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2019年02月23日09:49

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三つの問い・不思議な体験 1

これは最近私が経験したとても不思議な出来事です。これを真実と思っていただくのも、ファンタジーと思っていただくのも、単なる思い込みや偶然だと思っていただくのも、みなさんの自由です。

 溶けた雪がところどころで水たまりを作る道を、私は彼女の家に向かって歩いていた。風は肌を冷たく冷やし吹き抜けていく。静かな住宅地を数十メートル進んだところに目指す家がある。夏にはバラが咲き誇る庭を斜めに進むと彼女の家の玄関にたどり着く。何度か触れたことのあるドアの握りは触ってもわかる飾りが彫り込まれている。
手を伸ばすと大きな花に触れた。もしかしたらバラなのかもしれない。手をもう少し上に揚げてインターフォンを探りドキドキしながらボタンを押す。
 「はい、どうぞ。開いていますよ。」
はきはきしているけれども暖かな女性の声がする。
「失礼します。」
ついインターフォンに向かって笑顔で会釈しそうになりながら私はドアを開ける。
 「あ!アンジュさんてあなたのことだったのね。他の方かと思ってしまって。」
先生があわてて私の近くにやってくる。そっと優しく肩に触れながら
 「どうしたら良いかしら?」
と話しかけてくる。
 「では肘を触っても良いですか?」
こうして私はまたこの部屋にやってきた。先生のお部屋に。大きな机の前に対面式にイスが用意されている。手前の席に私が座っていると先生が甘い香りのする飲み物を運んできてくださった。
 「早いけれども始めますね。」
星座や宇宙を思い浮かべたくなるような音楽が流れだす。そしてある種の緊張感。私は、まるでこの部屋が通常の時間と空間から切り離されたような不思議な感覚を覚えた。今日、私は三つの問を抱えて先生に会いにきた。すべてを占っていただけるかどうか。それは分からない。だから、私は自分の感覚にしたがってどの順番で見ていただこうかを決めようと思っていた。点字の電子手帳には番号を振った問いが並んでいる。
 最初の問いは、やはりこれで良いだろう。私は1と番号を振った問いの内容を確認して話を始めた。
 「実は学校にいくために部屋を借りたいのですが、1か月近く物件探しをしているのに助けてくださる不動産屋さんが見つかりません。自力で解決しようとがんばってきたのですが酷い対応を何度もされている内にストレスが溜まって体調を崩してしまいました。この状況を切り抜けたいのですが、どんな質問をしたら良いかも実は分かりません。」
この話をしている間も私の体内からは血液が流れだしている状態だった。頭が痛く、意識はぼんやりしていて考えがまとまらない。空気が薄く感じて呼吸もくるしかった。
 「まぁ、大丈夫ですか?、つまり、良いお部屋をどうしたら見つけられるか、ということですね?」
先生は優しく声をかけて下さる。そして、問いの内容を確認していく。
 「はい。安全で安心して暮らせる家を。」
 「分かりました。それでは見てみますね。少しの間目を閉じて瞑想していてください。」
目を閉じると心の中にオーロラ色の大きな大きな球体が見えるような気がした。私はその美しい球体に意識を注ぎながら穏やかなエネルギーを感じていた。私の耳には先生がカードを切る音、机の上で混ぜ合わせる音、小さな石がぶつかり合う音が聞こえてくる。それは時に激しく、時に優しく私の耳に響いてくる。先生が使うのはタロットカードと水晶、そして先天的にもっていらっしゃる私たちには見えない何かを見る能力だとおっしゃっていた。
 「カードの上下を決めたいのでどちらを上にするか教えていただけますか?」
私が両手を伸ばすと先生が自分のもっているカードに導いてくださる。もう一度目を閉じると私はエネルギーの流れに意識を向けた。
 「こちらでお願いします。」
右手を軽く動かす。
 「わかりました。」
スパっという気持ちの良い音がしてカードが広げられていくのが分かる。
 「見ていきますね。」
うなづく私の緊張が高まる。
 「ひっどいですね。」
落胆の声が聞こえてきた。
 「このまま同じように物件探しをしても部屋は見つからないようです。関わりたくない。偏見。部屋は余っているのに紹介したくない。貸したくないと思っている。障害のある人が部屋を借りても実際には問題などおきないのでしょう?障害者の理解が深まってきたなんて言っているけれど、何なの日本は。」
