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2020年02月02日16:51

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『蟹食う人々』

 『聖闘士星矢』の二次創作。聖戦後復活設定で、ロスサガ・ラダカノ前提。
 アイオロスとサガとカノンと、オリキャラのアケローオス河神がわちゃわちゃする話です。
 オリジナルキャラのアケローオス河神については『ハルモニアの首飾り』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947が初出なので参照。
 反サガ派がアイオロスの周りに美男美女を集めてる話は『教皇様だって苦労してるんです』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8919554を参照。
 アケローオス河神がおすそ分けに持ってきた蟹は、鳥取県産松葉ガニの最高級品「五輝星」(最高落札金額500万円)級の品だったと思われ。そりゃ胃袋つかまれるわ!
 
『蟹食う人々』

 当代のアテナたる城戸沙織は、基本的には日本で生活し、グラード財団の長としての仕事を行っている。とはいえ聖域のことも完全に放置というわけにはいかないので、数か月に一度は聖域を訪れ、報告を受けたり、必要な書類の最終決裁をしたりしていた。
 そんなわけで、昨年の年末にも聖域に来訪した沙織は、一通り溜まっていた仕事を片付けた後、教皇アイオロスとその首席補佐官たる双子座のサガを相手に午後のお茶を楽しんだ。
 その時、彼女がこんなことを尋ねた。
「アイオロス、サガ、あなたたちは年末年始は休めるの?」
 女主君の言葉にアイオロスとサガは顔を見合わせ、そして苦笑した。
「残念ですが、アテナ、年始は聖域では祭儀がありまして、私が休むわけにはいきません」
 アイオロスがそう答えると、沙織は「まぁ…」とつぶやいてやや眉をひそめた。
「あなたたちも大変ね。ちゃんと休暇は取れてる?」
「はぁ…」
 アイオロスが生返事を返す。それが否定の返事らしいと気付くと、沙織はぱんと両手を軽く打った。
「そうだわ。あなたたち、年始の仕事が一段落したら、休みを取りなさいな」
「…は?」
「あなたたちにも休養とリフレッシュが必要よ。私が日本に招待してあげる。旅費は全部グラード財団で持つから、費用のことは気にしないでね」
「アテナ…何と慈悲深い…。大罪人の私にそのようなお心遣いを…」
 感極まったサガが滝のような涙を流して女主君の気遣いに感激する。そしてアイオロスはアイオロスで、「サガと二人っきりで日本旅行…人目を気にせずイチャイチャするチャンス!」と下心を小宇宙に変えて熱く燃やしていた。
「いいのよ。行きたいところがあったら、遠慮なく要望を出してね。必要な手配は全部、グラード財団の方でしてあげるから」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「アテナ、この御恩は我が命に代えてもお返しいたします!」
 でかい図体で暑苦しくもうざったい臣下たちが熱心に感謝を述べるのを、沙織は軽く手を振っていなした。
 こうして、アテナ命令での教皇とその首席補佐官の日本旅行が決定されたのだった。

 というわけで、山羊座のシュラを教皇代理に任命して留守を任せると、アイオロスとサガは日本に発ち、延べ十日間の日本滞在を楽しんで、無事に聖域にと帰還した。
「お帰り、アイオロス、サガ」
 留守を預かっていた山羊座のシュラが、教皇の間でアイオロスとサガを出迎えた。
「ただいま、シュラ。何も問題はなかったか?」
「なかったと言えば、なかったと言うか…」
 サガの問いにシュラが言葉を濁した。何ごとにも切れ味の鋭い彼らしくない。
「どうかしたのか?」
「…実は二日前にアケローオス河神が来られて…」
「アケローオス様が?」
 大洋神オケアノスの長子にしてアテナの母方の伯父、世界の河の神々の筆頭で、サガとカノンにとっては幼い頃の昔馴染みである「河の王」が来訪したという報告にサガは驚いた。
「お前たちが留守だと聞いたら、帰るまで待たせてもらおうと言われて…」
「今はどこに?」
「客室に滞在してもらっているのだが、その…」
「何だ?何が問題だ?」
「…まあ、自分の目で見てくれ」
 シュラに言われて、サガは教皇の間にある客室に足を運び、扉を開いた。
 すると。
「こら〜、待て〜」
「いや〜ん、捕まっちゃったぁ〜」
「アケローオス様、今度はこっちよ!こっちに来て〜」
「ずる〜い。今度は私よ〜」
 客室の中心に置かれていた長椅子と低いテーブルは隅に片付けられて、広間となったその部屋で、目隠しをしたアケローオス河神が教皇の間の女官たちと鬼ごっこに興じていた。女官たちは手を打って音を立てたり、声をあげたりして、布で視界を閉ざされたアケローオス河神を自分の方に誘導する。そして彼の手が近づくとするりと小鳥のように身をかわしてふざけたり、あるいは捕まえられて胸を揉まれると甲高い嬌声を上げて、楽しそうに笑っていた。
「………」
 目の前に広がる光景に、サガは沈黙した。アケローオス河神がキャッキャウフフと複数の若い美女たちと戯れているその様は、まるで彼のハーレムがそこに出現したかのようだった。
 サガの帰還に気付かないまま、目隠しをした河神は扉の方にふらふらと歩み寄り、そこに立っていたサガの身体に抱き着いた。
「ん〜、捕まえた〜。おや、これは誰だ?えらく背が高いな。それに肩幅もずいぶん…」
 サガの身体をわさわさと触りながら、まだそれがサガだと気付かないアケローオス河神が捕まえた女官の名を当てようとする。一方、サガの帰還に気付いた女官たちは、怪女メデューサに睨まれて石になったかのように硬直していた。なので、アケローオス河神に注意を促す者もいない。
「アケローオス様…」
 サガはふるふると震え、そしてアケローオス河神の顔の真ん前で怒鳴った。
「何をやってるんですかーっ!?」
 サガの怒声と怒りの小宇宙で、教皇の間が揺れた。

