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2019年01月16日21:28

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今さらモバイル音楽ツールを語る:AQ Interactive「KORG DS-10」alpha

元は、2009 年5月2日に書きあげたものだが、全面改訂版をここに記す。

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●メーカー名

AQ Interactive


●機種名

KORG DS-10 Synthesizer
・2008 年3月 フランクフルト・ムジークメッセにて発表
・2008 年7月 24 日 日本先行発売
・定価:4,800 円 NINTENDO DS シリーズ本体価格を除く

(参考:NINTENDO DS Lite 定価1万6千8百円)

DS-10 は、日本ではネットショップ amazon でのみ販売されている。海外では、店で販売されている国もあるらしい。

DS-10 とは、任天堂のモバイル・ゲーム機「NINTENDO DS(ニンテンドーDS)」シリーズの上で動作する、言わばソフトウェア・グルーヴボックスであり、AQ Interactive とコルグとが共同開発した。
ソフトシンセに加え、さらにソフトウェアによるリズムマシンと 16 ステップ・シーケンサー、そしてマルチエフェクトまでついてくるので、超小型ワークステーションシンセ型ソフトと言おうかグルーヴボックス型ソフトと言おうか、一種のスタンドアローンなマイクロ DAW 的環境というか、まぁそんなものである。

決着つけたいなら、仕様から見ればグルボ的、すなわちグルーヴボックス的なマイクロ DAW とでも言うべきものなのだろう。

ソフトウェアの外箱は DS 用ゲームソフトの常として、CD ケースを厚ぼったくしたようなプラケース。その中に、切手ほどに小さな IC カードが収められていて、この小さなカードが DS-10 のソフトを収納した本体。これを DS のスロットに装着し DS を電源投入することで起動する。

周知のとおり NINTENDO DS の「DS」とは「Dual Screen」の略で、上下2つの3インチ TFT カラー液晶ディスプレイを見ながら操作することに由来する。初代の DS、2代目の DS Lite までは、下のディスプレイがタッチスクリーンになっており、付属のスタイラス・ペンで直感的に操作できる。3代目の DSi では上下ともにタッチスクリーンになったが、DS-10 は DS Lite 世代のソフトなので、下の画面でのみ操作する仕様。なお、タッチスクリーンは、シングルタッチであり、わざわざスタイラスペンが用意されているのは、単に画面が小さいからだけではなく、いわば電子ペンを使って仮想現実みたいなものを操作するという未来感覚をアピールしつつ、じつはシングルタッチであるという制約を、うまくファッショナブルに隠して昇華するためかもしれない。
なお DS-10 では、下の画面の右上に上下の画面を入れ替えるアイコンが表示されるので、それをタッチするか、あるいは DS 本体左上の角にあるLスイッチを押すと、上下の画面が入れ替わり、上画面にあった内容を下画面のタッチスクリーンへ持ってきて操作できる。

ハードとしての DS Lite のスペックは
・メイン CPU:67MHz(チップ名 ARM946E-S)
・サブ CPU:33Mhz(チップ名 ARM7TDMI、ただしゲームボーイアドバンス向けソフトとの互換のためのみに使用)
・メモリ:4MB
となっており、DS-10 をはじめ、よくぞこんな非力なマシンでここまでのものを実現したなと思わせるソフトがいろいろある。まぁ昔ふっるいパソコンむろんハードディスクも無い機種でいろいろ遊んだことを思えば、これでも余裕のスペックと言うべきか。
DS シリーズには実写動画が含まれたソフトも出ているが、DS-10 に動画はない。DS 内蔵のマイクとスピーカーとで対話型に進めるソフトもあるが、DS-10 ではマイクは使わない。ヘッドフォン端子があるので、それを使うと高音質で聴けるが、内蔵スピーカーもまぁ普通にモバイルギアとしてがんばっている。
DS-10 では、ひたすらタッチスクリーンのみを駆使し、一見ストイックに、だが実は音楽が直感的に楽しめるよう、つくられている。