視線はカードに向けられていたと思うのだけれども、先生が今本当に見ているのは日本という社会、そこに暮らす人々の考えなのではないだろうか。先生は私が今まさに感じていることをそのまま読み解いて共に怒りを表してくださっている。やっとみかたができた。結果は惨憺たるものだったけれども、私は安堵に包まれていた。
 「差別を通り越して虐待というカードが出ている……。」
私はさらに安堵に包まれていた。部屋が見つからないぐらいで体調を崩すなんて、どうして私はこんなに心が弱いのだろう。などと実は自分を恥ずかしく思いせめてもいたからだ。けれども虐待ならば心が折れてしまっても恥だとは思わなくて良いのかもしれない。
 「でもこちらに救世主というカードがでているの。どうも物件探しを手伝ってくださるNPOがあって、そちらを通すとスムーズに話が進むようなんです。少し時間はかかるかもしれないけれど部屋は見つかるようですよ。」
私はそのような団体を紹介してもらえるかもしれないと期待して、役所に問い合わせをしたことがある。けれども情報は得られなかった。ただネットで検索した時に先生がおっしゃるような場所を見つけた記憶が微かにある。あそこのことだろうか?確信がもてないまま話は進んでいった。
 「私はよく花さかじいさんの話をたとえに出すのだけれども、もしあそこで犬が吠えなければおじいさんはそんなところに宝があることに気がつかなかったでしょう?それと同じで、今こんなに困っていますと声を上げる必要があるようなんです。」
問題解決の方向性を示された時、もう少しだけがんばってみよう、という力が沸いてきた。不動産屋と私の間に立つ第三者を探すこと。それは論理的に考えても的を得ている。私は先生から助言をいただく時、それをまるごと鵜呑みにするのではなく、客観的で現実的に捕らえた視点でも吟味することにしている。自分の中で現実的な視点と直観とのバランスが一番良くとれている行動を思い描いて、先生の言葉を励みに前に進んでみようと思っている。
 「傷つく必要などないのですよ。あなたが悪いから部屋が借りられないのではない。どちらが悪いのか。それは明らかではないですか。」
そう言って先生はあるアドバイスを下さった。この方法を試すことがあるのだろうか?それは理不尽なことをされた時に私が使うことのできる、とても強い言葉を心で言ってみることだった。私は一つ目の問いの答えとともに、この言葉を心に刻んだ。
 次の問いはやはりこれで良いだろう。私は二と数字を振った内容を確認して二つ目の質問をはじめた。
 「これは長い時間悩んできたことなのですが、他の質問と一緒でないと恥ずかしくて話すことができないと思うので今相談をさせてください。。実は私は恋人と別れて
十年以上も一人で暮らしてこなければなりませんでした。人に会うこともままならない状態になることも多く孤独でたまらない。あまりにも辛くて人生を止めたくなったり、病気になり死に至るのではないか、と恐ろしくなったりするのです。先生、私はどうしたら共に生きていく人を見つけることができるのでしょう。それとも、私はこれからずっと一人で生きていかなければいけないのでしょうか?孤独に耐えることがこの人生に与えられた課題なのでしょうか?」
自分の経験を分かち合うことのできる人がいない寂しさ。両親を失った時のことを思い浮かべると心が痛くてたまらない。今でも社会の無理解と一人で戦わなくてはいけないことが沢山あるのに、それでクタクタになった自分の心の安らぎになってくれる存在がいなくなってしまうことは、恐怖ですらある。
 「まぁ、そうだったのですか?大丈夫ですよ。人生をそんなふうに厳しく計画することなどないのです。喜びがあるはずですよ。」
先生のこの言葉だけで、私はまたほっとしていた。生きるとは、つまるところ苦しんで苦しんで苦しみぬくことなのだろうか?そんなことは嫌だ、と感じながらも受け入れるしかないのだろうかという諦めもあったからだ。
 「気になっている方はいらっしゃいますか?」
私はこう聞かれて心の中でうろたえた。今先生が考えているのは恋愛相談に違いない、と分かったからだ。
 「海外のサイトで友達になった人で気になる方はいるのですが。」
なんとなく言葉が出にくい気がする。
 「どんな方ですか?生年月日は分かりますか?」
私は彼の生年月日を伝えて次のような話をした。
 「彼はアメリカに住んでいます。複雑な悩みを抱えているのですが、私と話すことがとても楽しいと感じているようです。年齢が離れているので最初は恋愛対象とは思っていなかったのですが、友達になってから1年が過ぎたころに二人の関係性が変わりました。」
 「それで、告白があったのですか?」
 「はい。そんな感じなんです。」