「…いや、だからな。親父から蟹をたくさんもらったわけよ。で、せっかくだからお前たちにも食わせてやろうとおすそ分けに来たら、日本に行ってて、でももうすぐ戻ると言うから、どうせなら顔が見たいし、ちょっとここで待たせてもらおうかな〜と…」
 女官たちを下がらせ、部屋の隅に片付けていた長椅子やテーブルの位置をアケローオス河神自身で元に戻させた後、長椅子に座って身を小さくしながら状況説明をする河神を、サガは立ったままで冷たく見下ろした。
「それで、女官たちを集めてハーレムごっこですか、そうですか。楽しかったですか?」
「だって、他にすることもなかったし…」
「ここは高級クラブでも、売春宿でもないんですが?」
「別に無理強いはしてないし…。うう、サガ、そんな汚い物を見る目でおれのことを見なくても…」
「相変わらず、女に見境ねーよな。というか、おれたちに用があるんだったら、あんたも日本まで来たら良かったじゃん」
 と言って口を挟んだのは、サガの背後にいたカノンである。
「だって、さすがにおれでも日本まで移動するのは大変だし、アテナと顔を合わせるのも気詰まり…って、カノン?何でお前までここにいるんだ?」
 双子座の黄金聖闘士でもあるが、海将軍筆頭・海龍を兼任して普段は海界にいるはずのカノンまでもが旅行から帰ってきたサガと一緒にいることに、アケローオス河神は当然の疑問を呈した。
 するとカノンは大げさに肩をすくめて、こう説明した。
「いや〜、実はおれも冬期休暇をとってさ。そしたら、なんと!たまたま行先と休暇期間がサガとかぶったんだよ。で、アテネ空港でばったりこいつらと出会ったから、どうせならとおれも二人に同行させてもらったわけ。いや〜、偶然ってすごいよな〜」
「ああ、なるほど…」
 わざとらしいカノンの説明に、アケローオス河神は瞬時に事情を理解した。
「つまり、教皇とサガが二人っきりでイチャイチャするのが許せなくて、わざわざ予定を合わせて、二人の邪魔をするために兄の旅行先に押し掛けたんだな。ご苦労なことだ」
「ち…っ!」
 もっともな指摘に、たちまちカノンは慌てふためいた。図星なのが丸分かりである。
「違うって!ホント、たまたま!偶然なんだって!」
 だがサガを除くその場にいた一同は、「そんな都合のいい偶然があるかよ…」と視線でカノンに突っ込んだ。「たまたま、偶然、休暇の予定が重なった」というカノンの説明を信じているのは、変なところで天然なサガくらいのものである。
「泊まるホテルまで私たちと一緒だったとは、素晴らしい偶然だったな、カノン」
「そ、そうだよな!本当にすごい偶然…『双子の共感性』ってやつ?おれたちって、やっぱり気が合うよな!さすが双子!すごい偶然!」
 にこにこと無邪気に微笑んでいるサガに、カノンが熱く念押しする。
「お前も大変だな、教皇。こんな面倒くさい小舅が一緒だったとは…」
 アケローオス河神が同情に満ちた視線をアイオロスに向けると、彼は力強くうなずいた。
「そうなんですよ!カノンの奴、おれより先にサガの手を握って、二人で仲良くショッピングとか始めるし!東京ではパンケーキが人気だというから食べに行ったら、カノンが『せっかくだから違うのを頼んで、二人で半分こずつしようぜ!』と言い出して、サガと二人でパンケーキを分けて食べ合ってイチャイチャし出すし!宿泊先に着いたら、せっかくアテナがサガの要望を聞いて用意してくださった旅館だったのに、カノンが『サガ、お前の部屋って個室に露天風呂がついてるんだって?おれも入らせて』って言っておれたちの部屋まで来て、そのまま二人で一緒に長風呂してるし!その上、夜になったら『おれの部屋で一緒にゲームしようぜ』ってサガを自分の部屋に連れこんで、二人でそのまま寝落ちしてるし!」
 ここぞとばかりに、アイオロスが今回の旅行におけるカノンへの不満を怒涛の勢いで訴え出した。
「うわぁ〜…」
 アイオロスとサガの仲を邪魔しまくったカノンのブラコンすぎる行動の数々にアケローオス河神がドン引きし、彼がアイオロスに向ける同情の色はさらに濃くなった。
「散々だったな。それじゃあ、全然サガとイチャイチャできなかっただろ」
「いえ、そこは隙を見てイチャイチャしました。根性で」
「『根性で』」
 きりっとした顔で言ったアイオロスの最後の単語を、アケローオス河神は感心したとも呆れたともつかない口調で復唱した。

