タンポポは焦っていた。
「春はもうずいぶん深い」
いろんな色のハイヒールや革靴や運動靴が立ち止まり、タンポポの上に言葉を落とした。希望や祝福、後悔や自責、憐憫や悲哀、それぞれの想い滲む言葉が、タンポポの戴くふわふわに落ちると、ふわふわは、白紙のように言葉を受けて膨らんだ。
ふわふわを支えるタンポポの茎、文字数の多さに大きく傾ぎ、耐え忍んでいる。待ちわびている。この季節のどこかの空にある風を、この想いをどこかの空へ飛ばす風を。しなる茎、みしみし鳴る。
風が吹いた。
強い風だった。タンポポの茎がぐーと大きく傾く。頂が地に着きそうだ。しかし、ふわふわは飛ばない。タンポポは叫ぶ。「折れても構わない。もっと強く吹け!」
風が止んだ。
突然の静寂、タンポポの茎は風圧の消えた反動で、びよんと起立する。ふわふわが空に弾けた。次に優しい風が吹く
次に優しい風が吹く。
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