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2019年08月16日02:36

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『おとぎ話なラダカノ』第2話

『おとぎ話なラダカノ』第2話

「馬鹿ですか、あなたは!?」
 宿舎でミーノス王子は弟のラダマンティス王子を怒鳴りつけました。
「初対面の相手に求婚!?しかも相手は聖域王国の王女ですよ!何を考えてるんですか!?」
 しかしラダマンティス王子も一歩も引きません。
「おれは本気だ、ミーノス!絶対にカノン王女と結婚する!」
「あなたがこんな短絡的な人とは…。あなたはもっと思慮深いかと思ってましたよ」
 ミーノス王子は長い長いため息をつきました。
「確かに突然だったが…。だがおれとカノン王女が結婚すれば、両国の和平の強化にもなるではないか!?何が問題だ!?」
「そういうことなら…。まず使者を立ててですね…。いや、それよりも、だいたい、どうしてカノン王女なのですか。後継ぎはサガ王女ですよ」
「サガ王女?」
 ラダマンティス王子はきょとんとした顔になりました。
「…サガ王女は眼中にないって顔ですね」
「うむ。顔も覚えていない」
「いや、カノン王女と同じ顔ですが」
「そうだったか?」
「あなたを蹴倒した相手ですよ?」
「うーむ…そういえばカノン王女と同じ髪の色だったような…」
 一生懸命に記憶を探っているらしい弟の様子に、再びミーノス王子はため息をつきました。
「まったく…さっぱり訳が分かりません。カノン王女のどこに惚れたんですか?」
「どこと言われても…。とにかく、一目でおれの体に電流が走ったのだ。おれの伴侶になるのは、あのカノン王女しかいない!」
「あー、はいはい。分かりました」
 のぼせ上っている相手には何を言っても無駄とミーノス王子は悟りました。
「とにかく、あなたは一度、帰国しなさい。そのうえで改めて求婚の使者を…」
「いや、帰国は出来ん」
「なぜですか?」
「まだカノン王女から返事をもらっていない」
「……」
 ミーノス王子は叫びました。
「馬鹿ですか!?本当に馬鹿なんですか、あなたは!?」
「とにかく!おれはもう一度、カノン王女に会う!会って返事をもらう!このままでは帰れん!」
「あー!もう!この馬鹿ーっ!」
 宿舎にミーノス王子の叫び声が響き渡りました。

 カノン姫は寝床の中で右に左にと寝返りを打っていました。
『どうしよう…』
 彼女が考えているのは、もちろんラダマンティス王子のことです。
『あんなことを言われたの、初めてだ。サガじゃなくて、おれに…』
 それを思うと、嬉しいやら、恥ずかしいやら、カノン姫はどうしたらいいのか分からなくなって、布団の中でじたばたともがくのでした。
『どうしよう…。どうしたらいいんだろう…』
 変な眉毛だったけど、と、カノン姫がラダマンティス王子の繋がった眉毛を思い出した時。
「カノン王女」
 聞き覚えのある声が耳元でしました。カノン姫が振り返ると、眉毛の繋がったいかつい顔が間近にありました。たった今までカノン姫の頭の中を占めていた顔です。
「うわーっ!出たーっ!」
 当然、カノン姫は驚いて飛び起きました。
「ど、ど、どうしてここに…ラダが…っ」
「いや、実はミーノスが前々からこの国の王宮の衛兵や女官を買収したり、手の者を潜ませていてな。その者らに手引きしてもらってここまで来たのだ」
 ミーノス王子、さすがの手回しの良さです。怖すぎます。それにしても王女の寝室まで旧敵国の王子があっさりと侵入できるなんて、こんなありさまで聖域王国の王宮の警備は大丈夫なんでしょうか。色々と心配になる事態ですが、カノン姫にはそこまで気を回す余裕はありませんでした。
「でも…どうしておれの部屋に…」
「カノン王女、おれの求婚への返事を頂けないだろうか」
 ぎゅっとカノン姫の手を握ってラダマンティス王子が言いました。
「おれのことが嫌いですか、カノン王女?」
「き、嫌いなんて…」
「では…」
「でも…ラダはおれでいいの?サガじゃなくて?」
「おれはカノン王女がいい。カノン王女だから、結婚したいのだ」
 その途端、カノン姫の目に涙が浮かびました。
「カ、カノン王女?」
 うろたえるラダマンティス王子の前で、カノン姫は泣き出しました。
「う、うわあああーん!」
「カノン王女、どうし…」
「う、嬉しいよぉぉぉーっ」
 カノン姫は泣きじゃくりながら言いました。
「そ、そんなこと言ってくれるの、ラダが初めてだよぉぉー!みんな、おれよりサガの方がいいって…おれのことを、無視してるんだもん!おれの方がサガよりいいって言ってくれたの、ラダが初めて…」
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったカノン姫の顔を、ラダマンティス王子は自分のハンカチで拭きました。
 ああ、そうか、と、ラダマンティス王子は気付きました。
 だからカノン王女が良いと思ったのだ。姉姫の後ろで居心地悪そうにしている姿を見て、おれがこの姫を日の光の下に引き出してやりたい、守ってやりたいと思ったのだ、と。
 改めて、ラダマンティス王子はカノン姫に申し込みました。
「カノン王女…。おれの妻になってくれますね?」
「うん…うん!」
 カノン姫はラダマンティス王子にしがみつきました。
「良かった。ではおれは一度国に帰るので、改めて使者を…」
「やだ!」
 ラダマンティス王子がカノン姫を離そうとすると、彼女は逆にしがみつきました。
「ラダと離れたくない!おれ、ラダと一緒に行くよ!」
「え?」
「絶対、離れない!ずっと一緒だ!」
「カノン王女…」
 だだをこねる相手に愛しさが募ったラダマンティス王子は、カノン姫にキスをしました。
 そしてその夜、二人はハーデス王国を目指して駆け落ちをしました。

 翌朝、カノン姫の不在に、聖域王国の王宮は上を下への大騒ぎになったのでした。

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