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2019年10月23日23:03

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【日経の記事】 習主席が生き残りかけるバルカンの万里の長城

読み応えのある記事でしたが有料会員限定の為、以下にコピペ

中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)は、米中覇権争いの長期化を見据えた持久戦の準備を怠らない。その最前線は意外にも共産政権が既に倒れた東欧、そしてバルカン半島である。世界の火薬庫の異名を持つバルカン半島は大国間のつばぜり合いから逃れられない。そこでは今、中国のプレゼンスが高まりつつある。

バルカン半島のまん中に位置するセルビアの首都、ベオグラード。10月上旬、見本市会場では、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の一環で周辺関係国による「イノベーション会議」が開かれていた。テーマは中国をお手本とするデジタル化推進である。
ベオグラードはちょうど20年前も米中確執の最前線だった。1999年にはコソボ紛争に絡み、米軍を主体とする北大西洋条約機構(NATO)軍が当時、ユーゴスラビアの首都だったベオグラードを爆撃。その際、米軍機が中国大使館を誤爆し、中国人3人が犠牲になった。

これに抗議する中国の学生ら数万人が北京の米国大使館前に集結し、大使館の建物壁は投げつけられたペットボトル入りペンキで染まり、窓ガラスも完全に破壊された。

ベオグラードはユーゴスラビアの崩壊後、セルビアの首都に。そのセルビアでは中国国有企業の動きが目立つ。3年前に唯一の製鉄所が河北鋼鉄集団に買収され、1年前にはやはり唯一の銅鉱山会社が中国企業の傘下に入った。セルビア経済の中国依存度はかなり高い。
■崩壊した欧州の旧共産圏が標的

バルカン半島西岸のクロアチア。東西冷戦の終結後も独立を巡って戦乱が続いたが、2013年には欧州連合(EU)加盟も果たした観光立国である。
青さが際立つアドリア海沿いに建つホテルの部屋のテレビをつけると、数少ない英語放送のうち2つを中国国営テレビのチャンネルが占めている。中国グローバルテレビジョンネットワーク(CGTN)のニュースチャンネルとドキュメンタリーチャンネルだ。

番組内容は中国政府の宣伝色が濃い。延々と流れていたのは、中国がいかに開放的かという特集。一方でEU加盟国の大半で見ることができる米CNN、英BBCはメニューにない。つまり、今、世界の話題である香港の大規模な抗議活動を正面から取り上げたニュースは見ることができない。

理由は簡単だ。バルカン半島では中国の影響力が急速に強まりつつある。クロアチアが誇る世界遺産である城塞都市、ドブロブニクの高級ホテルでは今年4月、中国首相の李克強や経済担当閣僚ら多数が出席して中国と中欧・東欧諸国の首脳らによる盛大な会議が開かれた。

習近平が「一帯一路」を初めて提唱したのは6年前。それに先立ち中国は中欧・東欧、そしてバルカン半島諸国と協力の枠組みづくりに着手していた。今春のクロアチア会合は8回目。しかも今年から参加国がさらに増えた。バルカン半島の先端にあるギリシャも入り、「17(中欧東欧諸国)+1(中国)」という枠組みになる。

この17カ国のうち12カ国はEU加盟国である。地図で17カ国を色分けすると、ドイツやフランスを核とするEU経済圏の東側外郭部に中国による新たな「万里の長城」が築かれたのが一目瞭然となる。中国が狙うのは中欧、東欧、バルカン半島、バルト3国といった旧共産圏諸国だ。

万里の長城は中国の歴史上、中原を制した国家が北方の夷敵(いてき)から国土を守るために築いたレンガ造りの長大な壁だった。現代の万里の長城には特徴がある。城壁の周りは経済力というしなやかな竹林で覆われ、一見、砦(とりで)には見えないのだ。

