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2019年10月23日21:55

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『ねぇ、どこが好き?』

 2019年ラダ誕作品2作目。
 1作目の『MA・YU・GE』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11851576があまりにくだらないネタだったので、もうちょっと何か…と思って書いたのがこれ。
 拙宅のラダマンティスとカノンの関係の原点に戻ってみました。
 ラダマンティスとカノンは、クールでシリアスでハードボイルドな大人の男×2でいて欲しいんだけどなぁ…なんか最近その路線から外れてるぜ…。

『ねぇ、どこが好き?』

 丸一日をラダマンティスの寝台の上で過ごすことになったカノンは、ラダマンティスの旺盛な精力と体力の前に撃沈していた。それでも飽き足らず、まだカノンに食指を動かしてくる冥界の翼竜に、カノンが音を上げて、ため息をつく。
「勘弁してくれ、ラダマンティス…」
「この程度で参るお前ではあるまい?」
 ラダマンティスが腕を伸ばして、カノンの体を抱き込む。カノンは眉を寄せて嫌そうな顔をしたが、拒否はしなかった。何度目かの再戦を挑もうとしたラダマンティスを、カノンがじっと見つめる。
「なあ…。一度聞いてみたかったんだが…」
 カノンはやる気がなさそうな声でラダマンティスで話しかけ、そして問うた。
「ラダマンティス…。お前さ…おれのどこが好きだ?」
「どこって…」
 ラダマンティスの腕の中から離れて、気怠そうにごろっと転がったカノンが言う。
「やっぱり、この顔と体か?自分で言うのも何だが、顔と体には自信があるぞ。何と言ってもあのサガと同じだからな」
 …そこで「サガと同じ」と、双子の兄が美の基準になっていたり、双子の兄の容姿が美しいのを無条件の前提にしているあたり、改めてカノンのブラコンぶりの深刻さを再認識したラダマンティスだった。
「なあ?やっぱり、おれの顔と体がお前の好みだったのか?」
 うつ伏せになったカノンが組んだ腕の上に頭を乗せたポーズでラダマンティスを見る。
 じっとラダマンティスの答えを待っているカノンに、ラダマンティスは考えて答えた。意外にカノンが真剣そうな顔をしているので、適当にはぐらかしたくはなかった。
「容姿…は…、まあ、美しいとは思うが、それは決定的な要素ではないな。だいたい、容姿に惹かれたならサガにも惹かれるだろうが、サガには何も感じんのだ、おれは」
「へえ?じゃあ、おれのどこが気に入った?」
 面白そうにカノンの目が輝く。とつとつとラダマンティスは答えた。
「初めて会った時…」
 聖戦の際、冥界・第二獄での出会いを思い出してラダマンティスが言う。
「なんと不遜な男だと、お前のことを思った。それまでお前が何をしてきたのか、どういう男なのか…知識としては知っていたからな。自分のことを棚に上げて聖闘士の小僧どもに説教をするなど、傲慢で、身の程知らずで、小賢しくて、卑小な男だと…そう思っていたのだが…」
 改めてラダマンティスがカノンを引き寄せ、顔を覗き込む。
「実際に戦ったお前は、誰よりも強くて、迷いがなくて、真っ直ぐで、気高くて、潔くて…。想像していたお前とは全く違った。その意志の強さに、覚悟の見事さに、魂の輝きに、おれは目が離せなくなった。あの時に、おれはお前に魅了されたのだろうな…」
 カノンの首筋にラダマンティスが手をかけ、軽く締める。
「何としてもこの男はおれが倒したい、その命をこの手で摘み取っておれのものにしたい、他の誰にも渡しはしない、と…」
「…で、今は?」
 ラダマンティスを見つめて、カノンが問う。
「今も、その気持ちは同じだ。あるいはおれは…」
 ラダマンティスはカノンの首から手を放すと、彼の手を取って甲に口づけた。まるで騎士が姫君にするように丁重に。
「今でも、お前と戦いたい、手心を加えぬ命がけの殺し合いがしてみたいと、そう思う自分がどこかにいる。それが出来ぬゆえに、代償行為として、こうして体を交えているのかもしれん」
「…それは、『愛』か?」
