありたいとずっと思ってきた。私が笑っていられることは、実は多くの人の障がい者のイメージを変える切っ掛けになるのではないか、と感じているからだ。そして、私は自分に声をかけてくださる人たちに良い思い出と経験を手渡すことができたら、と思っている。これはかなり綺麗ごとで本音は困っていない私を放っておいて欲しいと思っている。それでも私は綺麗ごとを選んでみたいのだ。
 「どうしますか?どちらを選びますか?」
私は少し間をおいてから答えた。
 「声をかけられる数を数える方を選ぼうと思います。」
 「そうなのですか?人を寄せ付けない態度をとっていれば、触られる恐怖はなくなるのですよ。」
 「正直それは本当魅力的な提案なのです。けれども、私は自分に声をかけてくれる人がまた次の誰かに声をかけられるようになる試金石になれたらなぁと思ってきたんです。」
なんて理想的な答えをしているのだろうと自分でも恥ずかしくなる。私はここまで美しい心を持った人ではない。けれども、私はすがすがしい気持ちで笑っていた。
 私はこうして三つの問いに、重みのある答えをいただいてセッションを終えた。先生がくださった答えは100の質問の答えより多いと感じる。私の生き方を大きく変えるほどの影響力があるものだったのだ。
 「最後にこちらに立っていただけますか?」
大きな机の向こう側にいた先生と私はとても近い距離で向かい合った。
 「ハグしますね。エネルギーを送ります。」
背中が本当に気持ち良い。暖かな何かが入ってきて守ってくれるような安心した感覚に包まれる。
 「エネルギーを送りますね。」
ハグを解いた先生は私の両手を握った。先生の手からは、清らかな水晶のつぶがぎっしりつまったエネルギーの塊が送られてくるような気がする。幸運のツブがギシギシと音をたてながら私の体の何処かに吸い込まれていく。私はそんな風に感じていた。
 「綺麗です。」
私は言った。すると先生は
 「ありがとうございます。沢山入っていきますね。」
と答えた。 先生は少し驚いていたかもしれない。たしかに激しい渦のなかにいるという感覚がある。そして、
 「ドンドン浮き上がっていくようです。でもこんなにいただいてしまって先生は大丈夫なのですか?」
そう私が心配すると
 「大丈夫。エネルギーは無限だから。」
そう言われた私は安心して激しい渦のなかで上昇していく感覚に身を委ねた。
 玄関の外の空気は冷たかった。先生の家で充電した私はいろんなものを体と心に詰め込んで、また新しい一歩を踏み出そうとしている。お礼を言って歩き出す私を先生は見送ってくださった。
 「がんばってくださいね。」
沢山の意味が込められた言葉だと思った。振り返ると方向が分からなくなるので、体を軽くひねってそっとうなづいた。
 前に進もう。顔を揚げて笑顔で、幸福と愛のオーラを纏いながら。完全でなくていい。そうありたいと願うこと。そして、近づこうと努力することこそが美しいのだから。

(了)


お久しぶりです。
しばらく温めていた文章を公開します。
近況など、また報告できると良いのですが、とにかく多忙です。みなさんも元気で過ごされていますように。

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