『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定でラダカノ。
2019年のラダ誕作品です。誕生日の朝にカノンがラダマンティスの眉毛に悪戯してしまい…という話。すっげーくだらないネタです。そして何だかんだでトラブルを解決してくれる冥界の便利屋ミーノス、意外にいい人?
神話時代の三巨頭の話はこちら。『クレタから吹く風』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4144377
去年の作品はこちら。『花婿にウェディングドレスを』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10243602
『MA・YU・GE』
十月三十日の朝。冥界三巨頭の一人、天猛星ワイバーンのラダマンティスの誕生日である。
その前夜から、彼の恋人であり、海将軍筆頭・海龍にして双子座の黄金聖闘士でもあるカノンが、祝いのために冥界のカイーナにある彼の居城を訪ねていた。
そして二人は甘い、甘〜い一夜を一緒に過ごした。満足しきって眠りについたラダマンティスは、幸せな朝を迎えようとしていた。
朝、といっても、冥界は永遠の闇に閉ざされていて日の光など差し込まない。それでも冥闘士たちは、水時計や機械時計によって示される地上のギリシャの時間に合わせて生活している。
そしてその日、体内時計によって「朝」を感じたラダマンティスの意識は、眠りから覚醒へと動き、まぶたを開いた。
すると、同衾していたカノンの顔が目の前にあった。しかも、いつになく真剣な顔でラダマンティスを見つめていた。だが深刻そうとすら思えるその表情には不似合いなことに、なぜかカノンは右手に剃刀を持っていた。ひげを剃るためにラダマンティスの居室の洗面所に備えつけてあるものだ。
「…どうした、カノン?」
何が起きたのか分からず、ラダマンティスは剃刀を手に自分の顔を凝視している恋人に声をかけた。
「いや、いつ見ても立派な眉毛だなと思って…」
カノンが空いた左手の人差し指でラダマンティスの眉毛をつつく。ふさふさとした感触を楽しんでいるかのようだった。
「思ったんだけどさぁ…。この眉毛、もっときちんと整えたら、男前の度が上がるんじゃないかって…」
「…は?」
「この繋がった真ん中を剃ってみるとか…」
深刻そうな顔をしていたカノンの瞳が、一転して好奇心で輝いた。
「なあ、ちょっとやってみようぜ!」
「……!!!」
そしてカノンは剃刀をラダマンティスの眉毛に当てようとした。
「…!いい、カノン!余計なことはするな!」
「ほんのちょっとだけだから!やらせてくれよ」
「しなくていい!女ではないのだから、眉毛を整えるなど…!」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」
「やめろーっ!」
二人はベッドの上でじたばたともみ合い。
ぞりっ!
「…あ…」
「……!」
そして事件は起こった。
「…で、ラダマンティスの左側の眉毛を、ごっそり剃り落してしまったと…」
朝からカイーナに呼ばれて事情を明かされたミーノスは、話を聞き、そして片眉の無くなった同僚の顔を目にすると、遠慮なく大爆笑した。
「け、傑作です!ラダマンティス…!その顔…!」
「…そこまで笑わなくていいだろう、ミーノス」
「い、いや、でも…その顔…!ぶっ…くくく…っ」
「笑うなと言うに!」
「無理、無理です!鏡を見なさいよ!その顔…顔…!」
「ああ、もう…!」
だから誰にも会いたくなったのに…と、ラダマンティスは頭を抱えて落ち込んだ。
ミーノスはひとしきり笑った後、呼吸を整えて尋ねた。
「で、どうして私を呼んだんです?」
「いや…。お前ならひょっとして、即効性の毛生え薬とか持ってないかなー…って…」
ソファに座ったラダマンティスの背後に立つカノンが、さすがに申し訳そうな顔でぼそぼそと呟く。
「そんなもの、持っているわけないでしょう!私を何だと思ってるんですか!?便利屋じゃないんですよ!」
「…お前でも無理か」
がくっとラダマンティスが落胆する。誰にも顔を合わせたくなかったラダマンティスが、それでもカノンに説得されてミーノスを呼んだのは、あるいはミーノスなら何らかの打開策を持っているのでは…と二人とも思ったからであった。何だかんだで、「ミーノスなら何とかしてくれる」と思わせる不思議な力が、彼にはあった。
「こんな顔では部下にも会うことができん…。おれはどうすればいいのだ?」
「そうですねぇ。眉毛が生えそろうまで、山奥にでも籠って修行をすれば?」
