mixiユーザー(id:430289)

2018年11月14日02:36

374 view

【映画日記】『ファニーゲーム U.S.A.』〜ミヒャエル・ハネケの真骨頂〜

 あまりにも映画を観ていないので、所有DVDの中から『ファニーゲーム U.S.A..』を再見した。

 (以下、mixiレビューの文章を転載する。これ以上に新たに語ることは無いし。元々はネット媒体連載の原稿まるまま。これ、よく書けてると思うんだけどなー、と自画自賛)


 “映画史上最も不快な傑作”としてカルトな人気を誇るオーストリア映画『ファニーゲーム』(1997)がハリウッドでリメイク!!

 と、これが通常のリメイクならば、とりたてて驚くことはないし、むしろ不安が先立ってしまうほどだ。それなのに、「!!」としたのは、監督・脚本を手がけるのが、オリジナル版と同じ鬼才ミヒャエル・ハネケだからである。
 
 「別の作品なら他の監督がリメイクしてくれても構わないが、『ファニーゲーム』だけは誰にも手を入れさせたくないんだ。だから、リメイク権の取引においても、<監督・脚本を私が手がけること>という条件をつけたんだよ」というハネケの証言には、映画作家・表現者としての魂がしかと宿っている。

 では、そのセルフ・リメイクにこだわったハリウッド版の出来栄えは?、というと、これがもう台詞や構図・カメラワーク・音楽に至るまでオリジナル版そのままなのである。

 そのため、オリジナル版鑑賞時に感じた絶望的な不快感と大いなる衝撃は相当に目減りしてしまったものである。その反面、より深く『ファニーゲーム』という作品におけるハネケのメッセージについて思考し得た。

 【ある夏の日。ジョージ・ファーバーは、美しい妻アンと愛する息子ジョージと共にバカンスを満喫するため、湖畔の別荘へやって来た。そこに、隣家の使いを名乗る青年ピーターが来訪。卵が欲しいという。快く応じるアンだが、ピーターは貰った卵を落として割ってしまう。それも一度ならず二度までも。言い知れぬ不安を感じたアンはピーターを拒絶するが、そこにもう一人、ポールという青年がやってきて押し問答となる。卵を下さい。卵を。卵、卵…… 異変を感じたジョージが間に入るが、直後、2人組は残忍な本性を現し、ファーバー一家を拘束・監禁してこう告げる。「今から12時間後、あなたたちが生きているか死んでいるか、賭けをしよう」 凄惨な殺戮ゲームが幕を開ける!】というストーリー。

 まず注目したのは登場人物の名前だ。本作の登場人物には、全員にオリジナル版と同じ名前が与えられている。例えば、残忍な若者の片割れであるピーターの綴りは<Peter>。オリジナル版ではペトロだ。ペトロと言えば、イエス・キリストの12人の使徒=十二使徒のリーダーである聖ペテロが連想される。となると、もう一人の不気味な青年ポールは聖パウロということになる。聖パウロは新約聖書の著者の一人で、綴りは<Paul>。英語読みでポールである。しかも、聖ペトロと聖パウロは同じ記念日(6月29日)を持つ。これらの一致は決して偶然ではあるまい。悪魔を思わせる残忍なピーター&ポールは、実は聖人である。隣家の使いならぬ神の使いなのだ。2人が求める卵は、無論、<誕生>のイメージを喚起し、聖誕祭(イースター)が連想される。また、その卵の数が当初12個であり、殺戮ゲームの制限時間が12時間であるというう、印象的な<12>という数字からは、やはり先述した十二使徒が思い浮かんでくる。更に、ピーター&ポールが着用している白手袋は<指紋を残さない>という現実的意味合いも有しているが、それだけではない。白手袋は聖職者がミサを行うときにのみ着用を許された聖衣の一つであるのだ。

 というように、『ファニーゲーム』には、キリスト教に関わる宗教的刻印が至る所に散りばめられているのである。

 ハネケは、オリジナル版を「無闇に暴力的であるのに、子どもや主人公は決して死なないハリウッド映画の偽善性や安っぽいヒロイズムに対するアンチテーゼとして撮った」と語っている。その作品を当のアメリカでリメイクするからには、そっくりそのままでなければ意味が無いのだ。ハネケが自身によるリメイクにこだわったのは、安易かつ無神経な改変によって、作品の根幹を崩されることを危惧したからに他ならない。 

 かくして本作は、アメリカで生まれた痛烈な反アメリカ作品となった。真の問題作である。
 
 尚、両『ファニーゲーム』は、共にすこぶる残虐な作品だが、実は、暴力描写のほとんどはフレーム外で行われ、画面に映し出されることはない。音響や台詞で観客にフレーム外の惨状を想像させるのである。その恐怖は観客の心理・生理に根ざすものであるのだ。このあたり、ウィーン大学で心理学・哲学を学んだミヒャエル・ハネケの真骨頂と言える。まこと意地が悪いが天才。鬼才と呼ばれる由縁である。

(転載、ここまで)


 胸糞悪い映画だけど、やっぱ好きだなー。


<添付画像使用許諾:(C)2007 Celluloid Dreams Productions - Halcyon Pictures - Tartan Films -X Filme International>
4 1

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2018年11月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930