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2015年04月27日23:39

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狂言:佐渡狐

おさまっていた咳が
週末ぶり返し
ぐったりとだるく
NHKのクラシックコンサートの番組をみようとつけると
今日は古典芸能(狂言、能)だった。

でも
ぐたーっと
うつぶせになったままみていると

狂言、能ともに
予想外にとても素晴らしく
驚き感動する。

能は冒頭の十分くらいで眠気が来たが
あすが平日でなければ最後まで見たかった、

紀貫之がお供のものたちと
桜の花見に吉野にきて
喜んでるところまで、
このあと
地元の女性が通りかかり
それは実は天女で
夜に貫之のもとに天女の姿で現れ
舞を舞う
という話だそうだ。

去年後半
二十世紀半ば以降の
現代音楽を聴いていたが
その耳からすると
能はむしろ非常に
コンテンポラリーな音楽性にすら感じる。

横笛は微分おんだし
「イよー」
「イよー」ぽん
・・・
「イよー」
・・・
「イヨー」
ポン

というリズムは
西洋音楽の楽譜では表せないんじゃないかと思うし

ジョン・ケージの「竜安寺」を何度か聴いたが
とても能に共通点があるように感じた。

今度はぜひ通して能をみたい。

以下紹介したいのは
能の前に通してみた狂言・


狂言は「佐渡狐」


本筋を描く前に冒頭で
とても興味深かったのは
年貢米を役所に収めに行く百姓が
歩きながら言うセリフだった。

大意としては

「最近世の中がとても安定してきて
 こうして年貢米を収めに行くことができるというのは
 なんともすばらしいことだ」

いまの世の中では
貧乏な人は
「消費税が上がるなんてとんでもない。持ってるものからとるべし」
というし
金持ちは
「所得税をとるなんてとんでもない。うすくひろくとるべし」
という。

寡聞に知ってる範囲では
古今亭志ん生が
「税金が払いたくても払えない人がいる。
 税金が払えることは素晴らしいことで
 払える人は喜んで払やあいいんです」
というようなことを言っていたのを読んだくらい。

マルクス主義的唯物史観における搾取構造的な評価軸がある一方で
年貢を納めるというのには
こういう収穫の喜びを祝うような座標軸も
昔はあったのかと目からうろこ。

狂言「佐渡狐」は
いまでいう落語とか
あるいは
お笑いの「コント」というものに
とても通ずるものがあると感じた。

コントは畳み掛けるようなテンポである
一方
狂言はとーってもスローリー。

多分
昔は
屋外でやったんだろうし
だから反響どころか
声は散っちゃうだろうし
ほかにも
風でこずえはうなるは
鳥はなくは
犬は吠えるは
お客はざわざわしゃべるはで。

いまのお笑いのコントは
テレビで見かける限りは
マイクに喋ってるように見えるが
そのころは
当然肉声なわけで。

どうしても
腹からの
大きな声で
ゆーっくりしゃべらないと
声が通じなかったんじゃないのかなあ。

それでああいう
大きな振幅のビブラートのかかった
大変ゆっくりなしゃべり方だったんではないかなあ。


では筋をネタバレで書きたいです。

■佐渡狐


百姓が年貢米を役所に届けに歩いている。

もうひとり
百姓が年貢米を役所に届けに歩いている。


ふたりがお互い見交わし

「あなたはどこから」
「わたしは『越後』から。あなたは」
「わたしは『佐渡』から。」


同じ役所に年貢米を届けに行く百姓同士ということが分かり
二人とも喜ぶ。

「越後と佐渡では海を挟んで向かい同士ではないか」

「こんなに共通点のある者同士が一緒になることはまたとない。
 ぜひ一緒に道中を行こう」

ということになる。

ふたりであるきながらよもやまばなし。

越後「しかし、佐渡なんてのは辺鄙なところでさぞ不便でしょう。
    越後にあるものでも、佐渡にないものは多いでしょう」

佐渡「なんの。佐渡というものは非常な「大国」なのであって
    何から何までなんでもそろっている。
    むしろ佐渡にあるもので越後に欠けてるもののほうが多い」

越後「そうはいっても、佐渡は狐がいないことで有名です。
    越後には狐がいるが、佐渡には狐はいないでしょう」

佐渡「そんなことはない。
    佐渡に狐はいます。
    狸やら鹿やらいっぱいいるが
    むしろ、一番多いのは狐なんです」

越後「そんなことはない。
    佐渡に狐がいないことは常識です」

佐渡「いや。狐はいます」

越後「では賭けようじゃあないですか」

佐渡「受けて立ちます。
    この護身用の短刀を賭けようじゃあないですか」

越後「でも佐渡に狐がいるかいないか
    誰に判断してもらえばよいのか」

佐渡「では役所の役人に判断してもらいましょう」

越後「そうしましょう」


ふたりは年貢を納める役所へ到着。
まず佐渡の百姓が役人の元へ。

役人の指示に従い蔵に年貢を納める。
(その百姓の動作がまた
 実に「誇らしい」感じなんです)

役人「用が済んだら帰りなさい」

佐渡「少々お願いがあります」

役人「なんだ」

佐渡「佐渡に狐はいるのでしょうかいないのでしょうか」

役人「わたしは非常に忙しい。
    そんなこと考えてる暇はない
    「むさ」いこと言っとらんで
    とっとと帰りなさい」
(役人も知らないのだろうな、ということが伝わってくる)

佐渡「そこをなんとか」

役人「帰れ帰れ」

佐渡「ではこれを」
(お金かなにかを役人に渡そうとする)

