日本の元号を何時の何処の何からそう呼ぶのか、これは難しい。
日本国及び又は倭國に於いては、その昔、首長の、或いは皇宮の名称に年数を附していた事もあり、故に、首長たる天皇が変わらずとも、遷都する事での年数の初期化が行われ、再び元年よりの数え始めと成る事もあった。
皇宮名でも天皇の諱でも諡でもない、改元される年数表記も時に垣間見える。
例えば、�檀霤傾弔飽佑訌�移後の「�端８蓮廚箙ю妖傾弔梁┛未虜櫃痢嵶�擲」、時を下れば、舒明天皇の即位から9年目の「命長」、12年目の「令長」、その後の皇極天皇の即位から4年目の「大化」等である。
そうした物の内、何を以て日本の元号の始まり、或いは黎明とするのか、それは門外漢の私には分からず。
扨て、「和」という漢字は、元号に於いては可也の数、用いられているが、「令」という漢字は、前述の舒明天皇12年、即ち、ユリウス暦640年の「令長」元年以来ではなかろうか。
漢字各々の成り立ちには諸説あり、現在でも議論されているとも伺う。
故に、私の印象に最初に挙がった説に則って話を進めさせて頂く事を御赦し願い度い。
「令」の漢字は、会意形声に依って成立したとも、象形爾に依って成立したとも。
集める意のAと、節の原字である卩の転用前たる跪いた人の象形とが合わさり、人を集めて命ずる事や御触れを意味する。
及び又は、頭上に頂く冠の象形たるAと人の跪く象形たる卩とで人を集めて神意を聴く様子を表すか、抑、深い儀礼用の帽子を被り跪き神託を授かる人の象形で、そこから言い付ける事を意味する。
跪き神意に耳を傾ける行為から、順序良く並ぶ事、美しく整っている事、延いては、清々しく、澄んで清らかである意、又、良い、立派である意にも転じた。
此度定まった次期の元号たる令和の令、即ち、『萬葉集』の引用箇所の令月の令は、寒さの残る風の中に春の温かみを見出しての清々しさ、澄んで清らかな景色を感じられる様に私は思う。
所で、数の0の意も持つ「零」にも、部分として「令」が含まれている。
「令」の字には、前述の通りに、跪き神意に耳を傾ける意が含まれる。
天より下る神意の象徴たる現象として、空から落ちる雨を挙例出来る。
神意に叶い雨の徐に降る事を、或いは、神意を示す雨を表す「零」は、その雨の滴の意や落ちる意、僅かな意へとその意味の広がりを見せた。
落ちる意からは、溢れて零れる意、そして其処からは、余りや端、半端の意、又、落ち零れる意も派生した。
徐に降る雨の極僅かな意と数の空位を表す「〇」の字と落ち行く雨の滴の形の類似性からも、無や空の概念とも繋がった。
「零」の漢字も、迚も美しい自然、そして、思いや感じの未だ至らずも、実体としての蓋然性を内包する空性が連想され、迚も素適に感じられる。
長々と申し訳無き事此の上無いが、「和」という漢字も好きである事を申し上げ度い。
これは、「幸」の漢字の成立と近い物を感じる。
要するに、負の心象や害を為す心象を前提として、その概念が成立すると見せる表現技法に、その近さを感じられるのだ。
「和」の漢字は、会意形声に依って成立したとも。
禾の語原たる加と口とから、人の声に応じてそれに合わせる事を、延いては、心を合わせて和み和らぐ事を意味する。
又、禾は會に通じ、会う意を表し、これと口とで、人の声と声とが調和し和む事を意味する。
繊やかに垂れ下がる稲穂の禾は、逆らわずに従う視覚的暗喩記号であり、戦を終えて互いに取り決めを結び、和平に至る事が原義とされる。
然うなのだ。
戦や逆らわぬ様にす可き負荷の存在が、前提として、「和」にはあると説かれる事もある訳だ。
先に、「幸」の成立に近い物を感じると述べたが、此方に関しても、以下の通り、負の心象や害を為す心象を前提として成立して来ている背景を持つ。
「幸」の漢字は、形声に依って成立したとも、象形爾に依って成立したとも。
時間的断続及び情報的断続蓋然があるものの、最も古い字形は、手枷の象形であり、手枷だけを置き、刑罰の対象と成る人物を描写しない事で、運良く重い刑罰から免れる事が出来ている状態を示し、本来なら叶わぬ願いを得られる事、偶然の幸福を、延いては、良い運に恵まれる幸せを意味する。
又、この手枷の刑は報復刑に類する物との見方もされ、報復される可き罪の存在を示唆する。
時間的断続を越え、獣の屍が腐敗し崩れ、白い頭骨の露わに成った状態の象形たり、露わな白い頭骨から、白く輝く意も持つ皋に由来する、屍体の乾き朽ちる事に従う意を持つ字形をその意、即ち、吉凶の吉の仮借として用いた。
別字形に於いては、若死にの意の夭と、それに逆らう意の逆の旁とを合わせて、夭逝を免れて長生きする事を表すと共に、先の夭逝自体が天命たる死す可き時と見做され、死す可き時に死なずに運良く生き永らえる事が出来る事を表す。
そして、古く、犬と羊とを、或いは、矢の刺さった犬の象形にも成っており、美味しい物を食べられる事こそを幸福たれと見做した経緯をも持つ。
死や報復、そして罪等、避け度い物の存在が、前提として、「幸」にはあると説かれる事もある訳だ。
閑話休題、此度定まった次期の元号たる令和の和、即ち、『萬葉集』の引用箇所の風も、その通り、寒さの残る風が春の訪れで和らいで来ている、そんな温もりの始まりを感じられる様に私は思う。
引用の該当箇所は、本歌取という和歌を詠む際の技法であり、本技法には古より否定的な見解があるのも事実ではあるが、これは現在に於けるパロディに対する見解にも似る。
表現効果から謂えば、スピンオフ作品や二次創作物の領域に対するそれに該当するのかも知れない。
但し、本歌を背景として、では、この場合はどうであろうか、と、全てを説明せずとも、作品の世界を広げられる。
そんな見方も出来はしまいか。
大切なのはパロディに愛があるか否か。
前提に何があろうと、確かに実りのある、美しい時代を創って参り度く思い、又、創られんとも欲す。
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