私の名前は川口民雄。子どものころから、周囲から浮いていた。学校の成績は低空飛行で、お情けで卒業させてもらった。小学校低学年のころからごく普通に生きられないと堪忍した。なんでみんなと同じことができないのだろうか。学校時代の運動会、学芸会、展示会、修学旅行で、周囲のクラスメートと同じ行動をとるのに、非常に神経を使った。仕事をいくつか渡り歩き、発達障害を支援するNPOで働いている。大人になって、検査を受け、検査の結果で、読み書きはかなり厳しいことがわかった。発達障害当事者は別に努力して、普通に見せようとしても、無理である。例え給与は低くとも、暮らしていければ、文句はない。この仕事は自分に向いているようだ。発達障害トラブルシューティングが仕事になった。佐藤を連れ出し、高層ビルの展望台に居る。
佐藤
「川口さんが連れてってくれる処は面白いけどさあ。今日はどういうつもりなの。高い処に来て、なにするつもりさ」
川口
「今日は上から地上を眺めて、一緒にものを考えてもらおうと、思って、来てもらった、のさあ」
佐藤
「あのさあ。俺、上から下を見ても、なんにも感じないよ」
川口
「下を見ると小さく見えるだろう」
佐藤
「模型の道路にミニカーが走っているように見える。身体が巨人になったような気がするけど。巨人にはなりたくないよ」
川口
「どうしてさあ」
佐藤
「だって、サイズが合わないから、生きるのがチョウたいへんそうだもん」
川口
「人間の方がいいかな」
佐藤
「そうだね。人間の方がましかな。でも、俺、その人間の仲間に入れないような気がするよ。だって、働いてないじゃないか」
川口
「働くって、そんなに大切なことなのかな。もっと大切なことがあるんじゃないか」
佐藤
「生き続けることかな」
川口
「わかっているじゃないか。そのためにはどうしたら、いいだろう。いつまでも、ご両親は面倒を見てくれないよ」
佐藤
「俺だって、両親にいつまでも、面倒をかけたくないよ。今まで、苦手な仕事しかやらせてくれなかったからさ。得意なことなら続けられると思うよ。自分の得意なことを続けられるといいけど。俺って、何が向いているんだろう」
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