〜渡月橋〜
漆黒の闇で夜空と山に続く境が曖昧になっていた水面も
対岸の灯りが僅かな流れの揺れを投影して
自分の屋形船が大堰川にいる事を思い出させる
対岸にはこれから鵜飼見物の客を乗せる数艘の屋形船
あちこちで料亭の仲居さんらが乗船予定の客と談笑している
どうやら自分らの岸の屋形船の方が先に出艇したようだ
そのまだ準備の段階のはずの一番端の灯りの届かない一艘に
三人の人影が見えた
気が早い見物客だと呟いたその瞬間
三つの影が漆黒の夜空に飛んだ
反動で屋形船が揺れて水面に波紋を作ることもなく
舩の縁が水面を打ち付ける音もなく
三人の質量を全く感じさせない勢いで
松明を吊るした鵜飼の舩が
鵜匠と鵜と船頭を乗せて近づいてきた
松明の灯りが周辺10mまでくらいを照らす
始めて目の当たりにする鵜飼舩は
夢の中にいる様に想えるほど幻想的だと見とれていると
対岸の屋形船から飛んで消えた三人がすっと闇から現れて
船頭の後ろに降り立った
こちらも船が揺れることなく音もしなかった
僕達が乗っている屋形船の見物客や
他の数隻の屋形船の見物客には見えていないのかも知れない
それまでぼんやりと鵜飼の舩を眺めていた藍尾君が呟いた
『あっ おかめさんとひょっとこさんと牛若丸さんがいる‥』
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