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2019年09月15日23:39

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「龍宮之使」映画

『龍宮之使』
<ストーリー>
 浜辺で発見された風呂敷包みを持った瀕死の男が研究所に運び込まれる。男は所長にこれまでの経緯を語り始めるが、それは信じられぬ話だった。事業に失敗して亡伯父の未亡人を頼って港町の印須磨にやってきた男は知り合った教授に図書館の仕事を依頼される・・・
<コメント>
 関西のサブカルチャー発信機関「夢人塔」が製作したいわば自主制作映画。「大人のクラブ活動」ということで週末に集まって数年かけて製作されたそうだが、いやなかなか実に良く出来ている。それこそロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』も同じ手法で製作されているだけに、製作側の情熱と意図が画面から伝わってくる。
 まず驚かされたのは舞台となる1938年という時代をきちんと画面が映画として支えていること。どの部分をとってもまるで戦前の日本が不自然ではないのだ。おそらくセットではなく地方だからこそ出来るロケによる効果なのだけれども、それだけに画面が重厚で空間の描写が素晴らしい。エンドロールで出てくるロケ地の多さがまさにこれを示してくれる。そしてメインとなる俳優さんがその画面を支えているので物語がスッと入ってくる。クライマックスにおける特殊効果も自主制作とは思えぬほどである。
 あえて難点を挙げるならやはり長期に渡る撮影ゆえの脚本の矛盾点や弱さであろうか。前半は「ネクロノミコン」書を巡る3人の男のそれぞれの人生や葛藤を描いているのだけれども、寓話的に語られる部分と生々しい部分がやや混乱しているのだ。主人公のマーティンとクリス教授はいいけれども、大芝居を見せる宗教家の描写に矛盾を感じてしまうのだ。この人は純朴な初恋を追いかけているのか、それとも本体が変態性欲者なのかイマイチ判りにくい。
 後半では遂にネクロノミコンを手にいれたマーティンによるクトゥルー神たちの饗宴となるのだけれども、ここは確かに凄い。それぞれクトゥルー神を演じる俳優さんたちと特殊効果によってまさにめくるめく世界が展開するのだけれども、これと平行して語られるクリス教授の物語がいつのまにかどこかに行ってしまう。また、宗教家がマーティンに大金を払って本の奪取を依頼するのだけれどもこれほどの大金を払う相手の住所や来歴さえ知らないというのは浮世離れしすぎている。
 そもそも僕らの世代でいうなら『悪魔くん』でさえメフィストフェレスを召喚したらソロモンの笛で交渉をする、という悪魔との交渉術が描かれていたのだから、クリス教授は何らかの交渉の手段を持っていたはずなのだ。その辺りの描写があったらクリス教授のキャラクターがもっと膨らんだだろうに。
 まあ、映画本来の目的がクライマックスのカタストロフを描くことなのだからそれは仕方がないかもしれないのだけれども、ラストがイマイチ判りにくかった。いや、男の話を聞いていた研究所って一体何だったのだ?冒頭で浜辺の男を研究所に運んだ釣り人が多額な報酬を得ていたので、てっきりそれが何かの伏線とかと思った(だって遭難した男を怪しげな研究所に運んで金を貰うのだからまともなところじゃないと思うじゃない)のに、結局それが語られなかったり。
 しかし、自主制作ながらいわゆるクトゥルーの世界を真正面から描いた意欲作であり、見応えは確かにあった。

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