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2019年01月16日21:35

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今さらモバイル音楽ツールを語る:AQ Interactive「KORG DS-10」beta

(↓ alpha から承前)

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●エディットの自由度と可能性

世間では「DS-10 は、MS-10 をモデリングした」と言われているが、どうやらそうではないらしい。というのも肝心のメーカー側が「MS-10 をモデリングした」とは一言も言っていないのである。メーカー資料にあるのは
「MS-10 をデザインコンセプトにしたアナログシンセ・シミュレーター」
とあるだけ。これが何を意味するかといえば、
「MS-10 の外観やスペックを参考にし、アナログシンセをシミュレーションした」
ということではないか? そして「モデリング」と言わず「シミュレーター」としか言わないあたり、とにかく「モデル」の一言を徹底して使わないところに、メーカーの用心深さがうかがえる。

私は実際に MS-10 と直接比較したことはないが、記憶にある MS-10 の音は、DS-10 よりもくぐもった、くすんだダークなもので、それもなんというか東洋の哀愁チャルメラみたいな音もしたはず。それに比べ DS-10 の音は、くっきり輪郭がはっきりしているだけでなく、より現代的なシャープな音がする。
憶測に過ぎないが、ひょっとしたら DS-10 の音は、どだい NINTENDO DS の CPU パワーで MS-10 をモデリングさせるのは無理だからってんで、むしろ MS-10 にとらわれず、とにかくいい音をめざし、それも昨今のテクノに見合うようチューニングした音なのではないか。ヘッドフォン端子から出力させて外部スピーカーなどで聴くと、えげつない音も出るので感心する。そんなわけで「DS-10 の音は MS-10 とは違うが、これはこれで良い音」と言える。

なお、この出力端子は噂によると D/A コンバーターが 10bit 変換という半端なもので、それがかえって音色に独特の粗い味を加えているのかもしれない。たしかにエイリアス・ノイズもよく出るが、それも味わいのひとつだと私は思っている。それに、まぁしょせんはゲーム機のヘッドフォン端子なので、S/N 比も良くはないのだが、これも個性だと私は思っている。むやみにハイファイばかり追いかけているだけでは、ただのド近眼な嗜好というもの。

MS-10 のスペックを参考にして開発したとはいえ、PWM ができなくなった代わりに、オシレーターが2基に増え、やや粗いがハードシンクもでき、フィルターは LPF / BPF / HPF の切替式マルチモードフィルター、アンプ部は先述のとおり「DRIVE」というパラメで音を歪ませることもできるところは、MS-10 から大きく発展したところ。
EG は1基のみだが、ピッチ EG として使うには専用デプス・ノブで、フィルター EG として使うにもやはりフィルター部に専用デプス・ノブが、そしてアンプ EG として使うには EG / Gate 切替スイッチがあるので、工夫次第でかなりフレキシブルに音創りができる。
フィルターのレゾナンスを上げると発振するが、カットオフを上げると発振したサイン波のピッチが上がるのは普通として、エイリアス・ノイズが出てくるのがご愛嬌、ぜひエイリアスも音創りに生かしてほしい。ただしそんなに大きな音量のエイリアスではないので、たいがいシーケンス・ミックスの中では埋もれてしまい、かき消されてしまう。

仮想パッチコードでモジュレーションソースとデスティネーションとを接続できるパッチパネルがあり、これは MS-10 のそれを簡略化して整理したような仕様。たった1基しかない LFO も三角波、鋸歯状波、矩形波、S&H 波とを独立して出力でき、BPM 同期もできる。
また、ソースの中に VCO2の出力があるのが良い。このおかげで、VCO2により VCO1をクロスモジュレーションしたり、発振させたフィルターのカットオフを周波数変調したり、VCA を振幅変調することで擬似的にリング変調したりできる。さらに VCO2のみのピッチを EG 変調できるので、周波数変調や振幅変調などによるスイープ音も出せる。
ただしこのパッチパネルは、あくまで物理的なパッチパネルを再現したものなので、モジュレーションマトリクスとは違い、単一のソースから複数のデスティネーションへパラったり、複数のソースから単一のデスティネーションへマージしたりはできない。あくまで1対1のパッチングのみ可能。まぁこの価格のゲーム機なんだから、いいじゃないか。
プリセット音色Aバンクの中に「BASS 6」という名の、エレキ・ベースっぽい、アナログシンベらしくない、やや尖がったベース音があるが、これは上記のクロス変調をうまく使っている。これの VCO2のピッチを微妙にずらすと、少しオーヴァードライヴがかったような太い音になって、おもしろい。