私は DS-10 を amazon で注文したあと、ハードオフで中古の DS Lite を買い、さらに百人一首や料理ナビなどの実用ソフトを買った。料理ナビとは、ありものの材料などからできる料理を検索したりし、作り方を動画まじえて音声がしゃべって解説してくれて、しかも手を使わずページめくりもできるクックガイド・ソフト。他にもさまざまな実用ソフトがあり、それまでこの世界には存在しなかった脳トレや、ヴィジュアルでインタラクティヴな電子書籍の先駆者など、ゲーム機の枠をはみ出したものも多い。私のお気に入りソフト「星空ナビ」では、DS が星座早見盤になる。夜空に DS をかざすと、DS を向けている方向を自動的に感知して、そこに見える星座や天体などを表示解説してくれる。過去や未来の星空も見せてくれるし、流星群や来たるべき日食といった、天体現象も解説してくれる。まぁ今ならそういうスマホアプリもあるが、スマホは DS よりあとに普及してきた存在であった。
こうした実用ソフトが数多くあるのは、DS シリーズ以来、Wii など任天堂ゲーム機の常。かの「進研ゼミ」で名をはせたベネッセからも、DS 向けに教育ソフトが出たくらい。また '09 年には、学力低下を危惧した大阪府が、当時の橋本知事の肝いりで小中学校に DS と教育ソフトを配布し、学力アップにつとめたという。

実用ソフトが多い DS の設計思想は、任天堂の開発部長だった故・横井軍平氏が遺した思想「枯れた技術の水平思考」を手本に、任天堂の開発陣が設計したことに由来する。かつて任天堂をして、老舗の花札メーカーから大ゲーム機メーカーへと転換せしめたエンジニア、故・横井氏によるこの戦略。それは、むやみに高価な最先端テクノロジーを追うのではなく、得手不得手もわかりきった枯れた技術を、発想の転換で思いもよらぬ用途へ応用し、その安さを武器にイノベーションをもたらすのだという、知的戦略である。これに立ち返って開発された DS は、それまでの量的拡大ばかりもとめてきたゲーム機から脱皮し、映像と音響とによるモバイル生活デバイスへと進化した。すなわち先代の NINTENDO64 を含め、CPU やグラフィクス描画性能などの量的向上ばかりをめざし複雑化したゲーム業界にあって、DS はスペックを追わず、アイディア重視で独創性を打ち出し、モバイル性、タッチスクリーン、Wi-Fi を使ったワイアレスすれ違い通信などを駆使し、ゲーム本来の楽しみの復権のみならず、ゲームにとどまらない、生活そのものが楽しくなるエンタメ性をうたうことにより、質的変換をはかった。そしてそのソフトもゲームだけでなく、あたらしい発想による生活エンタメに満ちたものも目立つ。
このあたらしさが、ゲームユーザー以外にも広がる幅広いユーザー層に支持され、DS は競合他社より売れるに至り、それまでコアなヲタばかり満足させることで縮小の一途をたどっていたゲーム機市場に新風を吹き込み、そのマーケットを拡大に転じさせた。KORG DS-10 も、そんな実用ソフトのひとつ。そうでもないと、私がゲーム機を手にするはずがないw
ちなみに DS そのものは、当時全国の小中学生の約8割は持っていたという調査結果もある。任天堂によると、2014 年時点で、全世界で1億5千万人の DS ユーザーがいたらしい。


DS ソフトにしては DS-10 は起動時間が長いように感じるが、それは開発にかかわった会社の名前を4社ほど、いちいち順番にクレジット表示しているから遅いのであって、2社目の KORG ロゴが表示されたときにタッチパネルをちょんとスタイラスペンでタッチすると、それ以降のクレジット表示が省略され、すぐ起動する。
まぁ放置しておいたところで、どのみちパソコンやなんかよりは、ずっと早くに起動するのだが。


そもそもは、この NINTENDO DS にて画面を開いたときの形状が MS-10 に似ていたから、DS-10 の開発が始まったという。
DS-10 の名は、NINTENDO DS とかけているとともに、コルグかつての名機 MS-10 をヒントに開発されている事実から MS-10 の名もかけていることもさることながら、黙ってひそかに Digital Synthesizer の略もかけてたらおもろいなぁ、と、わたしゃ勝手に思っている。基本的にはアナログシンセをエミュレートした存在なのだが演算はデジタルなんだし、青春の 61 鍵シンセ、コルグ DS-8 “Digital Synthesizer" は、甘酸っぱかったねぇw


●音源方式
もともと NINTENDO DS には、GM 音色配列と思われる 16 音ポリのプリセット型デジタル音源が内蔵されているのだが、DS-10 では一切これを使わない。すべて CPU 演算で音色を創っている。

減算方式のソフトウェアシンセによるグルーヴボックスで、その内訳は以下のとおり。
・2台×アナログモノシンセ・シミュレーター
・1台×アナログリズムマシン・シミュレーター:4パート構成であり、各パートは、上記モノシンセとほぼ同じ音創りが行える
・1台×計6トラックの1小節 16 ステップ・シーケンサー
・1台×上記シーケンサーで作成した1小節パターン 16 個を、100 個すなわち 100 小節まで連結再生するソング機能
・1台×6チャンネル・ミキサー:モノシンセ2台とリズムマシン4パートとをミックスする
・1台×3アルゴリズムのデジタル・マルチエフェクト

