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2020年04月06日01:07

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2月に見た映画 寸評(6)

●『1917 命をかけた伝令(IMAX版)』(サム・メンデス)
 時は第一次世界大戦中。遠く離れた味方の隊まで、敵地を超えて作戦中止命令の伝達に行く二人のイギリス兵の一日を全編ワンカットで途切れなく撮影した、というのが売りのサム・メンデス監督作品。けれども実際に見てみたらわかるけど、このスケールの内容でワンカット長回しはあり得ない。おそらくデジタル技術で、巧妙にワンカット風につないだ、ということだろう。少なくとも途中二か所、暗転してカットが入っているのは明らかだし。そもそもこの話をワンカットでやるという意図がよくわからなかった…と書くと全否定みたいで悪いけど。
 最初の塹壕の場面などはワンカットでやる意味はわかる。細長い塹壕をどこまでも進んでいくというリアル感がすごいので。しかし、それだけならいいけど、当然ながらその後は目的地にたどり着くまでにいろんな出来事を入れてしまうわけで…。例えば空中戦で撃ち落とされた戦闘機がわざわざ二人のところに落ちてくるとか。こうなるとリアリズムが一気に崩れ、作り話感がどっと溢れてくる。破壊された街での銃撃戦や夜になっての逃走劇などになると、ワンカットの面白味はどこへやら、普通の戦争アクション映画を見ているのとほとんど変わらない印象だ。
 同じ全編ワンカット長回しの映画で言えば、昨年に公開された『ウトヤ島、7月22日』という作品があった。こちらは限定された小さな島という場所で、ただ正体不明の殺戮者からひたすら逃げる・隠れるというのを繰り返すだけのシンプルさで全編を通していたが、それだけにヒロインの体験する恐怖が尋常でないほど伝わってきた。また『ウトヤ島〜』は観客の見ている時間と映画内の経過する時間をほぼ一致させるというのをちゃんとやっているが、『1917』は主人公が何度か気を失ったりする等でごまかし、時間経過が曖昧である。最後まで見終わってから振り返っても、とても一日の出来事だったとは思えない。
 サム・メンデス監督は大掛かりなロケセットをはじめ、腐乱した死体の山およびそれに群がるネズミなどの生理的な部分まで、当時の戦場のリアルな再現に腐心しているが、全編ワンカットの使い方はミスしたように思う。せっかく期待してIMAXで見てあげたのに、残念。
<2/23(日) TOHOシネマズなんば スクリーン2にて鑑賞>