各モノシンセは、シーケンス駆動できるほか、タッチパネル上に表示されるキーボード画面やカオスパッド画面でリアルタイム演奏が可能。カオスパッド画面の場合、ピッチに様々な音階スケールをあてはめることで、偶発的ながらちゃんとしたフレーズを演奏できるところは、コルグ Kaossilator と同じ。たとえばイオニアンとか、日本音階や琉球音階、ガムラン音階にアラビックスケールなどさまざまなスケールが使用可能。


シーケンサーは、モノシンセ2トラック+リズムマシン4トラック=計6トラックのパターンシーケンサーで、1パターンは1小節ループすなわち 16 ステップを記録する仕様。これを1セッションあたり最大 16 パターン記憶させ、ソングに 100 小節ならべられる。ソングを利用しなくとも、いわゆるグルーヴボックス同様、パターンだけを鳴らし、リアルタイムに切り替えて無限に遊ぶこともでき、ネットを見てるとこのパターン切り替えを非常に多用して1曲まるごと演奏する人が多い。

キーボード画面やカオスパッド画面によるモノシンセの演奏は、シーケンサーにリアルタイム録音可能。ピアノロール画面にステップ入力も可能で、ちょいとしたイベント・エディットもできるところが、すぐれている。先述の通り、たった5段階とはいえ、ステップごとにパンを設定できるのは拍手。空間演出は、いつも楽しい。

さらにモノシンセのカオスパッド画面では、XY 軸に様々なパラメーターをアサインし、リアルタイムにシーケンサーへパラメーターの変化を上書き入力できる。ここで入力できるパラメーターの種類は、1パターン1モノシンセにつき2つまで。すなわち最初に入力したときにX軸Y軸にアサインされているものだけ。各オシレーターの音源波形の切替までアサインできるので、ちょっとしたウェーヴシーケンス的なこともできるのは、おどろき! パターンを再生しエディット画面を見ると、カオスパッド画面で操作されたパラメーターのノブだけ自動的に激しく動いているので、これまたすばらしくて驚かされる。さらに、カオスパッド画面で入力されたパラメーターの変化は、シーケンサーでステップごとにイベント・エディットできるからまたすごい。


リズムマシンは「DRUMS」と銘打たれ、4音色4パート構成になっており、画面上に表示される4つのパッドをスタイラスペンで叩くことでリアルタイム入力ができるとともに、前述のシーケンサーを使ってローランド TR シリーズのように、縦軸に4パート、横軸に時間軸を配置したグリッド画面でステップ入力もできる。
ただ、リズム音源にもカオスパッド入力があれば良かったのだが、これは先述のとおり、リサンプリングされている音色なので、リアルタイムに音色変化させられない。そのかわり、モノシンセ用シーケンス・トラックと同じく、ピアノロール画面を利用したちょいとしたイベント・エディットでもって、音量の抑揚やゲートタイム、ピッチ、パンニングを音符ごとに設定でき、けっこう表現力を持たせられる。
音色は、モノシンセとほぼ同様のエディット画面で音創りでき、パッチパネルもある。モノシンセから省かれているパラメーターは、ポルタメントとリリースのみ。なので、リズムマシンとしてのみならず、3台目のシンセとしても充分に使える。
リサンプリングされるため、エフェクトのかけ録りが音色個別にできるのが、うれしい。
パターン再生中に、4つのパッドをタッチすると、16 分でロール奏法され、ライヴでのアクセントに使えるのも、気が利いてていい。


リズムマシンはもちろん、すべてシーケンサーがグルボなパターンシーケンサーなので、リニアトラックや普通のワークステーションシンセなものを期待すると肩透かしを喰らう。その発想でいると、リズムマシン含めシーケンサーの分解能は、TPQN で言うなら4!となってしまう。グルボやステップシーケンサーでは当然だが、1小節を 16 ステップに分割しているだけなので、16 分の刻みを入れるのが最小単位ということ。
またカオス画面での入力値については、"smooth" というスイッチひとつで、離散値をなめらかに自動補間してくれる機能がある。
いずれにせよ、ここはグルボを使うのだという、発想の切替が必要。その気になれば、ミニマルなテクノだけでなく、尺を無視したアンビエントな作品なども可能。

