mixiユーザー(id:453082)

2020年01月30日01:45

106 view

1月に見た映画 寸評メモ(3)

●『フォードVSフェラーリ』(ジェームズ・マンゴールド)
シェルビーとマイルズ二人の男たちの友情、どん底のマイルズを見守る妻と父を尊敬する息子…人間ドラマを手堅く押さえていて見応えがある。それに比べてタイトルになっているVSフェラーリとの戦いは思ったほど盛り上がらない(ル・マンではフェラーリ側は早々に失速するし)。最も盛り上がるのは主役二人とフォード社(の重役)との攻防だったりする。タイトルは『二人VSフォード』にするべきだったのではないか(笑)。特にル・マンの結末などはレース映画というよりも、サラリーマン残酷物語といった趣き。アメリカ映画のすごいところは、フォードにしろ、フェラーリにしろ、実名をそのまま出して映画化することである。(TOHOシネマズ梅田、スクリーン2にて鑑賞)

●『ティーンスピリット』(マックス・ミンゲラ)
イギリスの片田舎で歌手を目指す孤独な女子高生(エル・ファニング)が、街にやってきた公開オーディション番組「ティーンスピリット」に応募し、予選通過する。さて最後まで勝ち残れるか…といった話。まあ、昔からよく作られている「スター誕生」ものである。母親との確執や、歌の練習場面などこの手の映画ならじっくり描きそうな鬱陶しいドラマ部分はあっさり目に処理。偶然出会った元オペラ歌手で、今は飲んだくれのおっさんとの関係の方をわりと重視している(昔はその筋で活躍した人だが、今は落ちぶれてダメ人間になっている人をトレーナーとして雇う、というパターンの踏襲か?)。おっさんを演じたズラッコ・ブリッチという俳優に味があって、確かにこの映画で一番面白い部分かな。そしてエル・ファニング本人が歌う場面はかなりじっくり。クロエ・グレース・モリッツ、シアーシャ・ローナンと並ぶ花の中3トリオ…じゃなかった90年代子役出身売れっ子三人娘(と私が勝手に今、名づけた)なのだが、ライバルに差をつけるべく、歌にも挑戦中といったところか。しかし悲しいかな、特に優れて上手いようには思えなかった。まあ、がんばってください。(シネリーブル梅田、劇場1にて鑑賞)

●『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ)
ポン・ジュノ監督が久しぶりに韓国に戻って作った、本領発揮の会心作。IT社長の富裕家庭に、タイトルどおり寄生していく貧乏一家の話。「半地下」というのは、韓国に実際ある格安賃貸物件だそうで、そこと金持ちの豪邸を行ったり来たりすることで、今世界中に蔓延する格差社会の現実を見事にさらけ出した作品だとして、カンヌ等で評価されたのだろう。そういう意味で是枝裕和監督の『万引き家族』、トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』、ケン・ローチ監督の『家族を想うとき』などと一緒に並べて語られる作品だが、私はずぶとく、あくどく生きる貧乏一家の姿にどことなく川島雄三監督の『しとやかな獣』を連想した。階段というモチーフも共通している。偶然か?/それにしてもこの監督の、相も変わらない映画的な仕掛けの応酬には唸りっぱなしだった。例えば、最初の方で半地下家族の家に便所コオロギ(カマドウマやね)のエピソードが出てくるが、後半突然帰ってきた裕福家族にあわてふためいた半地下家族たちが机の下やらベッドの下やらに隠れて息をひそめる姿は、さながら人間の姿をみて怯え瓦礫の下へ隠れる便所コオロギのようだ。そのあと土砂降りの中、豪邸を後にして、自分たちの半地下の家に戻るときの、執拗に続く階段(まるでダムの底へ行くみたいかのようにデフォルメされている)下だり場面は、豪邸と貧乏人たちの住居の位置関係がはっきり示されて、見る者を茫然とさせる。他にも、先読みのできない展開、計算された伏線、不安をあおる構図とカメラワーク、皮肉な笑いに満ちた会話、寓話的でありながらどこかリアリティのある登場人物たち、山水景石、インディアン、モールス信号といった小道具…などあらゆるレベルで趣向が凝らされていて、舌を巻いた。/それでも欲をいえば、ソン・ガンホ演じる半地下家族の父親の心の動きがもう少し丁寧に描かれていればいいかな、と思うのと、裕福家族の下の男の子のキャラクターが弱く、ちょっと作り手の都合のいいようにされているフシを感じた。しかしまあ、文句はそれくらいで、早くも本年度ベストテン入り級の佳作である。(TOHOシネマズ梅田、スクリーン3にて鑑賞)
2 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する