mixiユーザー(id:41541981)

2020年06月15日08:19

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誰かの健忘(誰かのシリーズ)





昔を思い出す時、言葉から
思い出す事が多いのは何故だろう
風景より、その場所より
温度より、その人より
急に浮かんできた泡のように
言葉がふと頭の中で弾ける
そこから、どんな感じだったのか
連想ゲームのように思い出す






彼女は口遊む様に言葉を紡いだ

「人が帰りたいと思う場所は
 その土地じゃなくて記憶にあるから
 多分、忘れる事って自分の居場所
 を失くしていく行為だと思う」

「なら記憶喪失って本当に怖いな
 今話題のピアノマンって可哀想だな」

彼は目覚めた瞬間に何を思ったのだろう
恐怖から始まる焦燥だろうか
何も知らないから
感情の発露も覚束ないのか…

彼女はその答えに正解は無いと言った

「でも記憶に依存するけど
 記憶が無ければ、また覚えて
 自分の帰る場所を作る物だよ
 巣を壊された雀が新しく巣を
 作るようにね」

あぁ、そうか鳥も人も一緒か
居場所なんて物は案外簡単に作れる
そんな風にあの頃は思えていた

今にしては滑稽ではないにしても
実体験しなければ分からない事もあって
知らずに思う事と知ってから思う事は
捉え方が違うのだと感じる


私は今でも居場所は変わらない
巣から落ちた雛のように
彼女の名前を叫ぶしかない

例え巣が壊れて誰もいないとしても
飛べない私は名前を呼ぶ事しか出来ない
まるで居場所を忘れぬように
まるで記憶の喪失を忘れるように…





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