「ミーノス、冗談を言っている場合ではない!」
「まあ、確かに。こんなことであなたに職務放棄されても困りますね」
ふむ、とミーノスは考えた。
「とりあえず、今は手元に毛生え薬とかありませんが…。パシパエに相談してみますよ。彼女は女魔術師ですからね。不思議な薬の一つや二つ、作れるかもしれません」
パシパエとは、神話時代のミーノス王の妃だった女性である。父は太陽神ヘリオス、母はオケアノス神の娘ペルセーイスという血統で、れっきとした女神である。魔術に長けた彼女は、神話の時代、浮気を重ねるミーノスに激怒して、彼が自分以外の者と交わるとサソリや蛇がミーノスの体から出て相手を殺してしまうという呪いをかけたこともある。歴史時代にはペロポネソス半島に彼女の神託所があったほどだ。
ミーノスが去った後、ラダマンティスは一言も声を発せず沈黙したまま、落ち込んでいた。
「あー…、その、ラダマンティス…。すまん…。本当に、すまん…」
さすがにカノンが殊勝に謝る。だが何度謝られても、ラダマンティスの気分は浮上しそうになかった。謝罪されたところで失った眉毛が生えてくるわけではない。
その時、ラダマンティスの居室の扉をノックする者がいた。まさかミーノスが早くも、と、思ったが、残念ながら相手はラダマンティスの側近、天哭星ハーピーのバレンタインだった。
「ラダマンティス様、朝食をお持ちしました」
「…入れ」
バレンタインがラダマンティスとカノン、二人分の朝食を運んできた。バレンタインはすでに上官から事情を聞かされ、他の者に見られぬようにと身の回りの世話を頼まれていた。真面目な顔でテーブルの上に食事をセッティングしていったバレンタインだったが、ラダマンティスの顔をちらりと見ると、
「…失礼します」
最低限の礼儀は守りながらも、肩を震わせつつ退室して行った。
最も信頼する部下の態度に衝撃を受け、くわっとラダマンティスがカノンに叫んだ。
「どうするのだ、カノン!?バレンタインにも笑われてしまったではないか!」
「ど、どうするって言われても…」
原因を作ったカノンも困り果てていた。
「と、とにかく、飯にしよう!な、な!」
カノンはテーブルの上のサンドイッチに手を付けた。冥界の物を食べては冥界の人間になってしまうため、カノンの食事は特別に地上から取り寄せている。
カノンに勧められ、ラダマンティスも黙ったまま食事を始めた。その途中、今度はノックもなしに居室の扉がいきなり開かれた。
「聞いたぞ、ラダマンティス!面白いことになったそうだな!」
現れたのは、これまたラダマンティスの同僚の一人にして冥界三巨頭の一人、天雄星ガルーダのアイアコスだった。仰々しい冥衣姿でもなく、荘重な法衣でもなく、軽快な平服のチュニック姿だ。
突然現れたアイアコスは、ラダマンティスの顔を見ると、ミーノス同様に遠慮なく大爆笑した。
「あーっはははは!ラダマンティス、その顔…!」
ラダマンティスの顔を指差してアイアコスが笑う。
「アイアコス…」
「傑作!神話の時代にこの仕事に就いて以来、お前との付き合いもかれこれ三千年以上になるが…こんな愉快なお前の顔は初めて見たわ!よくやった、カノン!」
「そこは褒めるところではないだろう…!」
「いやー。でもさすがはカノンだ。こんな真似、他の者には不可能だ。さすがは神をもたぶらかした男!実にお見事!」
アイアコスは手を打って呵々大笑した。
「ミーノスから話を聞いたのだな…」
「まあな。カノンが泊まっているのに、朝早くにトロメアからカイーナにミーノスが呼ばれて行くのを見りゃ、そりゃ何があったか聞くだろ?」
「〜〜〜っ!」
ラダマンティスは再び頭を抱えた。片眉を剃り落されたなどという事実は誰にも知られたくなかったし、こんな間抜けな顔も見られたくなかったのに、知っている人間も顔を見た人間も、数がどんどん増えていく。
「ハーデス様と双子神が眠っておられるのがせめてもの救いだ…。パンドラ様がエリシオンにおられて、知られずにすむのも…」
「パンドラ様にはミーノスが報告するって言ってたぞ」
あっさりとアイアコスはラダマンティスの希望を撃ち砕いた。
「…あの野郎ーっ!」
ラダマンティスは絶望のあまり叫び、ミーノスを罵った。
「最悪だ…、最悪の誕生日だ…」
ラダマンティスの落胆もどこ吹く風とばかりに、アイアコスは相変わらず飄々として楽しそうだ。
「せっかくだ!記念写真を撮ろうぜ、記念写真!こんな機会、二度とないぞ!」
「そんなもの、撮ってたまるかーっ!出ていけ、アイアコス!」
騒々しい同僚を追い返した後、再びラダマンティスは不機嫌な沈黙に陥った。
「その…本当にすまなかった、ラダマンティス。悪気はなかったんだ」
