沖縄の基地『無意識の植民地主義』平野次郎･記
野村浩也さん講演
沖縄からの米軍基地「県外移転」に呼応して日本本土へ基地を引き取る市民運動の契機となった『無意識の植民地主義――日本人の米軍基地と沖縄人』。2005 年に御茶の水書房から発刊されたあと絶版になっていたが、昨年 8 月に松籟社から増補改訂版が復刊された。その復刊を記念して著者の野村浩也さんを招いた講演会が 12 月 15 日 に神戸市内であった。初版本を読みたくても入手できなかった私はさっそく講演会に駆けつけ増補改訂版を購入した。野村さんは1964 年沖縄生まれ、現在は広島修道大学文学部教授（社会学）。講演会は兵庫の「基地を引き取る行動」のメンバーらが主催し約20人が参加した。
なぜいまこの著書の復刊が待たれたのか。沖縄人だけでなく在日韓国・朝鮮人などへのヘイトスピーチの横行を止められないのは、日本人の「無意識の植民地主義」がいまも続いているからではないのか。野村さんの講演に耳を傾けた。
≪講演要旨≫（一部省略）
沖縄に米運基地が沢山あるのは当たり前ですか。あなたの住むところに米軍基地がないのは当たり前ですか。（そう問いかけて配布資料の「在日米軍専 用施設都道府県別面積割」の表を示す 【注】）
【注】在日米軍専用施設の都道府県別面積 10 位まで（2019 年３月）
�� 沖縄県 ７０・２８％
�� 青森県 ９・０２％
�� 神奈川県５・６０％
�� 東京都 ５・０１％
�� 山口県 ３・２９％
�� 長崎県 １・７８％
�� 北海道 １・６２％
�� 広島県 １・３４％
�� 千葉県 ０・８０％
�� 埼玉県 ０・７７％
大阪府と兵庫県はゼロ
この表の数字が消費税の割合を示すものだったら当たり前ですか。そうではないでしょう。消費税を沖縄県民だけが７０％も負担させられ、それ以外の都道府県は１０％も払っていないからです。これは「法の下での平等」に反します。特に大阪府や兵庫県は０％です。これはラッキーなことですか。その分を沖縄県民が負担させられていたらどうですか。基地問題とはこういうことなのです。では大阪や兵庫に基地がないのはなぜですか。その分、沖縄県民が肩代わりさせられているからです。これは当たり前でラッキーなことですか。むしろ良心の呵責を覚えて当然ではないでしょうか。
平等に反する安保負担
ではなぜ消費税を払うのは当たり前なのですか。それが法の下での平等だからです。消費税に反対の人も払っているのは民主主義の基本だからです。反対の人はいったん払って消費税反対の党に投票して政権を取らせればいい。それまでは消費税を払う義務があります。ところが日米安全保障条約の負担についてはなぜか平等ではないのです。これが当たり前でないのは法の下での平等に反するからです。本来平等でなければならないのに日本人は沖縄に基地が沢山あって当たり前という感覚です。自分の住んでいるところに基地がないのも当たり前と思っている。これを差別と言うのです。
差別の多くは無意識に行われます。だからこれが当たり前ですかと問うていかないと多くの人が無意識になってしまいます。自分が差別していないのは当たり前という意識のもとで差別が行われます。沖縄の基地や日米安保の問題ではなぜか無意識に差別が行われているのです。差別が無意識に行われている状態は決して平和とはいえません。平等でなければ平和とは呼べません。先に示した基地面積割表は差別の客観的表現にほかなりません。自分は差別していないと思っていても客観的には差別の現実が歴然とあるのです。
よく返ってくる反応は「自分は基地に反対しているから差別していない」 「政府が差別しているのであって自分は差別していない」です。はたしてそうなのでしょうか。沖縄への基地集中を政策とする政権を実現させているのは日本人です。その結果、差別政策が国策として制度化されているわけです。このように制度化された差別のことを植民地主義と言います。しかも多くの 日本人が差別しているつもりはないという意識の下で植民地主義が実践されている。「無意識の植民地主義」と言わざるを得ません。
このように「つもり」でものごとを判断することをマックス・ウェーバーは「心情倫理」という言葉で批判しています。政治的問題は「つもりではなかった」といって免罪されることはなく、「責任倫理」に基づいて判断されなければなりません。つまり結果に対する責任が問われます。すべての基地に反対していても基地を存続させている責任から逃れることはできません。日本人のだれもが沖縄に基地を押しつけている責任から逃れられないのは、基地を押しつけているのが客観的事実だからです。
基地引き取りが義務