●『ヲタクに恋は難しい』(福田雄一)
 チケットを買うとき「ヲタクに恋は難しい、○時の回」と言ったら、劇場の女性係員は「ヲタ恋、○時の回ですね」とわざわざタイトルを省略して言い直した。ツウぶっているつもりなのか? そういえば前にもこんなことあったな、とデジャビュ感が。そうだ、昨年フリーパスで見た『冴えない彼女の育てかた fine』だ。あのときも劇場係員は「サエカノですね?」と言いやがった(ちなみに違う劇場)。何なんだろう、この馴れ馴れしい感じは。
 普通は逆で、オタ客が「ガルパン、1枚」と言ったら、係員が「ガールズ&パンツァー1枚ですね?」と正しいタイトルで確認するものだ。それなのに劇場側が自らすすんで省略形で言うなんて何を考えているのか。もしかして「あんたらの間ではそういう風に言ってんでしょ?」と劇場側がオタクに迎合しているのか。それとも劇場のねーちゃんが単にオタクな人で、同志だと思ってそう言ったのか。ちゃんとした客商売なんだから、劇場側はあくまでも取り澄ました態度で、多少面倒でも正式なタイトルを言っていただきたいものである。
 さて、原作は隠れ腐女子とゲーオタの不器用な恋愛を描いたマンガだが、福田監督は先行するアニメ化作品と差別化を図るためか、ミュージカル仕立てにした。これがなぜミュージカルなのか、必要性が全く感じられない。それも実に中途半端なミュージカルで、ちょっと『ラ・ラ・ランド』みたいなのをやってみました的なノリ。音楽担当は鷲巣詩郎、作詞は及川眠子(他)という実は『エヴァンゲリオン』コンビという豪華さなのだが、エンディングで流れる「残酷な天使のテーゼ」もどきを除いて『エヴァ』っぽさはほとんどないので特に彼らである必要はない。もしかしたら「オタクといえば『エヴァ』だろ」的な発想がまずありきだったのか。一事が万事、そんな思いつきだけで作られているような感じがある。
 ヒロインを演じた高畑充希は好演で、痛い腐女子を見事に演じている。舞台で『ピーターパン』をやっていたので、ミュージカルノリもきちんと出来ている。ただ彼女の腐女子ぶりを生かしたオタク特有の笑えるネタはほとんど予告編で見せていたのでガッカリ。この予告の高畑を見て、面白そうだから見に行ったのにそれがハイライトだったとは。
 そもそもコミケ活動やら、ドルオタ、コスプレさんたちの生態といったネタ自体、すでに多くの先行するマンガやアニメで掘り下げてやっているので、どうしても今さら感があるし、上澄みだけを掬っている感じが拭えない。
 あと物語はハワイ出張旅行の準備までで終わっていて、ヒットしたら続編を作りますよ感がアリアリ。観客は話の途中で放り出されているわけで。もちろんヒットしなかったら続編は作らないわけだから、いい加減なものである。昨今のマンガの実写化映画の悪しきパターンに平気で乗っかっている。
<2/24(月) あべのアポロシネマ スクリーン3にて鑑賞>

●『Red』(三島有紀子)
 結婚して夫も娘もいる幸せな家庭を持つ主婦・夏帆が、友人の結婚式で大学時代に肉体関係をもっていた先輩・妻夫木聡と10年ぶりに再会。そこからまた関係が始まり、同時に妻夫木の紹介で憧れだった設計事務所に復帰し、少しずつ若かった頃の自分を、そして女である自分を取り戻していくという筋立て。
 これはまぎれもない「女性映画」というジャンルだが、それゆえにちょっと古くさいかな、と思わないでもなかったり。例えばヒロインのいる家庭が義母と同居で、義母が息子ばかりかわいがり、それに夫が気付いていないといった前時代的な描かれ方をしているとか…。
 この映画を見ていて致命的に思うのは、ヒロインが安定した家庭という人生設計からどんどんはみ出していく危うさ、みたいなものがまったく感じられないことだ。これは前述したように家庭が最初から牢獄のようにわかりやすく描かれているので、ヒロインが家庭か男かで迷う理由がぜんぜん理解できない。最も引き留めるフックになりそうな子どもの存在すらも希薄な描かれ方で、ドラマの作り方が弱いのである(脚色は池田千尋と三島監督の共同)。
 それと夏帆は個人的にご贔屓にしている女優さんで、今回も演技は決して悪くないのだが、肝心な妻夫木とのベッドシーンで乳房がまったく映らないのはどういうことか。演出的な意図があってベッドシーンは徹底女性視線で撮影したという話がネット検索で出てくるが、本当か? 私的にはこの程度の絡みでは家庭を捨てることはできないなー、と思う(笑)。今後の彼女の精進に期待したい。
 あと妻夫木聡もいつもと違うどこか陰のある年上男の役だけど、今までやってきたイメージが崩せなかったのか、どうしてもボウヤに見えてしまう。考えてみれば彼の濡れ場シーン自体珍しい気がする。
 一番の優秀賞は柄本佑で、チャラ男という設定なのにステロタイプに陥っていない。おそらく脚本からキャラクターを作り込んで演じているのだろう。こういう男がいてもおかしくないという自然な存在感があって巧かった。
<2/24(月) なんばパークスシネマ シアター11にて鑑賞>

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