ソング機能は、たんにパターンをならべて再生するだけだが、スクロール機能を使うことで途中再生も可能になっているあたり、ちょいとしたひねりがうれしい。ただし、ソングを再生しながら、さらに生演奏を追加することはできない。

また、シンセやリズム音源を駆動する内蔵シーケンサーにしても、ソング機能にしても、コピペのような高度なコマンドは実装していないので、いったん構築してしまった曲の内容を大幅に変更するような場合は、すべて個々のイベントなりパターン構成なりを、ちからわざでひとつひとつエディットしていくしかない。エディット範囲が1画面におさまっているうちは良いが、たいがいの場合、画面をはみ出るような変更を迫られるので、スクロールしまくりで、男気あふれる世界である。事前に計画して作曲すればいいのだろうが、私がやるシーケンシングには試行錯誤がつきものなので、覚悟が必要。
とはいえ、タッチパネルによるエディットは、直感的でなかなか良い。マウスより良いかもしれない。

ミキサー画面や、16 パターン再生 / 切替画面には、モノシンセ2台とリズムマシン4パートあわせた、計6パート個別のソロ・ボタンとミュート・ボタンが用意されており、これで単一のパターンからもいろいろバリエーションがつくれるようになっている。この発想は、グルーヴボックスのパート・ミュートなどと同じ。


DS-10 のデモ曲を詳細に分析してみると、様々なわざが駆使されている。リズムマシンからシンセ音を出す、さらにリズムマシンでシンセ音をシーケンスフレーズにして鳴らす、モノシンセのカオスパッド入力によるパラメーターのリアルタイム操作、ひとつのモノシンセでベースラインとメロの2トラックを弾いているかのように聴かせる音符のならべかたなど、エディットの奥深さを実感させられる。

ところで DS-10 は MS-10 を参考にしただけあって、パラメーター名も MS シリーズと同じところがある。たとえばレゾナンスは「PEAK」、LFO は「MG(Modulation Generator)」という名になっている。


操作性だが、タッチパネルのおかげでソフトシンセのわりに直感的。ノブはスタイラスペンで回せるし、パッチコードもスタイラスペンで、ひょろひょろと黄色いバーチャルコードが延ばせるのは楽しい。
後述するが、シンセパラメーターのオートメーションもできる。

だが、MS-10 と決定的に違うのは、鍵盤で音を弾きながら音色エディットするのがほとんど無理なこと。事実上グルーヴボックスなので、シーケンサーにフレーズを打ち込んでおき、それをループ再生しながら、音創りすることになる。鍵盤は、たまたま、ついていた、というだけに過ぎなく、これでほいほい弾いて音創りできると思ったら大間違い。しかしこれはデメリットではなく、たんに発想の違いであり、キーボードシンセと思わず、むしろシーケンスフレーズを聴きながら、それに合わせこんで音色を作り込んで追い込めるというのは、きわめて合理的かつ実益にかなっている。

つまり鍵盤を弾くのみの人は相手にしておらず、鍵盤を弾けない人にこそ、この DS-10 は福音。
MIDI や USB にも対応していないから、音源モジュールとして使われることもない、自己完結した単独スタンドアローンの独立したツールなんだし。


どうしても鍵盤を弾きながら音創りしたければ:
「鍵盤を弾いて音色を確認する
 →上下の画面を入れ替える
 →メニュー画面からエディット画面に入る
 →ようやくエディットする
 →上下の画面を入れ替える
 →メニュー画面から鍵盤画面に入る
 →最初に戻って音色を確認する」
という手間ひまかかることをひんぱんに繰り返すはめにおちいり、これが非効率きわまりなく、そにうちに投げ出すことになる。

なので音色は、あくまでシーケンサーでフレーズを鳴らしながら、エディットするしかない。これは、タッチパネルが1つしかないことを前提に DS-10 が開発されていることによる、仕方ない制限でもあるのかもしれず、むしろこれにより、シーケンスミックスに合うよう音創りできるという、まことに今風のメリットがある。ただ、中途半端に弾けてしまうがために、まず手弾きしながら音色ありきでそこから曲づくりが発展する私のような人間は、根本的に発想の転換を迫られることになる。手弾き演奏中にリアルタイムでエディットできないのは、最初、おそろしく戸惑ったところで、とりあえず超簡単な1小節ループをつくって駆動しながら音創りするよう変えた。