役人仰天し
役人「ここをどこだとおもってるんです。
    神聖なる役所ですよ
    そんな「むさ」い汚らわしいものひっこめとっとと帰れ」

佐渡「そこをなんとか」

役人「帰れ帰れ」

佐渡はいやがる役人に襲いかかり
無理やり賄賂を役人の袖の中へ
強引に入れる。

すると
ぴたっと役人が動きを止め
袖の下に入ったものを確認し
いごこちわるそうにしつつ

役人「それで佐渡には実際のところ狐はいるのか?」

佐渡「実はいないのです」

役人「それなら佐渡に狐はいない」

佐渡「ところが、じつはかくかくしかじかで
    狐のいるいないで賭けをしてしまい
    わたしは(勢いあまって)
    佐渡に狐はいる、と言ってしまったのです
    
    このあと、越後の百姓が来ますが
    どうかどうか、「佐渡に狐は『いる』」と答えてほしいのです」

役人「なるほど、それはわかった。
    「佐渡に狐は『いる』」と答えよう。
    しかし帰りの道中にでも
    越後の百姓に
    「狐はどういう姿か」ときかれたら
    あんたもこまるだろう。

    狐の姿というものはだな、
 
    ・「犬よりは小さい」
    ・「目がつりあがっている」
    ・「口が耳まで裂けている」
    ・「尾っぽが太くて長い」
    ・「色は薄赤色」

    これが狐だ。
    おぼえておくように」

佐渡「ありがとうございます」

役人「では越後の百姓を呼んで来い」

入れ替わりに越後の百姓が来る。
そしてやはり
何とも誇らしげに年貢を倉に納める。

越後「お願いがあります」

役人「とっとと帰れ」

越後「そこをなんとか。 
    実は
    これこれしかじかで賭けをしました。
    いったい佐渡に狐はいるものでしょうか。
    ぜひご判断いただきたい」

役人「ふーん。
    さきほどの百姓がたしか佐渡と言っていたな。
    まだそこらにいるようだったら呼んできなさい」

越後の百姓が佐渡の百姓を呼んでくる。

役人「二人で佐渡に狐がいるいないで賭けをしたと聞いたが、
    あんたが佐渡の百姓だな?」

佐渡「さようで」

役人「佐渡に狐はいるのか」

佐渡「狐はいます」

役人「では、狐の容姿がどんなことかしっているだろうが
    どんなかいってみろ」

佐渡「へ」

越後が佐渡に向き直り、

越後「そうだそうだ
    狐の姿かたちを言えるものなら言ってみろ

    大きさはどんなだ」

しかし佐渡の百姓はもううろおぼえで
全然出てこない。

ここら辺はとてもコミカルで
役人が
佐渡のほうを向いてる越後の後ろから
ジェスチャーたっぷりに
犬のサイズと
それより小さいサイズを示す。

佐渡は役人のジェスチャーをまねるが
越後が

越後「それじゃわからん。言葉で申せ」


役人が答えを小さく鋭く短く言う。

佐渡「狐は犬より小さい」

越後「たしかに狐は犬より小さい
   うーむ。
   しかしこれはどうだ。

   狐の目はどうなっている」

やはり佐渡はわからず
役人のジェスチャーでもわからず
役人の必死の早口の答えを聴いて

佐渡「狐の目はつりあがっている」

越後「うーむ。たしかに狐の目はつりあがっている」

同様のコミカルなやり取りで
役人の必死の努力で
  ・「口が耳まで裂けている」
  ・「尾っぽが太くて長い」
  ・「色は薄赤色」
と、佐渡が何とか答え
越後も納得する。

賭けていた護身用短刀は
佐渡のものになる。

おさまらないのは
越後。

だって
佐渡に狐がいないのは常識で
絶対勝てると踏んだから賭けたんで
逆転で自分の短刀をとられて
あわてて
必死。

越後「まてまてまてまて」

佐渡「またぬまたぬまたぬ」

越後「訊き忘れておったことがある

    狐の「声」はどうだ
    さあ答えろ」

佐渡「こ、声?」

かたまる佐渡

越後「狐は何と哭く」

焦る佐渡

佐渡「あー。うー。
    狐の声は・・・
    「犬より小さい」!」

越後「それは体の大きさじゃ」

佐渡「あー。うー。
    狐の声は・・・
    「吊り上っている」!」

越後「それは狐の目じゃ」

佐渡「あー。うー。
    狐の声は・・・
    「耳まで裂けている」!」

越後「それは狐の口じゃ」

佐渡「あー。うー。
    狐の声は・・・
    「太くて長い」!」

越後「それは尻尾じゃ」

佐渡「あー。うー。
    狐の声は・・・
    「薄赤色」!」

越後「それは狐の色じゃ
    狐の鳴き声はどうなんだ」

佐渡「あー。うー。
    狐の声は・・・
    『東天紅』!」

越後「うぬは!
    いうにことかいて
    トーテンコーは
    「鶏の鳴き声」じゃ

    うぬが狐を知らないことは証明された
    わしの短刀返せ」

と越後の百姓は佐渡の百姓が持っていた
二本の短刀を奪い去っていく。

佐渡「まてまて。
    たしかにわしが間違っていたから
    うぬの短刀は返すが
    わしの短刀まで持ってくな!

    わしの短刀を
    返せ返せ」

越後「返さぬ返さぬ」

佐渡「返せ返せ」

越後「返さぬ返さぬ」

二人は追いつ追われつ退場していく。



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