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2020年01月19日15:46

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大衆音楽としてのジャズ

●中村とうよう著『大衆音楽としてのジャズ』<ミュージック・マガジン>(99)

故・中村とうよう氏は、妥協を知らない音楽評論家だった。偏屈者のレッテルを貼られる事もあり、私自身もちょっと極端じゃないかと思うケースもあった。だが、それはポリシーの強固さから出たものであり、スジは見事に通っている。そのケレン味の無さは心地良い。

とうようさんの音楽評論の核は「大衆音楽か否か」にある(そればかりではないかも知れないけど)。「大衆音楽」とは、民衆に根付いた音楽だろう。即ち人間臭さを醸し出している音楽ではないか。

本書で俎上に上げられているのは「ジャズ」である。「ジャズ」は他のジャンルに比べ解釈の幅が広い音楽ではないかと思う。それなのに、不思議な事にジャズ好きの人の中には、ジャズの範囲を狭く決め付けている人が他のジャンルのファンより多い気がする。拘りが強すぎるように思えるのだ。とうようさんが本書で批判しているのもそんな姿勢ではないかと。ジャズがある意味近視眼的に捉えられていないかというのが一点あるように思える。

もちろん、本書は、私の推論など及ばないハイレベル(これ、とうようさんが嫌いそうな言葉)というか、大衆音楽の本質論に基づいた、音楽好きを刺激する一冊である。まず、「中村ジャズ理論の基底」で、ジャズの特徴が述べられる。ネタばらしになるので内容は割愛するが、実にスッキリと規定されている。

続いて、前記したような堅物ジャズ・ファンは決して見向かないだろう、キャブ・キャロウェイやスリム・ゲイラードなどのジャンプ/ジャイヴ系のミュージシャンの魅力を語る。続いて70〜80年代の動きとして、ロックへの接近や芸術志向の高まりなどについて。必ずしも一方的に批判するのではなく、評価する部分は的確に評価されている。更には、インタビュー集のレスター・ボウイやジェイムズ・ブラッド・ウルマー編なども本人の人間性まで伺え面白かった。

話は少々本書からずれるが、現代の音楽界はジャンルレスとも言われている。特に若い世代の人は自由度が高い。気になる音楽は簡単に試し聴きできるし、何より昔に比べ情報量は多い。また、「やばい」「かわいい」とか短絡的な言葉を多用して、自分の感性に応じて反射的に好き嫌いを判断する傾向にないだろうか。「ジャズはこうあるべき」という決め付けはダサイと一蹴されるだけだろう。

感性で創られている「音楽」を感性で捉えるのはとても人間的だ。大衆音楽とは何ぞやと問いかけた時、作り手の感情を聴き手が感情で受け止める、とても人間的な行為の一形式とは言えないだろうか。とうようさんが強調するリスナーとしての姿勢も個人の感性ありきではないかと。有名歌手だから、とか凄いテクニックの持ち主だからとかを判断材料にしていたら、権威主義に陥りがちなんだよと言われている気がする。自分にとって乗りが良いとか、力を貰えるとか、感動するとか思えるのが大衆的な音楽なんだろうし、元々ジャズの起源もそういう部分にあったんだと思う。
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