「『愛』というのには、少しばかり殺伐としているな」
 ラダマンティスが苦笑する。
「だが、お前が愛しいと思う気持ちも確かにあるのだ、カノン。付き合ううちに、おれはお前の強さだけでなく弱さも知った。わがままなところも、気まぐれなところも、寂しがり屋なところも、甘ったれなところも、罪の意識を抱えてそれでも強く生きようとしている決意も…お前の抱えるそれら全てが、今のおれには愛おしい」
 そう、と、ラダマンティスがカノンを見つめる。
「おれはやはりお前を愛しているのだ、カノン」
 ラダマンティスは微笑み、今度は彼がカノンに疑問を発した。
「お前はどうだ?カノン。お前はおれのどこが好きだ?」
 まさかこの眉毛ではあるまい、と、ラダマンティスは思う。カノンほど、ラダマンティスは自分の容姿に自信を持っているわけではない。醜いとまでは思わないが、どちらかといえば異相の部類に入る顔なのではと思う。
「お前が…初めてだったから…」
 カノンがぼそっと呟く。
「ん?」
「サガを知った上でなお、おれに執心した男は、お前が初めてだったから…」
 カノンがラダマンティスの顔に手を伸ばす。
「お前がサガではなくおれを選んでくれたから、だからおれは…」
「それが理由か?」
 カノンの心の中には、どこまでも双子の兄の存在が大きく影を落としていた。兄の影はカノンの心の奥深くに根を張り、カノンの内面を裏側から密かに、静かに、だが確実に絡めとっている。
 「サガは常に誰からも愛され、選ばれ、認められる。だが自分はそうではない」。それは聖域で「双子座の影」「サガの代わり」にしかなり得なかったカノンが抱えるトラウマの一つだった。ラダマンティスの存在をもってしても、その影響からカノンを自由にすることは出来ずにいる。
「ラダマンティス、おれはお前の目が好きだ」
 と、カノンが言う。
「あの聖戦の時に、お前がおれだけを追って来た時のように…お前の目はおれだけを見てる。サガと比較することは決してなく…。おれだけを見て、おれのことだけを考えて、おれだけに執着して…それが、おれにはとても心地いいんだ」
 そしてカノンはラダマンティスの胸にすり寄り、苦笑した。
「うん、おれもお前と命をかけた戦いがしたいのかもしれない。聖戦の時のように、おれだけを見ているお前の目が見たいんだ。セックスの時のお前の目は、あの戦いのときの目に似ている…おれのことでいっぱいいっぱいになってる目だ。おれは、それに惹かれる」
「それではおれたちは、似た者同士なのだな」
 ラダマンティスも苦笑する。カノンがラダマンティスを見つめた。
「ラダマンティス、おれはお前とのセックスが好きだ。あの戦いの時の高揚感が蘇る。同時に、愛されているという実感と幸福感がある…」
 カノンがそう言うと、ラダマンティスも同意した。
「それはおれも同じだな。お前とのセックスは…聖戦での戦いに似て、何よりも血が騒ぐ」
 二人はその後、お互いを抱きしめ合った。
 だが穏やかな時間は束の間で、すぐにラダマンティスがカノンにのしかかった。
「よし、カノン。では『戦い』を再開するとするか」
「…え?」
 甘やかな愛の語らいらしきものからの突然の展開に、カノンが目を丸くする。
「手加減なしの本気の『戦い』となれば、勝負がつくまでしなければなるまい。あるいは、どちらかの『死』までな」
 にいっと笑んだラダマンティスの黄玉の瞳が血の色に変わる。聖戦の時のように。気が高ぶった時のラダマンティスの特徴だった。
「え、いや、ちょっと…」
 やる気満々で獰猛な笑みを見せるラダマンティスにカノンが身を引く。
「い、いや、今日はもう無理!降参、降参だって!」
 無理無理無理、と、ラダマンティスの前で手を振る。
「降伏は認めん。勝負はどちらかが倒れるまでだ」
「え、えええ〜〜〜っ」
「いくぞ、カノン」
「う、うわーっ、やめ…!………あ…」
 カノンの拒否の声が嬌声に変わるのに、さして時間はかからなかった。

 というわけで、カノンはラダマンティスに寝台の上でそれはそれは熱い「戦い」を何度も挑まれて、最後は足腰を立たなくされることで「敗北」を喫したのだった。

<FIN>

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