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2020年12月02日21:17

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たましいのしょくざい

「さあ、どんな食材になりたいか言ってみろ」
「食材じゃないとダメなんですか?」
「そうだ!」
 …………
「間違ってたらごめんなさい。死神的な方ですよね?」
「そうだ」
「死神のセリフって、もっとこう『地獄行きだ!』とかそんなんじゃないんですか?」
「そうだお前は地獄行きだ。だがその前に罰を受けてもらう。生前、手当たり次第に食べ物を食い散らかしてきた罰として、お前は食材になるのだ」
「言ってる意味がよく分りません」
「食材になって身をもって粗末にされる辛さを味わえということだ」
「なんすかそのVRの企画みたいな発想は」
「つべこべ言うな!お前にそう言い渡せって、そういう指令が俺ンとこに来てんだ。とにかくなりたい食材を選べ」
「選ばしてくれるんですね?」
「ああ」
「じゃあ、カニクリームコロッケでお願いします」
「それは料理だ!俺が言っているのは食材!」
「どう違うんですか?」
「だー!分からんのか?例えば小麦粉とか人参とかそういったのが食材だ、カニクリームコロッケは料理の名前だろーが!」
「ああ、なるほど、じゃあカニクリームコロッケは選べない?」
「そうだ、食材じゃないから」
「分かりました、ではカニクリームでお願いします」
「馬鹿馬鹿馬鹿!食材だっつってるだろ!カニクリームってなんだ?それは食材じゃないだろうが!そんなものが畑で採れるか?海泳いでるか?ええ?」
「はあ」
「どうしてもカニクリームコロッケになりたいんなら、カニ、もしくはクリーム――じゃない、クリームの原材料の強力粉、バター、牛乳、塩のどれかを選べ」
「ちょっと待ってください!例えばですけど、僕が強力粉になったとしてですね、カニクリームコロッケのクリームになれる保証はあるんですか?」
「そんなものはない!」
「ちょっとそれ納得できない!だってカニクリームコロッケになる覚悟で強力粉を選んだのに、気がついたら平打ち麺にされているなんて、あまりにも理不尽じゃないないですかっ!」
「……もういい。お前、めんどくさい。刑の執行を先延ばしにするよう申請してくる」
「あ、ちょっと待って――」
 死神を名乗る者は、溶ける様にして部屋から消え失せた。
「くそー!どうしてくれんだよこの気持ち!」
 仕方なく僕は、部屋を飛び出す。
 行先は当然――スーパーの冷食コーナー。
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