モノシンセ各1台がエミュレートしているのは:
・2基の VCO
・1基の ステートバリアブル VCF 1基
・1基の VCA
・1基の EG
・1基の LFO
・1つのパッチパネル
であり、出音がラフではあるがハードシンクも可能。仮想パッチパネルで、クロス変調も振幅変調もできる。LFO は、DS-10 内蔵ステップシーケンサーと BPM 同期可能。

モノシンセにおいて、オシレーターが2基ある点は MS-20 に近いが、リング変調では無くハードシンクがついているところや、独立したハイパスフィルターや ESP が無いかわりにフィリたーがマルチモードになっているところなどが違う。シンセにおけるその他の特徴は、MS-10 にも似ている。
なお、じつはリズム音色は、内部で自動的にリサンプリングされ使用されている。リズム音色のエディット画面を開くと、モノシンセ・シミュレーターとほぼ同じ画面が表示され、これで音色を自作できるのだが、その結果をエディット終了時に内部で自動的にリサンプリングしている。リサンプリング・タイムは固定で1秒弱と思われるが、けっこう使える音色になるのは驚き。リズム音色だけリサンプリングし PCM 化して使うことで、CPU への負荷を下げるという、巧妙な設計である。
加えて驚かされるのが、どうやらこのリサンプリングされたドラム音色は、ピッチを変えて鳴らしても、自動的にタイムストレッチして尺合わせをしているかのように思えるところ! 後述するエフェクトなどをかけて「かけ録り」してみて、偶然発見。

出力はヘッドフォン端子のみ。USB はじめデジタルで音を出す芸は無い。
ただ、ヘッドフォン端子なので、アナログ・オーディオアウトはステレオ仕様。加えて、5段階しかないとはいえ生意気にもパンニングなどをシーケンス・ステップごとに設定できるのは、なかなか良い。


●同時発音数

計6音ポリ = モノシンセ2台+4パートリズムマシン1台なので、といったところ。

たったモノシンセ2台と4音色リズムマシン1台だけで、なにがでけるねん?という突っ込みもあろうが、リズムマシンもモノシンセとほぼ同等の音創りができ、しかもパッチパネルまで装備しているので、事実上、モノシンセ6台に近いことができる。さらに各シンセはオシレーター2基、かつ VCO2は VCO1に対しピッチ・インターバルを設定できるので、やろうと思えば 12 音からなる和声も出せる。ネット上では、さらに聴感上、同時発音数を増やすかのように聞かせる裏技も紹介されている。このあたりはユーザーの発想の転換と工夫次第。


●内蔵エフェクトの性能と傾向

3アルゴリズムのソフトウェア・マルチエフェクトが1系統。アルゴリズムの内訳は:
・ディレイ
・コーラス
・フランジャー
とあるが、1度に1つしか使えない。

エフェクトには:
・モノシンセ1にのみかける
・モノシンセ2にのみかける
・モノシンセ両方にかける
・モノシンセとリズムマシン全部にかける
・リズムマシンにのみかける
・どれにもエフェクトをかけず、ドライのままにする
という6つの選択肢がある。

ディレイタイムや変調系の LFO を DS-10 内蔵シーケンサーの BPM に同期できるので、リズムパターンやシーケンスのテンポにマッチしたエフェクトがかけられる。

なお、リズムマシンにだけ「DRUM FX」という名の、上記と同じ3アルゴリズムのソフトウェア・マルチエフェクトが、上記とは別にもう1個、リズムマシン専用に装備されているように見える。これは、前述のとおりリズム音色だけがリサンプリングされて使われるために、じつは上記のエフェクトを使いまわし、いわばエフェクトかけ録りができるというものらしい。このおかげで、リズム音色1つ1つに個別のエフェクトをかけることができるばかりか、たとえばスネアにフランジャーをかけてリサンプリングし、その上から通常のエフェクターの使い方(すなわちトータル・エフェクトとして)でディレイかけて飛ばすとか、あるいはハットに短いディレイをかけてリサンプリングし、前述のトータル・エフェクトで長めのディレイかけて複雑なリズムパターンを演出するなどできる。
ただし、リサンプリング・タイムは固定につき、フィードバックの多いディレイをかけていると途中でトランケートされてしまうので注意。逆にそれらを裏技に使うのも手。

なお、エフェクトとして独立はしていないが、VCA パラメーターに「DRIVE」というものがあり、これを上げるとブーストがかったように音量が大きくなり、さらに微妙にオーバードライヴがかかったような若干ひずんだ音になって迫力が出る。こいつだけは VCA についているおかげで、各パートごとに独立して加減しながらかけれるのが良い。


