私はいちじくもぶどうも柿も好きだった。
それらの木は実家にあって、毎年沢山の実がなった。
だけれども私はそれらの実とさよならした。
さよならすることは運命だった?多分そうだと思う。
街中なのに果物の木が沢山あった実家を、若い時は珍しくも魅力的にも思わずに嫁いだ。
少し遠くのアパートに移り住んだ。夜静か過ぎて暫く寝付けなく、朝の小鳥のさえずりも耳に付いた。
人々やビルディングが見たかった。
生活している息遣い、汗や体温、飛び交う会話。
田舎は退屈で、夫が仕事の日曜日、バスと電車で実家へ帰ってみた。
母はとても喜んで二人で喫茶店で話しをした。母は紅茶を注文してスプーンでお砂糖を掻き混ぜた。
実家に戻ると日が瞬く間に暮れてしまい、不安に苛まされた。アパートに帰る手段がない!当時車が運転出来なかった私は全くの無力だった。
無力な娘を父は車の助手席に乗せ送ってくれた。
アパートに着くと本当に真っ暗になってしまった。
そのとき、私はまた父が同じ時間をかけて実家へ戻る苦労を気にかけなかった。
結婚という新しい形の愛情に満たされていて。
無償の愛情は透明で温かく、だからこそ不意に思い出すとたまらなく悲しい。
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