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2017年10月17日16:33

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『口づけは密やかに』

 2017年ラダ誕作品です。
 冒頭の詩は『ギリシャ詞華集』(西洋古典叢書)から。
 今年は話が思い浮かばなくて、何かネタを…とこの本を読んでて、思いついたのがこれ。
 でもあまりに短編なので、もう一作、書きました。『蜜月の夜』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8803469 今年はちゃんとした話を書けなくてごめんよ、ラダ…。
 去年のラダ誕作はこちら。『確率二分の一の選択』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7331979『レーテの女怪』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7332002


ロドペよ、接吻は人に知られぬように、こっそりとしようね。
それにあのスリルに満ちた愛の営みも。
何一つ見逃さぬ監視の目をかいくぐり、こっそりとするのは楽しいね。
秘かにする愛の営みは、堂々とするよりもずっと甘く楽しいもの。

六世紀のギリシャ詩人パウルス・シレンティアリウスの恋愛詩より

『口づけは密やかに』

 その日、冥府の法廷からカイーナにある自分の執務室に戻るべく、ラダマンティスはカイーナの宮の廊下を歩いていた。人を威圧する直線的で重厚な装飾が施された広い回廊に、ラダマンティスの足音だけが響く。日の光の届かぬ冥界は昼でも暗闇に閉ざされている。建物内部の明かりは天井や柱の燭台に埋め込まれた発光する不可思議な冥界の夜光石に頼っているが、それでも広大な回廊を明るく照らすには不十分で、ここは常に薄暗い。柱の燭台で輝く夜光石の傍らをラダマンティスが通るごとに、彼の影が床に縮み、そしてまた伸びていく。ヴォールト状の天井と柱の境目には翼を広げた翼竜の像が転々と配置され、夜光石の反射光を黒光りさせながら回廊を歩く者を見下ろしていた。
 壁に沿って並ぶイオニア式の円柱の幾本目かをラダマンティスが通り過ぎた時、ふいに彼が纏う漆黒の法衣の袖が引かれた。
「…なに?」
 ラダマンティスが振り向き、同時に彼の面に驚きの色が浮かんだ。円柱の陰に身をひそめて彼の袖を引いたのは、思いがけぬ人物だったからだ。
 双子座の黄金聖闘士にして海将軍筆頭・海龍、そしてラダマンティスの恋人であるカノンが、そこにはいた。
「カノン、どうして…」
「ふふふ…」
 忍び笑いをしたカノンは、ラダマンティスのゆったりと広がる法衣の胸元に飛び込んだ。
「会う予定は…今夜だったはずだが…」
 そう、今日は、ラダマンティスの誕生日だった。その記念すべき日を二人で楽しもうと、二人は今夜、会う予定を入れていたのだ。
 実質的にポセイドンに代わる統治者として海界で日々を過ごしているカノンは、ラダマンティスと同等、あるいはそれ以上に多忙だった。約束の時間外に彼の姿が冥界にあるなど、ラダマンティスには予想もせぬことだった。
「ああ、だが夜まで待てなくてな」
 カノンはラダマンティスの首元に長い腕を絡めて彼を引き寄せ、そして唇にキスをした。
「こら、カノン…」
 慌ててラダマンティスは彼を引き離した。
「こんな所で、誰かに見られたら…」
「今さらだ。おれたちの仲など、皆が知っている」
 カノンが赤い舌で自身の唇をちろりと舐めた。その仕草は、ひどく扇情的だった。この海の龍はいつでもそうだ。気まぐれで、突飛で、大胆で、予想のつかぬ突風の様な行動でラダマンティスを翻弄し、かき乱し、そして魅惑する。
「だが…」
「ああ、うるさい口だな。ふさいでやる」
 まだためらいを示すラダマンティスに、カノンが再び口づけしようとした。ラダマンティスは愛する人の体を己の法衣の広い袖で覆い隠すように抱きしめ、そしてカノンを円柱の陰にと誘った。
「…こういうものは、こっそりとするものだ」
 円柱の陰に身を隠すと、ラダマンティスは自らカノンに口づけた。
「ラディ…」
 口づけで濡れた唇からカノンが熱い吐息を吐く。
「キスだけじゃ…物足りない」
「ああ」
 ラダマンティスはカノンの肩を抱いて、手近にあった空き部屋にと二人の体を滑り込ませた。

 二人がそこで何をしたか見ていたのは、天井を飾る翼竜の彫像だけ。

<FIN>

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