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2019年10月22日02:25

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シリーズ 学問はおもしろい 東京工業大学名誉教授 本川達雄さん

ナマコ生物学 生物の“軍拡競争”回避 省エネに徹し楽園作る
 私はナマコを研究して40年以上になります。私が大学に進学した頃は、物理学なら素粒子、生物学なら遺伝子が人気でした。究極の粒子を見つければ、すべてがわかるといった空気でした。私は詩集を持ち歩く文学青年で、当時は人間の心がわかれば、すべてがわかるといった考えもありました。

逃げず隠れず繁殖の不思議
 それで「粒子と心の真ん中」を志し、理学部に進学し、脳も心臓もない生物=ナマコを研究対象にしたんです。生物学の主流は哺乳類と昆虫です。人間に近く、また家畜として役立つ哺乳類、害虫対策としての昆虫という色分けです。へそ曲がりの私は、「世界は人間に役立つものだけで成り立っているわけじゃない」と考えました。

 ナマコは動物なのにほとんど動きません。体重の6割は皮で筋肉は7%ほど。人間の場合は半分近くが筋肉です。心臓も目も耳も鼻もありません。脳がないので人間に引き付けて研究する必要もなく、何より、研究している学者がほとんどいませんでした。

 琉球大学に赴任すると、沖縄の海にはナマコがうじゃうじゃいました。人が近づいても逃げず、貝のように殻をまとって防御しているわけでもなく、岩陰に隠れているわけでもない。でも捕食されずに繁殖しているのだから不思議です。

 その理由は、ナマコには体中にサポニンという毒があって、人間にはききませんが、魚には強く作用します。もう一つの生存戦略は、1分以内に皮を硬くしたり軟らかくしたりできる「キャッチ結合組織」です。ナマコは軽く触られると硬くなり身を守りますが、さらに強く触られると、その部分が溶けるほど軟らかくなり穴が開き、そこから腸を放出し、捕食者が食べている間に逃げます。

 ナマコの腸は塩辛の「このわた」として人間も食べています。ナマコの皮はすぐに再生し、腸も3カ月ほどで元に戻ります。

 ナマコにはオスとメスがあり生殖しますが、個体が二つに分裂して増えるものもいます。脳も心臓もないので、生と死の境界は判別しにくいのですが、死の間際になると皮の硬さを支配している神経がおかしくなり、皮が溶けてしまいます。寿命は3〜4年だといわれています。

捕食者からは魅力ないけど
 ナマコは海底の砂を食べて生きています。いうなれば食べ物の上で生活しているのです。砂粒の表面は細菌が集まった薄いフィルムで覆われており、これが栄養になります。エサを探す必要がないから、あくせく動く必要もありません。筋肉が少なくても大丈夫で、エネルギーを使って血液をぐるぐる回す必要もありません。必要なのは身を守る皮だけです。

 省エネに徹すれば皮だけの生き物になり、捕食者は魅力を感じなくなり、安全になります。肉食動物のエサになる草食動物は筋肉をつけ逃げ足を速くします。筋肉がつけば、捕食者の目にはさらにおいしく見えます。動物はいわば“軍拡競争”をしているといっていいでしょう。ナマコは栄養価を低くして、この“軍拡競争”を回避したのです。

 現代人は車などの機械を生産し、エアコンを使って夏は涼しく冬は暖かい快適な環境を実現し、便利で長寿を享受できる楽園をつくりました。そのため原発まで造り、資源とエネルギーをどんどん消費します。ナマコは正反対に省エネに徹して楽園をつくりました。

 でも、原発事故や地球温暖化による自然災害を考えると、人類の楽園のつくり方に疑問を感じます。楽園ではなく地獄への道に見えてきます。ナマコの生き方に学び、自らの生き方を問い直すことも必要ではないでしょうか。俳人の正岡子規はナマコをほめています。

  世の中をかしこく暮らす海鼠哉(なまこかな)

 ナマコは賢い! 頭がいいのです。「ナマコには脳がないといったのに」と責めないでください。(豊田栄光)

 もとかわ・たつお 1948年生まれ。琉球大学助教授を経て東京工業大学教授、現在は同大学名誉教授。著書に『人間にとって寿命とはなにか』『ゾウの時間ネズミの時間』『世界平和はナマコとともに』ほか多数
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