それでも根本的に異なる発想を続けるのは苦しく、音色に触発されてフレーズが思いつくことが多い私には、そもそも音色すら固まらないのに1小節ループなんざ思いつくはずもなく、しばらくして DS-10 を使うのをやめてしまったのだが、何年かたって再挑戦してみたら、あら不思議、すでに自分自身がいろんなひとさまの作品を聴いてなのか、グルボ的なツールや発想に慣れ親しんでいたためか、するするとシーケンサー回しながら音創りしてやんの。つくる曲がクラブ音楽の文法からは外れるが、やっている手法が同じであることに変わりはない。


シーケンス駆動しながらであれば、ふつうの音色エディットが快適などころか、後追いでカオスパッド画面によりカットオフを開閉したりして音色変化をつけることもでき、そのまんまステップシーケンサーに記録し、オートメーションができる。
ひとたび慣れると、じつはものすごく便利。前述のとおり、シーケンシングしながら、ミックスの中で音色がどうあるべきかを実感しながら音創りを追い込める。今どき、まったく楽器を弾けないトラックメイカーがたくさんいることを思えば、むしろこっちのほうが、はるかに理にかなっているという事実を、今さら、まざまざと思い知らされる。

すなわち、TB-303 もそうだったが、今やシンセは音創りが楽しいだけではだめで、シーケンサーこそが命。
つまり、今どきのグルボにおいて、シンセの本質は、シーケンサーにあるのだ。

DS-10 のキーボード画面による演奏は「ついでに鍵盤でも弾けます」くらいに思っておけばいい。

また上下画面の入れ替えは、下の画面における右上の隅をタップするか、あるいは DS 本体左上の角にあるL(左)スイッチを押すと、上下の画面が入れ替わり、上画面にあった内容を下画面のタッチスクリーンへ持ってきて操作できる。特にLスイッチは、マスターしておくと便利で、瞬時に上限画面を入れ替えてくれるため、かなり意のままに DS-10 をエディットできるようになる。


●拡張性

そもそもの NINTENDO DS というハードの制約から、メモリーに拡張性は無く、MIDI も USB も非対応なので、MIDI 音源モジュールたりえない。

だが、NINTENDO DS 同士で最大8台まで、Wi-Fi によるワイアレス通信でもって同期演奏ができるのは画期的。ものが比較的に安いから、一人で複数台を手に入れて同期させられる上に、ワイアレスだから、場所もセッティングも選ばないのは、圧倒的フリーダムでいい。
なんせ布団の上でごろごろころがりながらでも、つながれる。

またこのワイアレス通信により、データをセッション単位で送受できる。

DS-10 が出た当時、Wi-Fi による通信機能はゲーム機では当たり前だったが 、まだハードシンセではワイアレス通信がそれほどには浸透していなかった。いや、あるにはあったのだが、本格化するには Wi-Fi よりも Blutooth の普及を待たねばならなかった。USB-MIDI コントローラーで Bluetooth 装備したものが出てくるのは、DS-10 が出てから5年後の 2013 年 11 月、miselu による C.24 が KICKSTARTER で出資受付と販売したことにはじまる。2015 年 11 月には、Apple iOS デバイス向けに BLE-MIDI = MIDI over Bluetooth Low Energy が制定。このあと、せきを切って落としたように各社が BLE-MIDI 対応しだしたのは、DS-10 に遅れることじつに十年近くあとになってから。
それを思うと、Wi-Fi と BLE-MIDI の違いはさておき、DS-10 は、やはりゲーム機をプラットフォームにしているだけのことあって、ワイアレスのメリットを一足先に体感できる先端感覚あふれるツールであることに違いはない。

圧倒的に自由な機材セッティングをはじめ、ここに、これまでのハードシンセとは違う、まったく別世界の可能性を見る思いがする。

このワイアレスなメリットも、音創りと同じく、シーケンサーを内蔵してこそ、そして同期運転できてこそ。
シーケンサーが本質のシンセに加え、同期運転でき、しかもワイアレスで場所もセッティングもえらばずお気楽にふいっとつながれる。とても今風。


(↓ gamma へと続く)

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