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2020年01月26日08:28

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教えて!にゃんこ先生

「生きることは抗うことにゃん」
 ブロック塀の上から、猫が話しかけてきた。朝、バスの時間はまだ大丈夫。
「抗う?何に対してですか?」
 僕は訊ねた。猫は顔を掻きながら答える。
「生の対義を為すのものににゃん」
「生の対義?つまり死ですか?」
「そうにゃん。でもキミの認識している死とはきっと違うにゃんねぇ」
「認識?出来てますよ。つまりあれでしょう。死は無ってゆうことでしょう?」」
「にゃあ、何が無になることをキミは死と定義する?」
「え?つまりあれですよ。肉体と魂が、というか存在がですよ」
「なゃるほど、つまりキミという存在は肉体と魂で出来ているということにぁあご?」
「まあ、そうなりますねえ」
「なゃあキミに問うが、肉体と魂、どちらの死をおそれる?」
「え?えー、いや、肉体と魂は不可分なわけで、肉体の死はイコール魂の死ですから、どちらをと言われても」
「もっと考えるにゃ」
「うーん、この体が死んだら僕の気持ちも思いも想いも意志も無になるわけで、いや違うか?僕の書いたものや誰かに伝えた想いなどはひょっとしたら誰かの中で遺るわけか、逆に魂が死んだらどうなるんだ。んー、先生、肉体が生きているのに魂が死んでいるなんてこと、あるんでしょうか?」
「あるにゃん、ボクは毎日ここでそれを観察している」
「え?」
「キミたちは、肉体という鳥籠で魂という鳥を飼っているにゃ」
「なるほど」
「死んだ鳥を抱えた鳥籠を今日も沢山見たにゃん」
「先生、僕はどうですか?その、僕の中の鳥は生きていますか?」
「動いてないから生きてるか死んでるか分からないにゃ」
「ええー!」
「心配するな。猫以外の生き物は殆どそんな感じにゃん」
 猫、朝のまだ淡い空を背景に背負い僕を見下ろしている。僕にはそれが宗教画のように見えた。いや、実際に今や僕は生粋の猫教徒(ネコリタン)だ。
「先生、どうすれば僕の鳥は羽ばたきますか?」
「餌を与え、陽を浴びせ、自由にさせるにゃん。何時でも飛び立てるように、入り口は開けておくにゃんよ」
「先生、難しいです。もっと具体的に。あ、ヤベー、バスの時間が。先生、明日もまた来ますから続きを教えてください」
 僕は結構走った。が、目当てのバスの後ろ姿が信号の向こう。仕方なく次のバスに揺られながら遅刻の言い訳を考える。

 翌日、ブロック塀の上に先生は居なかった。レジ袋の中、行き場を失った猫缶三つ。
 僕はため息を空に吐き出し、バスに向かって歩く。猫缶持参で出社した、言い訳をあれこれ並べながら。
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