ではどうすればいいのか。法の下での平等は今すぐにも実現しなければならないはずです。そのためには今すぐに沖縄の基地を引き取ることです。これは日本人の義務です。法の下の平等が民主主義の原則だからです。基地引き取りが実現しないと民主主義の原則を破る事実が続くことになります。今すぐに実現することはできないかもしれませんが、原則に向けて行動することはできます。ただし日本人全体で議論した結果、基地の引き取りは無理だという結論になることも考えられます。 そうなれば日米安保を破棄するという選択肢が現実性を帯びてきます。日本に米軍基地があるのは安保があるからで、沖縄から基地を引き取らずに基地をなくす方法は安保を破棄することです。基地を引き取るのか安保を破棄するのか。その選択が迫られているのです。
日本人と沖縄人の関係は
日本人と沖縄人の関係はどうなのか。客観的には日本人は沖縄に基地を押しつける側にいます。つまり沖縄人を差別する側にいます。それを表す概念がポジショナリティ（政治的権力的位置）です。アイデンティティとは異なります。日本人が日本人をやめることができないのは、それがアイデンティティだからです。でも基地の押しつけや差別をやめることはできます。なぜならそれはポジショナリティだからです。日本人は基地を押しつけるポジショナリティにいることで日本人の尊厳を汚しています。差別をやめないでいるから自分の尊厳を傷つけているのです。基地を押しつけて差別するポジショナリティから解放され自由になりましょう。それを可能にするのが基地引き取りです。
いますぐに引き取らないといけない基地があります。それは普天間基地です。基地移転と称して辺野古新基地建設の埋め立てが進行しています。政府は「辺野古が唯一の選択肢」を呪文のように唱えながら辺野古の美しい海を埋め立てています。このような暴挙をいますぐやめさせるために普天間基地を引き取らなければなりません。ではなぜ「辺野古が唯一」でなければならないのか。（ここで 18 年 2 月 2 日の衆院予算委員会での安倍晋三首相の発言を報じた『琉球新報』の記事を読み上げる）
安倍首相は普天間基地の移設が実現しない理由について「移転先となる本土の理解が得られない」と答弁しています。「本土」が普天間基地の受け入れを拒否するから辺野古に移設するしかないと言っているわけです。これは重大発言です。沖縄人の言うことは一切理解しようとしないのに日本人の言うことだけは理解する。これが差別でなくて何なのか。安倍首相は差別があることの客観的証拠を自分の口から証言したことになります。日本人が普天間基地の移設を拒否するから「辺野古が唯一の選択肢」ということは「差別が唯一の選択肢」というのと同じことです。逆に言えば日本人の理解が得られれば辺野古に移設する理由がなくなり、「辺野古が唯一」という呪文を繰り返せなくなります。
日本本土の基地押しつけ
辺野古にある米軍キャンプシュワブは 1960 年にできた最も新しい基地です。なぜ新設されたのかというと、日本本土の基地が沖縄に「県外移設」されたからです。岐阜県と山梨県にあったキャンプが辺野古に移設され両県の米軍基地は０％に。このように基地がどんどん移設された結果、米軍基地の本土と沖縄との構成比は９対１だったのが６０年代に１対１、現在は１対３になっています。驚くべきことは、本土から沖縄への「県外移設」に対し日本人の反対はほぼ皆無だったことです。なぜ沖縄になら移設できるのか。これも差別にほかなりません。そのうえ沖縄からの「県外移設」に反対すれば差別の上塗りです。沖縄への県外移設を認めておきながら沖縄からの県外移設を認めないのは道理が通らない。基地の引き取りを拒否することは差別以外の何ものでもありません。
「不都合な真実」認めよう
沖縄人に基地を押しつけて差別するポジショナリティにいることは日本人にとって「不都合な真実」です。真実に向きあうことは苦しい。その苦しさから逃れるために逆ギレします。逆ギレなどの反応はジークムント・フロイドが言う「防衛機制」に該当します。不都合な真実を知って傷ついたという日本人もいますが、それは断じて傷ではない。真実を知って苦しんでいるだけの「存在論的不安」です。逆ギレした人も存在論的不安に陥っているのです。
対処法として二つあります。一つは 防衛機制です。真実を見ないようにして封じ込めるか、あるいは否定して逃げるかです。これはまずい対処法です。どんなに否定しても真実は微動だにしないし解消するわけではない。すぐに存在論的不安に逆戻りしてまた苦しみに苛まれます。もう一つはいい対処法です。どんな不都合な真実でも受け入れて認めることです。沖縄人を差別しているという事実を認めることで新たな選択肢が見つかります。すなわち差別をやめるという選択肢です。差別している事実を認めない限り差別をやめるという選択肢は生まれません。目の前がぱっと明るくなる選択肢です。なぜなら沖縄に基地を押しつけている差別者というポジショナリティから解放されるからです。不都合な真実が解消し存在論的不安から自由になれます。おそらく大変すがすがしい気持ちになるでしょう。なぜなら差別をやめ基地を引き取ることで平等になれるからです。平等な人間同士として出会い直すことができます。これを連帯と言います。基地を引き取って新たな連帯を築いていきましょう。
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