「しかし教皇、お前付きの女官は美女ばかりだな。おかげでおれはこの二日間、花園で憩う蝶の気分だったぞ」
 スケベ心丸出しで、アケローオス河神がここ数日の「ハーレムごっこ」を振り返り、サガが睨むのもお構いなしで鼻の下を伸ばした。
 だが河神の感想に、アイオロスはため息をついて肩をすくめた。
「はぁ…実は、サガのことを快く思わない連中が結構いるんですよ。で、おれの心がサガから離れるようにと、侍従とか女官にえりすぐりの美形をつけてくるんです。あわよくば誰かにおれの手がつくようにって…」
「なにぃっ!」
 アイオロスの説明に、くわっとアケローオス河神が目を見開いて身を乗り出した。
「それでは、ここの女たちは全員、実質的にお前のハーレム要員か!なんと羨まけしからん話だ!」
「羨まけしからんって…おれには迷惑なだけ…、って、サガァ−ッ!?」
 アイオロスの一連の話に、たちまち険悪なオーラを纏い出したサガに、アイオロスが慌てる。
「アイオロス…お前も本当はハーレムを作りたいとか思っているのか?」
「思ってない!思ってないって!本当、連中の配慮はおれには迷惑なだけなんだって!」
「本当に?」
「本当!本当だから!おれにはお前だけだ!」
 だが熱心に弁明するアイオロスをよそに、サガは重苦しいため息をつき、眉をひそめて苦悩の表情を取った。
「アイオロス…私にも本当は分かっているのだ…。私のような大罪人がお前の側にいるなど許されぬことだと…。本来なら私はお前のもとを去るべきなのだ…。だからお前も私に遠慮せず、気に入った者がいるなら…」
「いやいやいや!サガ!だから自虐的になるなって!お前が不安なら、おれの周りの侍従や女官は全員、不美人に入れ替えるから!」
 アイオロスがそう提案すると、サガはけろっと表情を改めて、ぬけぬけと、もっともらしく、鹿爪な顔で諭した。
「それでは解任される者たちが気の毒だ。全員クビなどと軽々しく言うものではない」
「…ああ、そう…?まあ、お前がそれでいいなら、おれも言うことはないけど…?」
 嫉妬深いくせに、同時に公正ぶりたいサガに振り回される教皇アイオロス様であった。
 弟も面倒くさいが、兄の方も大概に面倒くさい男だなぁ、と急上昇したり急降下したりするサガの表情を見ながら思うアケローオス河神であった。サガの恋人であるアイオロスも、カノンの恋人であるラダマンティスも、よくよく忍耐力のある男であると感心する。
「それで、肝心の、あんたがおすそ分けに持ってきた蟹はどうしたんだ?」
 兄とアイオロスのドタバタが一段落したところで、カノンがアケローオス河神に尋ねる。
「ああ?そりゃ、生鮮食品で日持ちもしないし、すぐに聖域の連中と食ったさ。何しろここには冷凍庫もないからな」
 聖域には電気もガスもなく、昔ながらの生活を送っている、もし水瓶座のカミュがいれば、彼の作った氷で氷冷式の保存庫が出来たかもしれないが、あいにくカミュは東シベリアに帰っていて不在だった。
 さらに河神は蟹に舌鼓を打っていた黄金聖闘士たちの様子を具体的に語り出した。
「まあ、皆、喜んでくれてよかったよ。牡羊座は山国育ちのせいか、最初は蟹を見て『なに…このゲテモノ…。食べられるんですか?』と言ってたが、一度食べ始めたら、貪るように一気に二杯食ってたぞ。獅子座は…あいつはいい奴だな、『こんな立派な蟹…兄さんにも食べさせたかったな』と何度も言っていた。蟹座は気の毒だったな。蠍座に『共食いだな』といじられてた。その蠍座は、獅子座と二人で三杯食ってた。ちなみに一番たくさん食ったのは、山羊座だ。真面目な顔で黙々と三杯も平らげてたぞ」
「シュラーッ!」
