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2021年05月25日00:38

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3分小説『言葉責め?』

 薄暗い、饐えた臭い甘い匂いと混ざり、薄暗い部屋、男がぼんやりと宙を見据えている。鼻を啜り、軽く咽る。視線を扉の方へ移す。音もなく開き、男は背筋を伸ばす。
「あ、あの……初めまして」
 弱弱しい男の声を踏み潰すように、赤いピンヒールが照明の最後のグラデーションに辛うじて映り、こつりこつり音を並べ近づいてくる。
「誰が喋っていいと言った?ん?」
 男はハッと立ち上がり、謝罪をしようと口を開きかけ、その矛盾に気づき、飢えた鯉のように空気を食べた。
「ふふ、冗談よ。喋るのは構わないわ。喋るのは好き。でもお喋りは嫌い。分かる?貴方、こういうお店初めて?」
「あ、はい」
「そう、可哀そうに。貴方は働いて手にしたお金を握り、ココへナニかを求めて来た。貴方の日常に欠落したナニか、それは本来、お金で贖うことのできないもの。落丁したページ、ソファー下のパズルピース。でも可哀そう。貴方はソレを得ることが出来ない。何故か?期待以上のものを手にしてしまうから。可笑しいでしょ?欲しがってたもの以上のものを手にして貴方は戸惑うの。歓喜は?充足は?あったのでしょうきっと、でも一瞬で通り過ぎてしまった。そして気が付いてしまう。日常、ソノ欠落を埋めにきたはずなのに、実はソレが無意味な物でソレを埋めようとする行為ソレ自体が、ナニかの目的であったのではないかと、ソレを手にして貴方は思うの。自分が望んでいたナニかは本当にコレなのか?ソレこそが、ナニかなのか?いや、コレがすべてなのかと?ふふ、どう?もう始まってるのよ?」
「え?」
「代名詞が多すぎてゾワッときたでしょ?」
「え?、ええ、まぁ」
「ふふ、戸惑ってるわね。今はただの違和感でしかない。でも直に分かるわ。だってもう芯が疼いているもの。その熱がココに伝ってる。貴方のソレがきっとコノ世界のアレなの。私のアレがソコにないのと同じ、貴方のアレはきっとソレなの、それなのにこの薄汚れた世界で輝くには、より醜い存在でなければならない。ソノ矛盾がアレであることを貴方のナニは知っている。違う?」
「え、えーと……アレがえーとソレで……」
「ふふふ、ナニをアレして欲しい?」
「え?」
「どうなの?ナニをアレ」
「あ、はい。お願いします」
「ふふ、ナニをアレされるかも分かってないくせによくそんな口がきけるねぇ」
「いや、その……」
「いいわ。じゃあ凄いのをあげる。日向ぼっこ」
「え?」
「日向ぼっこって知ってる?」
「あ、はい」
「そう、じゃあ教えて頂戴、『ぼっこ』ってナニ?」
「え?」
「『ぼっこ』、日向ぼっこのぼっこ、さっき知ってるって言ったわよね?じゃあ教えて、『ぼっこ』ってナニ?」
「えーと、すいません。分かりません?」
「ふーん、白を切る気?本当は知ってるんでしょ?言いなさいっ!」
「痛っ!、ちょ、やめてくださいソレ」
「ソレ?ソレってドレ?アレのこと?ソレともコレのこと?」
「いや、クッションじゃいです。そのぉ、さっきのアレはちょっと流石に痛すぎるのでどうか……」
「貴方が素直に吐けばいいの、そうすれば楽になれる。さあ、お言い!『ぼっこ』ってナニ?」
「いや、本当に知らないんです」
「そう、お替りが欲しいのね、ソレッ!」
「痛ーい、痛いですってマジで、お願いします。ソレだけは……」
「ソレ?ああ、コレのこと?」
「違いますよ灰皿じゃないです。ソノ手に持ってるヤツでアレするのは止めてください」
「アレ?ナニを言ってるのか分からないわ。さ、言う気になった?」
「……ナニをですか?」
「ぼっこの正体」
「……スマホで調べていいですか?」
「いいわよ駄目だけど」
「え?どっちですか?」
「『ぼっこ』ってナニ?白状なさいっ!」
「熱っ、熱いですちょっと、勘弁してくださいソレだけは?」
「ソレ?ソレってコレのこと?」
「違います。ラケットじゃないです。ソノ手に持ってる……」
「うるさいっ!さっさと白状しろっ!『ぼっこ』ってナニ?」
「冷たっ!冷たいです。ナンですかソレ?」
「コレ?ナンだと思う?」
「分かりません」
「ナンよ。ナン、冷凍庫できんきんに冷やしたナン。キーマカレーと一緒に食べるやつ。貴方が『ナンですか?』と聞いたその疑問の中に答えはあった。すべてそう。疑問の中に答えは隠れているの。考えて」
「……じゃあ日向ぼっこの『ぼっこ』も同じってことですか?」
「いい子ね。いい子。その調子よ。間違っててもいいの。貴方の答えが聞きたい。さ、教えて、『ぼっこ』ってナニ?」
「……『ごっこ』が訛った、とかじゃないですかね?」
「ごっこ?」
「はい、鬼ごっことかの『ごっこ』が語源なんじゃないかと、つまり、もともとは『日向ごっこ』って言われていて……痛っ痛ぁあ!熱っ!冷たっ!痛っ、ち、違うんですか?」
「知らない。知らないのよ正解を私。だから教えて」
「いや、今教えたじゃないですか」
「正解なの?今のが?当てずっぽうで言った今のが答なの?」
「いや、その……」
「いい加減なこと言ってると、当てずっぽうの『ずっぽう責め』も追加しちゃうわよ」
「や、やめてください、そんなことされたら壊れてしまいます」
「じゃあ、教えてコレはナニ?」
「あっ」
「ナニ?」
「あっ」
「何なの?言いなさい」
「あ、はい、その……」
「どういう状態なの?貴方のナニは今どうなってるの?」
「あ、はい、その……」
「言いなさいっ!」
「はっ、はい。勃起してます」
「勃起?ぼっこじゃないの?」
「え、えと……」
「日向ぼっき」
「な、なんですソレ?」
「日向ぼっきしてるのね貴方」
「ち、違います、僕は決してそんな……」
「認めなさい!自分を解放してあげなさい。日向ぼっき、言ってごらん」
「い、言えないですそんな恥ずかしい言葉」
「言うのよ。じゃないとさっきのアレをするわよ」
「アレ?痛い熱い冷たいのコンボですか?アレは嫌です」
「じゃあ言いなさい!『日向ぼっき』って大きな声で、そして達してしまいなさい」
「い、嫌です。そんな意味の分からない言葉で果てるのは」
「そう?じゃあこうしてあげるわ」
「あ」
「どう?言う気になった」
「あ、駄目です。そんな……アレをナニでアレされたらアレがアレになっちゃいます」
「ふふ、すっかり調教されちゃってるわね。この醜い代名詞豚め!」
「あ」
「さあ、言いなさい『日向ぼっき』って」
「あ、駄目です。あー、駄目。本当に駄目です。もう、あ、もう、あ…………『日向ぼっきーーーーーー』」

 ぴぴぴぴ

「はい、60分経ったわ。お疲れ様。出口はアッチ。ソレ持ってさっさとget away」
「はい、ありがとうございました。その、お名前をお伺いしてもいいですか?次また指名させてもらいたいんで」
「私の名前?日向」
「え?」
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