●内蔵波形、プリセットの傾向

モノシンセならびにリズムマシンの音源波形には、三角波、鋸歯状波、矩形波、そしてノイズの4種類あり。
矩形波は、パルス幅が変えられないので、あくまで矩形波のまんま。
なお、取扱説明書には書いてないが、VCO1のノイズは普通の白色雑音で、VCO2のノイズは鍵盤で音階が弾けたり、ピッチ EG やピッチ・ノブでスペクトルを可変できる。このノイズは VCO2のピッチを最大限に上げると、VCO1のホワイトノイズに少し低域を足したような、少々太めのホワイトノイズのような音がするのだが、ピッチを下げていくとピンクノイズやレッドノイズになるのかと思いきや、そうはならず、なんか汚いデジタルノイズの低周波バージョンのような音になる。なんというか、ホワイトノイズをサンプリングしピッチを下げたような感じ。 これだとなんだか使いみちが無いように思えてしまうかもしれないが、ものは使いよう、様々なピッチで VCO1のホワイトノイズや三角波と混ぜると、太い派手な '80 年代スネアっぽい、あくまで「っぽい」音だが、そんな音も出る。また、VCO2のノイズのピッチを、あえていさぎよく思いっきり下げ、ぐつぐつと不規則に鳴るデジタルノイズ的に使い、これをレゾナンス発振させた LPF に通すと、カラカランチリンチリンといった鈴の音のような不規則に鳴る金属音がしておもしろい。

ところで DS-10 では
・2つのモノシンセの音色設定と
・6トラック1小節ループの 16 ステップシーケンサーの打ち込みデータとを
すべてを包括して「1パターン」として記憶させることができる。
さらに
・16 パターンと1ソング分のシーケンス
・1つの4パート・リズムマシンのユーザー音色設定
・そして内蔵エフェクト設定
とを「1セッション」と呼ぶメモリー単位でセーヴできる。
DS-10 本体には、
・A、B、Cの3バンク×6セッション= 18 セッションを記憶可能
・さらに別枠で2つのデモ演奏セッションと、1つの初期設定セッションがプリセットされている
シンセの音色設定をシーケンス・データともどもセッションという単位で管理するところは、DAW のプロジェクトをコンパクトにまとめた感じ。つまり、生意気にもトータル・リコールができる。

よって、モノシンセの設定はパターンごとに、リズムマシンと内蔵エフェクトの設定はセッションごとに記憶できるらしい。「らしい」というのは取扱説明書に明記されてないので私の推測なのだが、とにかくそうらしいので、18 セッション× 16 パターン= 288 パターン記憶できることから
・18 セッション× 16 パターン×モノシンセ2台= 576 ユーザー音色
・18 セッション×リズムマシン4音色= 72 ユーザーリズム音色
とが記憶できることになり、PC / Mac ベースの DAW みたくストレージがゆるすかぎりの無尽蔵ではないところが、DS そのものの制約。とはいえ、ハードシンセ的に言えば、結構な音色メモリーがあることになる。先述のとおりリズム音色は、モノシンセとほぼ同等の音創りが行えるので、あわせて 648 ユーザー音色が記憶できるという言い方も可能。後述のユーザー音色メモリー 24 音色を加えれば、672 音色。なかなかどうして、すごいもんである。
ちなみに、セッションには最大7文字の名前をつけて保存できる。大文字の英数字のみ使用可能。

前述の通り、さらに、これとは別個に音色メモリーもあって、まずプリセット音色としてA、B、Cの3バンク×8音色= 24 音色がある。Aバンクにはシンベ、Bバンクにはシンセリードと S.E、Cバンクはリズムマシン用の音色がプリセットされており、いずれも上書き保存できない。
ユーザーが作成した音色のうち気に入ったものは、D、E、Fの3バンク×8音色= 24 音色の RAM に保存できる。プリセットからエディットした音色も、このユーザー RAM に保存可能。
これらのAからFバンクまでの音色メモリーは、パターンやセッションとは別の記憶領域であり、これを複数のパターンやセッションで共有でき、この音色メモリーからパターンへ音色をロードして使ったり、さらにエディットしてパターンに保存したりもできる。セッション間で音色をやりとりするためのバッファ・メモリーとしても、利用可能。この辺の使い勝手は DAW そのもの。

おそらくだが、DS-10 では、DS-10 のソフトが収められているカード内部にフラッシュメモリーがあり、そこへ各種データが記憶されるように思う。だからバックアップ電池は不要。


(↓ beta へと続く)

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