 アケローオス河神の説明を聞いたサガは、背後にいたシュラの首筋をつかんでねじり上げた。
「ぐうう…サ、サガ…!苦しい…!」
「お前たち…アケローオス様に蟹で買収されて、この方のやりたい放題を黙認していたなーっ!」
「い、いや、買収されたとか、そういうわけでは…。おれごときがアケローオス様のやることに口出ししていいのか、判断がつかなかったし…」
 と弁明したシュラであったが、うまい蟹をたらふく食わせてもらった分、河神の行動に判断が甘くなったのは否めない。
 そして「教皇代理」として教皇の間を預かっていたシュラと違い、教皇の間に用もない他の黄金聖闘士たちにとっては、アイオロスが手を付ける可能性など皆無な女官たちが誰といちゃつこうが知ったこっちゃない…というのが本音であった。
 要するに、アケローオス河神がやらかした「ハーレムごっこ」にキリキリと怒っているのは、サガ一人なくらいなわけで、しかもその理由が聖域の風紀と規律の維持云々などという公憤ではなく、至って個人的な嫉妬心とアケローオス河神への独占欲であることは、誰の目にも明白だった。
「サガ、お前…」
 怒髪天を突いているサガに、意図的にボケたのか天然なのか、アケローオス河神が見当違いのことを言った。
「そんなにお前も蟹が食いたかったのか?いや〜、それは悪いことをしたな〜」
「問題はそこじゃなーいっ!あなたの!女遊びのほう!」
 サガが怒鳴り返す。
「つーか、そんなに『ハーレムごっこ』がしたいなら、自分の家でやれよ。あんたの館、女ばっかりじゃん」
 カノンがアケローオス河神に言う。
「確かに女はたくさんいるが、『娘』に手が出せるか。侍女扱いのニンフも、おれが手を出したら館の中で変に上下関係がついて、面倒になるだろ?」
「だからといって、聖域で不純異性交遊をして、風紀を乱さないでくださいっ!」
 サガは般若の顔でアケローオス河神を怒鳴り続けた。
 そして再びシュラに向き直ったサガは、据わった目で彼にこう命令した。
「よし。シュラ、二度とふざけた真似が出来ぬよう、アケローオス河神のペニスをお前のエクスカリバーで切り落とせ。今すぐ」
「え?ヤダ…そんな汚いもん、切るの…」
 狂気すら感じる鬼気迫った様相でサガが命じた内容に、ドン引きしたシュラが思わず本音をそのまま声に出す。
「こらこら、汚いとは失敬な。おれは毎日ちゃんと洗ってるぞ」
 どうでもいいことをアケローオス河神が釈明する。
 一方、カノンは空中に手で大きく三角形を描き、異次元を開いた。それに気付いた河神が尋ねる。
「おい、カノン、どうした?」
「…いや、ちょっとこれから日本に取って返して、瞬からアンドロメダ聖衣のネビュラチェーンを借りてくるわ。それで三万年ほどコーカサスの山に縛り付けられれば、あんたも心を入れ替えるだろ」
「いやいやいや。勘弁してくれ。おれはプロメテウスほど辛抱強くない」
 大神ゼウスに逆らい、カウカソスの山に三万年も縛られたというプロメテウス神の神話を持ち出して、同様の刑罰をアケローオス河神に与えようと言うカノンの提案を、河神は全力で拒否にかかった。怒り狂うサガの陰に隠れて分からなかったが、カノンも相当、機嫌を損ねていたと見える。
「それに、おれのあそこを切り落したり、山に縛り付けたら、お前たちも楽しい思いが出来なくなるぞ!それでいいのか!?」
「…うっ!」
「…ぐっ!」
 サガとカノンが答えに詰まる。「兄代わり」であるアケローオス河神への独占欲が高じた挙句に彼に肉体関係まで求めた双子たちだったが、ベッドでのあれこれは存分に楽しんでおり、二人そろって下半身の要求には正直であった。
「だいたい、何でおれがそこまで怒られにゃならんのだ!?おれはお前の何だ、サガ!?」