「……」
カノンの謝罪にも一向にラダマンティスは反応しない。あまりに覇気のないその様に、まさか眉毛の方がラダマンティスの本体だったのか?などと馬鹿なことをカノンは考えた。
「その…おれに出来ることなら、何でもするから。な、元気を出せ」
「何でも…だと?」
「おお!何でもしてやる!」
カノンの安請け合いに、ラダマンティスはソファからふらふらと立ち上がった。幽鬼のような表情で、彼は床に転がっていた剃刀を手にした。
「ならば、カノン!貴様も片眉を剃り落せーっ!」
「え、ええーっ!?」
「お前にもおれと同じ屈辱を味わわせてやる!剃れーっ!」
「や、やめろー!」
ラダマンティスに追われたカノンは室内を逃げ回ったが、胴にタックルを受けて、はずみで床に転がった。横たわるカノンの体にラダマンティスがのしかかる。
「…動くなよ、カノン」
「や、やめろって、ラダマンティス!落ち着けーっ」
じたばたと二人がもみ合っていると、またラダマンティスの居室の扉が開いた。今度の来訪者は、ミーノスだった。
ミーノスは床の上で絡み合っているラダマンティスとカノンを見ると、こう言った。
「お取込み中でしたら、出直しますよ?でも床の上でってのは体が痛くなると思いますけどねぇ」
「…違う!誤解だーっ!」
情事の最中と間違えられて、カノンが慌てて訂正する。
「ミーノス、ここに来たということは…何か打開策が出来たのか?」
ラダマンティスがすがるように聞く。ミーノスは掌の上に小瓶を取り出してみせた。
「パシパエに頼んだら、すぐに作ってもらえましたよ。即効性の毛生え薬。いや〜、持つべきものは魔術に強い妻ですね」
「……!」
大喜びでラダマンティスが小瓶に手を伸ばす。だがミーノスは、手を引いて小瓶を遠ざけた。
「これを渡すに際し、交換条件が一つあります」
ミーノスがラダマンティスに言う。
「条件とは何だ?」
「今のあなたの顔を写真に撮らせなさい」
そしてミーノスは法衣の懐からデジタルカメラを取り出した。
「お前もかーっ、ミーノス!お前もアイアコスと同類かーっ!」
「だって話を聞いたパンドラ様が、あなたの今の顔をそれはそれは見たがっているんですよ。エリシオンにいて見に行けないのが実に残念だと、それはもう大変なご落胆で…。だから写真なりと見せて差し上げようと思いまして。それに私だってこんな愉快な事件、記録に残しておきたいですしね。もう二度と拝めないでしょうからね、あなたのこんな間抜け面は」
「ミーノスッ!」
「さあ、どうします?私としては、ここでこの小瓶を床に叩きつけて壊しても、一向に構わないんですけど?」
「う、う、う…」
しばらくの間、煩悶していたラダマンティスであったが、結局、ミーノスの交換条件を飲んだのだった。
ミーノスがパシパエに作らせたという毛生え薬は、マニキュアのように小瓶の蓋に筆がついていた。その筆でラダマンティスの剃られた眉毛の跡にちょいちょいと小瓶の中の液剤をつけると、たちまちのうちに彼の眉毛は生えそろった。
「すげーな、この薬。地上に持っていったらノーベル賞ものだぜ」
ラダマンティスの眉毛に薬を塗って、その効果を見たカノンが感心する。
「だが魔術的な薬だろうからな。地上の人間には再現不可能だろう…」
鏡を見て、とりあえずラダマンティスは元に戻った顔に安堵の息をついた。恥ずかしい顔をミーノスに写真に撮られてしまったが、それについては忘れることにする。
「ラダマンティス、今回は本当にすまなかった」
「……」
謝罪を繰り返すカノンだが、ラダマンティスの怒りはまだ幾分か残っていた。
「その…本当に、悪かった。償いに何でもしてやるから。な、な?」
だから機嫌を直せ、と、カノンがラダマンティスをなだめる。
「何でも、か」
「ああ。何でもお前の言うことを聞く!」
「そうか、では聞いてもらおうか」
むっつりと怒りをにじませた声で立ち上がったラダマンティスは、カノンの体に手をかけ、彼を一気に肩に担ぎ上げた。
「うわっ、ラダマンティス、何を…」
「二度とこんな馬鹿な真似をしないように、体にしっかりと教えて、叩き込んでおいてやる!」
「…え、え?」
「幸い、今日は誕生日ということで休みをもらっているからな。おれの気が済むまで付き合ってもらうぞ、カノン」
「ええーっ!」
ラダマンティスは肩に担いだカノンを自分の寝室に運び込み、扉を閉めた。
そうしてカノンは、足腰が立たなくなるまでラダマンティスにベッドの上で「教え込まれ」「叩き込まれ」たのであった。
<FIN>
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