彼のことを思い出すと心も体も緩んでくる。顔もほころんでいるのがわかる。年頃の女性のようにこんな相談をしているなんて、どうなっているのだ!私は両手で顔を半分覆いながら叫んでいた。
 「恥ずかしい。」
けれども、先ほどまでとても深刻だった場の空気ががらりと変わっていることにも気がついていた。私が体から発散しているエネルギーはきっとピンク色に違いない。この時私は不思議な思いに捕らわれていた。人生とは語る内容によって申告なものにも、バラ色なものにも見えるのだと知ったからだ。そして、先生は私を幸せな方向に導いていこうとなさっている。
 「彼が経験してきたことは、家庭環境のことなどがあって本当にきびしかったようです。人種のことを考えても大変だったのではないか、と思います。ただ、それだけにとてもやさしく、考えは深いと感じるのです。」
私は右手を伸ばしてカップを掴むとそれを口に運んだ。のみものの甘さが私をさらにゆるませてくれているような気がした。
 「では見てみますね。」
重いカードがぶつかり合い、混ぜ合わされる音。カードが気持ちの良い音で切られていく音が聞こえてくる。
 「どうしよう。」怖いなぁ。」
彼のことにも触れるだろうとは思っていたのだけれども、それが問題の中心になるとは予想していなかった。自分が感じている彼への思いは本当だろう。そして、彼が私に伝えてくれる思いを信じたいと思っている。けれども、オンラインでしか分からない相手のことをまるごと信じるのは危険だろう。だからこそ、その結果を聴くのが怖いのだ。
 最初の時と同じようにカードの上下をどちらにするか聞かれた私は、また右を選んだ。
 カードが広げられる音。少しの間。そして先生は結果を話し始めた。
 「良いですね。彼もあなたと話していて楽しいし安らぐようです。彼があなたに伝えていることは本当ですし、仕事もまじめにする人のようですよ。それにあなた方は以前に会っているようです。」
 見知らぬ他人としてすれ違っているのだろうか?彼だと思う人に会った記憶はない。すると先生の言葉が聞こえてきた。
 「彼は以前あなたの弟だったことがあるようです。ヨーロッパで生まれていて、とても良い兄弟だったようですよ。」
 彼と生まれる前から結びつきがあったのならば、それは嬉しいという言葉では言い表せない。今の彼の言動からは弟を思い出させるものはないのだけれども、彼に感じるこの思いやなつかしさはどうにもならないほど強いもので、特別な縁があるのならどんなに嬉しいだろう、と思っていたからだ。そして、長い年月を経てやっと会えた、という思いを感じていたからだ。
 「はぁ、弟だったんだぁ。」
 「はい。これからの関係も姉と弟てきな感じになりそうですが、良い関係を築いていけそうです。絶対にとは言い切れませんが続けてみてはどうでしょう。」
 「はじめはまったく相手にしていなかったんです。普通に良い友達でいようと努力していました。」
 「私が見てきた人たちの99パーセントがそうなんです。以前に深い縁があった人には、最初は何の感情も沸かないようなんです。
 私は生き別れていた弟にあえたような感動を覚えていた。思いもよらなかった家族が自分にできたという安堵感に包まれてしまったのだ。
 「そうか。私、弟ができてしまったんだぁ。」
 「今は違いますけれどね。」
先生が私を現実に戻してくださる。そうだった。彼と私は血のつながりのない異性として今向き合っているのだということを忘れそうになっていた。
 「彼とのことで何か質問はありますか?」
先生はやさしく、そして楽しそうに聞いてくださる。けれども、私は¬彼弟説」に驚きすぎてそれ以上の質問が出てこない。知りたいことはたくさんあるはずなのだけれども、嬉しいショック状態に陥っているようだ。
 「弟だとうかがってびっくりしすぎて質問が浮かばないんです。」
 私は考えるのを早々に諦めた。そして、用意していた三つ目の質問をすることに決めた。
 「本当はこれこそが一番大切だと思っていたものなんです。」
そう言いながらも何をメモしていたかが思い出せない。それほど先ほどの結果が衝撃的だったのだ。ただ、メモを読み直してみて、この質問が今日できることを嬉しく思った。やはり、これは私にとって本当に重要なことだったからだ。
 先生の三つ目、最後の問いへの答えとアドバイスもすばらしいものだった。私は幸福な思いを感じながら暗くなりかけた道を帰っていった。苦しみの中で悶えていた私の心が、まったく逆の状態になっている。フワフワと優しい光に包まれているような気分なのだ。先生はなんてすてきな人なんだろう。こうして相談することができることを本当に嬉しく思っていた。先生とのご縁が用意されていた自分の人生に感謝せざるをえない気持ちになっていた。