■西に進路をとる対米持久戦の最前線

第2次世界大戦でドイツとの激しい戦いを制したかつての英首相、チャーチルは戦後、ソ連による欧州の東西分断に警鐘を鳴らした。有名な「鉄のカーテン」演説である。あっと言う間に東欧に共産圏を広げたソ連の脅威はそれほど深刻だった。

「バルト海のシュチェチンからアドリア海のトリエステまで(欧州)大陸を横切る『鉄のカーテン』が降ろされた」。チャーチルがいう鉄のカーテンの北端は、バルト海に面したポーランドの港湾都市、シュチェチン。南端はバルカン半島に近いアドリア海の良港、トリエステ(現イタリア領)だ。

1989年11月にベルリンの壁が崩れて30年。ソ連も崩壊した今、この鉄のカーテンが、中国による万里の長城の様相を呈しているのは興味深い。しかも中国は鉄のカーテンの南端、トリエステも「一帯一路」の海上シルクロードに取りこもうと動いている。中国国有企業が運営するギリシャ最大の港、ピレウス港とつなげば地中海への中国の影響力が一段と増す。

欧州に姿を現した万里の長城は、自由・民主主義といった米欧の価値観の拡大を食い止め、中国式の経済発展モデルを「一帯一路」の名の下に広げる橋頭堡(きょうとうほ)に見える。それは習近平が唱える「対米持久戦」の手段でもある。中国の発展に貢献した対米貿易が縮小しても、西に伸びる「一帯一路」という名の中国の存在空間を広げれば何とか生き残れる。そんなソロバン勘定だ。

中国の影響力は、ロシア経済の不振もあって中央アジア諸国に浸透しつつある。その西にある中欧、東欧、バルト3国、バルカン半島という旧共産圏での成功は極めて重要だ。

そう考えると新たな万里の長城は単なる守りのイメージではない。攻めも見据えている。中国古代国家の長城づくりが、農耕民族の勢力圏を遊牧民族地域に広げる手段だったように。それは万里の長城の外にあるはずの主要国(G7)の一角、イタリアとまで「一帯一路」を巡る覚書を交わしたことが象徴している。
■EU主要国からも警戒感

巨大な中国市場に魅力を感じるEU主要国は中国の進出に寛容だった。だが、ここにきて雰囲気が怪しい。「欧州が再び分断されかねない」。そんな懸念が現実になりつつあるのだ。フランス大統領のマクロンはEU加盟国を個別に切り崩そうとする中国をけん制。EUの対中政策の軌道修正に触れた。ドイツ首相のメルケルも中国との基本的価値観の違いに言及している。

中国を覇権争いの相手と見なす米国も黙っていない。米国務長官のポンペオは10月上旬、バルカン半島のモンテネグロと北マケドニアに立ち寄り、バルカン半島諸国の首脳は中国の「一帯一路」のリスクを警戒すべきだと強調した。人口60万人にすぎないモンテネグロでも中国の融資による高速道路建設が進み、国際通貨基金(IMF)が債務過剰問題で警告する事態になっている。

とはいえ最近は中国にとって別の不安要因が出てきた。影を落としているのは中国の国内経済の落ち込みだ。中国の7〜9月の成長率は1992年以来、最低の6.0%。今後は5%台への転落もありうる。

税収の使途への国民の監視がない中国は、これまで莫大な資金を国外に回せた。皮肉なことに、多くの原資は対米貿易黒字がもたらしたのだ。今後、対米貿易の縮小と相まって国内経済が急減速すれば一気に余裕がなくなる。当然、対外融資も影響を受けるだろう。

援助大国だった日本もバブル経済崩壊後、政府開発援助(ODA)を大幅に減らさざるをえなかった。カネの切れ目は縁の切れ目。日本ほど顕著ではないにせよ、中国も似た道を歩む可能性がある。欧州の新たな万里の長城、そして「一帯一路」の将来は、中国経済の行方に大きく左右されそうだ。(敬称略)


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