ねぇ、財力があるけど、趣味が余り合わない男性はどう?
お昼休み、私は一緒に食べているIさんに、ちょっとからかってみたくて尋ねる。
絶対嫌だよ!お金持ちでも趣味が合わないなんて!
Iさんはそう言い放ち、お手製のおにぎりを頬張る。
パッチリとした瞳に小さな鼻と口、顔が小さく足が長い。傍目にも綺麗だ。
お昼休みが終わって、ロッカーへと向かう。Iさんは、右足を引きずって懸命に早く歩く。
ロッカーを開けると、ババッと物が落ちて来た。リュックに帽子にポーチに。
ふふっとIさんは微笑む。
私は一緒にロッカーの整理を手伝う。
Iさんは19歳のとき、車を運転していて大事故を起こした。
一ヶ月くらい意識が戻らなかったらしい。
それからね、10年くらい具合悪かったよ。毎日叫んでいたの。いろんなことに対して。
それからまた10年経って、ようやく取り戻したかな。
でも、記憶障害が残り、人の名前がすぐに覚えられない。
あの人何て言ったっけ?
何回か聞かれるけれど、その度に教えてあげる。
何万回だって教えてあげる。
最近、Iさんは他の部署へ派遣に行っていた。
昨日久しぶりに会ったから、毎日派遣で疲れなかった?と聞くと。
ううん。私は出来ること限られてるから、使ってくれるだけで嬉しいよ。
その謙虚さに一万本の花束をあげたい。
70歳までには結婚したいな、Tさんみたいに。とIさんは言う。
そんなこと!今から婚活しようよ!
おせっかいだけど、そう言わずにいられない。素敵な女性だから。
貴女を取り巻く空気が、どうかいつも穏やかでありますように。
幸せに満ちていますように。
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