 私はすぐに行動を起こした。次の日にインターネットでNPOを見つけて連絡をしたのだ。高齢者・外国人・障害者など部屋の見つけにくい人の物件探しに協力しますので連絡をくださいと書いてある。先生のアドバイスがなければ、この言葉の真意が分からず連絡するのをためらい続けていただろう。私は担当の女性に繋がれた。そこで、私は今一人で暮らしていること、引っ越しする必要があるのに物件探しに1か月かかっても部屋が見つからないこと、視覚障害があることなどを伝えた。ところが、なのである。担当者だという女性は私にこう言ってきた。
 「まったく目が見えないのに新しい場所で一人で生活できるのですか?」
その言葉には苦笑いの響きが込められていた。なんなのだ、この対応は?障害者の部屋探しをする、と名言しているNPOが何を言い出すのだ?怒りが沸きあがってきた。その時、先生が一つ目の問いに答えてくださった時に教えてくれたある言葉を心の中で叫んだ。
 ¬●●●」
とても強いこの言葉を使う日がこんなに早くくるとは思ってもみなかった。けれども、なぜなのだろう。怒りを言語的に理解することで、私の感情は静まり、冷静な交渉をする心の状態を作ることができたのだ。
 「もしかして、目の見えない人とかかわるのははじめてですか?」
私の声は少しトーンが下がり、いつものふわりとした印象は消えていたのだと思う。
 「はい、実は。」
少し戸惑ったような声が聞こえてくる。
 「一概に全員が新しい場所で一人暮らしができるか、というとそうだとは言い切れないかもしれません。ですが、新しい場所で一人暮らしができる人は本当に沢山いるのです。」
私は自分の経験を並べていった。
 「あなたはこのような経験をしてきた人に先ほどのような質問をなさったのですが、それはとても失礼なことだとは思いませんか。」
私はそう言って言葉を切った。
 「申し訳ありません。」
それが彼女の答えだった。こうして私はその日に不動産屋さんを紹介してもらうことに成功し、数日後に物件を見る約束をするところまで話をすすめることができた。
 見学の当日。
 「今日は不動産屋さんに言ってくるね。」
という私のメッセージに
 「怒っちゃだめだよ。」
という彼の返事があった。
 「怒らないけれど、差別とは戦わないといけないと思っているよ。」
不安はあるけれども、今回担当してくださった方は信頼できそうだと感じていた。きっとトラブルはないだろう。
 出かける準備をしているといきなりsnsのコール音が鳴りだした。彼がビデオチャットに私を呼んでいるのだ。
 「ハロー!」
私は少し不思議そうだったかもしれない。そんな私に彼は言う。
 「心配なんだ。怒っちゃいけないよ。」
彼は言う。
 「でも、私は1か月部屋が見つからなかったんだよ。それは差別だったのじゃないかな。」
 「すべての人が差別すると思っちゃいけないよ。部屋が見つからなかったのには理由があるのかもしれない。探していたけれど良い場所が見つからなかったのかもしれない。」
私は差別だと考えない方が良いという彼の言葉に同意することはできなかった。現実逃避ではないかと疑問を持ったことと、そのようなきれいごとをいうのは自分が私と同じような立場にないからなのではないか、と感じたからだ。目に涙を浮かべながら彼を見ようとした。私の表情から伝わる思いがある。そう思ったからだ。そして、電話の向こう側にいる彼の表情を想像していた。それは、限りなく優しく、そして心配そうだった。
 私は彼の人生のことを考えていた。アメリカでマイノリティーとして生きることは日本で障がい者として生きるよりも厳しいことなのだろうか。単純に比較することなどできないけれど、もし自分が辛い思いをしてきた人がこういうのならそれには深い意味があるのではないか。そしてそれよりも、彼が私に教えてくれた彼の子供時代の辛い経験は、どんな風に彼の人生観を変えたのだろうか。
 「幸せでいて欲しいんだ。」
彼のその言葉ですべてが分かった気がした。彼が辛い人生で決意したのは自分が幸せであること。そして、自分の愛する人たちを幸せにすることだったからだ。怒るなということには理由がある。怒りは毒なのだ。差別だと思い怒れば怒るほど、私は幸福感から遠ざかる。彼が何よりも心配しているのはそのことなのだ。
 「分かった。怒らない。」
私はカメラがあると思っている方向に微笑んだ。彼の心に微笑みかけた。
 「ありがとう。」
そうだ。私は幸福を届ける人になる。そう誓ったばかりではないか。この思いは私が先生にした三つ目の問いに繋がるものだった。
(つづく)


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