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2019年01月15日10:34

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『ヘラクレスの死』第4話

『ヘラクレスの死』第4話

 両親が死んでから後のヒュロスの人生は、まさに疾風怒濤だった。
 父と母の葬式を出し、父の遺言に従ってイオレーを(泣く泣く)妻に迎えた。ヒュロスは頑張り、イオレーも当時としては高齢出産を頑張って、最終的に二人には一男三女が生まれた。
 だが家庭を持ってヒュロスの生活が安定したわけではなかった。
 かつてヘラクレスが仕え、その命令で「十二功業」を成したミュケナイ王エウリュステウスが、自分の親戚筋に当たるヘラクレスの子供たちを自分の王位のライバルとみなして攻撃を始めたからだ。
 ヘラクレスの遺児たちは、ヘラクレスの母アルクメーネー、甥イオラオスとともにアテナイに逃れた。その地の王、英雄テセウスの息子であるデモポンは彼らを庇護し、ともにエウリュステウスの率いる軍勢と戦うことになった。
 「冥府の王妃ペルセフォネーに高貴な家の娘を生贄を捧げれば戦いに勝てる」という神託に従い、ヘラクレスとデーイアネイラの間の一人娘マカリアが自ら進んで生贄となった。さらに老いたイオラオスが大神ゼウスと青春の女神へべに祈ると、神となったヘラクレスとその妻ヘベが星となって降りてきて、その神力により一日だけイオラオスが若返るという奇跡が起きた。援軍を率いてきたヒュロスとイオラオスは同じ戦車に乗って戦い、二人はエウリュステウスと彼の五人の息子たちを討ち果たした。
 その後、ヘラクレス一族の家長として、ヒュロスは祖先の地であるペロポネソス半島への帰還を目指した。
 最初、征服はたやすくいったかに見えた。だがすぐにペロポネソス全土を疫病が襲った。疫病の原因について神託を求めると、神は「ヘラクレスの子孫がまだその時期ではないのに帰還したからだ」と述べた。
 そこでヒュロスはペロポネソス半島から去ってマラトンに居住し、帰還すべき時について改めてデルフォイで神託を求めた。すると神託は「三度の収穫を待って戻れ」と告げた。
 ヒュロスはこれを「三年後」の意味に解した。
 三年後、彼は再び軍を率いてペロポネソス半島に攻め入った。ペロポネソスの諸都市の王たちは連合軍を組んで抵抗し、コリントス地峡で戦いとなった。
 ヒュロスは「もし自分が敗れれば、五十年の平和を守る」という条件で一騎打ちを申し出た。そしてアルカディア地方のテゲアの王エケモスがその一騎打ちに応じ、二人は戦った。
 結果、ヒュロスは敗れた。
 瀕死の重傷を負ったヒュロスは弟たちに守られ、退いていった。
「無念だ。豪勇ヘラクレスの息子であるこの私が、一騎打ちで後れを取るとは…」
 味方の陣営で傷ついた身を横たえて、ヒュロスは言った。三人の弟たちがすすり泣きながら、倒れた長兄を取り囲んだ。
「弟たちよ、私はもうだめだ。どうやら私は神託の意味を取り違えてしまったらしい…」
「うう、兄上…」
「兄上…しっかりして…」
「兄上、死なないで…」
 もはや最期と悟ったヒュロスは、弟たちに遺言を残した。
「クテシッポス、グレノス、オネイテス、どうか私の息子クレオダイオスのことをよろしく頼む。皆で一人前の武人に育ててくれ」
「兄上…ぐすっ…」
「お約束します、兄上…」
「ああ、兄上…」
「弟たちよ、ヘラクレス一族の者として、父祖の地たるペロポネソスへの帰還を目指すのだ。神託を正しく解すれば、きっとその望みが叶う」
「兄上…」
「うう…必ずや、兄上…」
「兄上の無念は晴らします、ううう…」
「さ、最後に心残りが一つ…」
 死に際に、ヒュロスはつぶやいた。
「も、もっと若い嫁さんが欲しかっ…た…」
 がくっとヒュロスが絶命する。
「うわああああん、兄上ーっ!」
「ヒュロス兄上ーっ!」
「あああーっ、なんて哀れな兄上ーっ!」
 弟たちは号泣して、若くして多事多難な生涯を送った長兄の死を看取ったのだった。

 その後もヘラクレスの子孫たちは、繰り返しペロポネソス半島に侵入を試みた。
 そして「三度目の収穫の後」、すなわち「三世代の後に」という神託の正しい解釈により、ヒュロスの曽孫たちがペロポネソス半島の征服に成功する。彼らは、スパルタ、アルゴス、メッセニア、そしてマケドニアの王家の祖となり、神話を歴史につないだのだった…。

<FIN>

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