清水榮一「中村天風に学ぶ絶対積極の言葉」より。
世の中に必要なものは栄える。
そんな仕事をしなさい。
「マルヰプロパン」。岩谷産業の創業者、岩谷直治氏が、昭和28年に我が国で初めて、家庭用LPガスを販売した。
地方の多くが、いや、都市周辺においてすら、薪や炭でご飯を炊き、料理をしていた時代だ。当時は、「マルヰプロパン? どんなパンですか」と聞く人がいた。
岩谷直治氏は、若いとき大八車に溶接棒を積んで売り歩いた。結婚してからは直治氏が出張中には、奥さんが乳母車に溶接棒を積んで、お得意さまの所へ運んだという。
今でいう顧客志向に徹した商売と、命に変えても信用第一という商魂に支えられて、岩谷の事業は伸びていった。
この岩谷直治の不屈ともいうべき哲学のルーツは、彼が少年の頃に通学した農学校にあった。
ちょうど東京から来た新任の若い先生が担任となった。新進気鋭の若い先生は、当時として最先端のダーウインの進化論の話をした。
彼は、その進化論に強い印象を受けた。
後に、彼が丁稚奉公に出たとき、日夜の仕事を通じて思い当たったことは、「世の中に必要なものは栄える」ということだった。
これが岩谷直治の事業進化論であり、事業哲学となった。
事業というものは、世の中からみれば、なくてはならぬ事業としてお客に認められ、喜ばれ、支えられるものでなくてはならない。
そのために、世の中が求めているもの、欲しているもの、必要と感じているものに全力で答えようとするとき、きっと世の中は、喜びをもって迎えてくれるはずだ。
昭和28年暮、岩谷産業はLPガスの販売に踏み切った。わが国で初めてだけに、世間から見れば大冒険だった。
しかし、この新規事業は、多くの家庭の奥様たちの手助けとなる。家庭にとっての台所革命でもある。奥様たちの、続いて子供たちの、一家団らんの笑顔が目に浮かぶ。
「世の中に必要なものは栄える」。
岩谷直治氏の号令一下、会社員が奮い立った。最初の月に700キロを販売した。
それから50年の年月が流れた。一社から始まった事業は、その後、大手の業者たちが多数参入して大きな業界となった。
現在、わが国のLPガス年間使用量は、おおよそ130万トンといわれている。月間でみれば、当初の16万倍だ。「マルヰプロパン」は今もトップのシェアを占めている。
五つの仕事がある。したら困る仕事。しない方がよい仕事。してもしなくてもよい仕事。した方がよい仕事。してもらわなくては困る、ぜひやってもらいたい仕事。
どうせやるのなら、私でなければ出来ない仕事であって、しかも人の世に役立ち、必要とされ、喜んでもらえるような仕事をしたいものだ。
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