 さすがに言われっぱなしに腹が立ってきたアケローオス河神が、長椅子から立ってサガに言い返した。
「何って…」
「配偶者か!?婚約者か!?恋人か!?そのどれでもないだろ!?」
「そ、そうですが…」
「だったら、おれが誰と遊ぼうが、誰を口説こうが、おれの自由なはずだ!お前がおれの行動を束縛する権利はないはずだ!」
「そ、それは…」
「だったら、もうあれこれ言うな!分かったか!」
「……」
「分かったか、サガ?」
「……」
 しばらくうつむいて沈黙してたサガだが、やがてぼそっと口を開いた。
「…あ…」
「あ?」
「アケローオス様の…」
「おれの?」
「アケローオス様の大バカーっ!」
 途端にサガはギャン泣きし始め、さらに腕をじたばたと振り回し始めた。
「え、ええーっ!?サ、サガ…?」
 幼児が駄々をこねているとしか思えないサガの行動に、さすがにアケローオス河神があっけにとられる。
「バカバカバカバカーっ!アケローオス様のバカーっ!嫌いだ嫌いだ嫌いだーっ!」
 サガはその振り回す腕で、アケローオス河神をぽかぽかと叩き始めた。普段は端然とした落ち着きを見せるサガと同一人物とは思えぬ幼児返りの様だった。
「え、ちょ…サガ…痛…」
「バカバカバカバカーっ!分からずや!女たらし!スケコマシ!節操なし!不潔!大っ嫌いなんだからーっ!」
「い、いや、ちょ…落ち着けって…」
「き、嫌い…っ、ひくっ…き、嫌いだ…死んじゃえ…ぐすっ…」
「サ、サガ、とりあえず落ち着こう、な?な?」
 ヒステリーを起こしたサガを持て余しつつ、それでもアケローオス河神が彼をなだめにかかる。そしてカノンはというと。
「やーい、やーい。泣ーかした、泣ーかしたー!」
 と、アケローオス河神を冷やかしにかかっていた。サガが癇癪を起こした幼児なら、こちらは小学生低学年の男子である。
「い、いや、悪かった。サガ。おれが全面的に悪い。謝る。謝るから。な、な?」
 論理で河神に勝てず、代わりに感情を爆発させたサガに対し、とうとうアケローオス河神は無条件降伏して、サガに謝罪した。サガの涙は最強の武器であった。なにしろ教皇を打倒すると息巻いて乗り込んできた天馬星座の星矢が、サガの泣き顔で一時的に戦意を喪失したくらいである。
「ほ、本当に…?」
「うん。もうお前の目の届く範囲では女遊びはしません。だから、な?機嫌を直してくれ」
「や、約束してくれます?」
「うん。はい、約束」
 そしてアケローオス河神はサガの額にチュッとキスをした。ぐすぐすと涙をぬぐったサガが言う。
「じゃあ…許します」
「うん」
 そして機嫌を直したサガは、さらにいけ図々しくアケローオス河神に要求した。
「あと、私も蟹を食べたいです」
「うん、分かった。あとで追加で蟹を届けさせるから」
「おれにもくれよ、蟹」
 カノンも兄の尻馬に乗って一緒に河神に要求する。
「はいはい、海界にも贈る。贈りますよ。贈ればいいんだろ」
 こうして双子にゲロ甘いアケローオス河神のおかげで、サガとカノンは河神からさらに蟹をせしめたのだった。

 その後、聖域ではアケローオス河神から贈られた蟹をもとに「蟹祭り」が開催され、聖域の住民たちは立食形式で提供された様々な蟹料理を堪能したのだった。
 サガの機嫌を取るために、聖域の住民全てに行き渡るほどの量の蟹を供出させられたアケローオス河神は、収支書を見ながら「今月は赤字だ…」とぼやき、高くついた聖域での「ハーレムごっこ」の代償を嘆いたのだった。

<FIN>

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