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2020年04月21日05:02

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「日本型」先住民族政策の行方・・・アイヌ新法(その2)

なぜこのような事態になっているのだろうか。

それはアイヌ政策が基本的には多くの国民にとってなじみのない

「周辺化された課題」であり、それを「主流化」する際に政府が都合のよいように誘導しているからであると考える。

誘導の手続きとして「アイヌ文化振興法」制定時から利用されてきたのが、

政府の私的諮問機関である「有識者懇談会」で、この懇談会が提出する報告書にあらかじめ政府が意図する方向性を潜り込ませる。

次に、「アイヌ政策推進会議」という閉ざされた空間で議論を進めさせ、

施策の骨格を形作っていく。この会議にはアイヌも参加してはいるものの、

その数は限られている上に、会議に参加していないアイヌには不透明な決定がなされている。

このことは、現行法そして新法の目的である「国民の理解」にも関わってくる。

政府は「国民の理解」が進んでいないとの理由でさらなる政策展開が必要であると説明するが、

これは原因と結果が反対である。

なぜかといえば、歴史認識を含め、「国民の理解」の促進を阻み誤誘導してきたのは

まさに日本政府だからである。

国民に対して先住民族の権利とは何かをまったく説明してこなかったのに、

国民が理解していないとうそぶくのは欺瞞(ぎまん)でもある。

「国民の理解」との関連で、今回の法案では一言しか触れられていないが、

政府が本気になって取り組むべきことに、アイヌ民族に対する差別がある。

ごく最近でも新法案に触れた上で、「アイヌ協会にアイヌの血を引く方は2割しかいない」

というある国会議員の発言があった。

“本当のアイヌ”はいたとしてもごく少ないとでもいいたいのだろうか。

また、法案に対するインターネット上の反応では、法案の内容が不備であるという理由ではなく、

逆に新法がアイヌの利権を保護し国民の分断を図るものであるいう歪んだ認識による

反対意見が見られる。

これらはアイヌ民族の存在自体を否定する近年のヘイトスピーチに通底する。

ヘイトスピーチはアイヌ民族に対してだけではなく、他のマイノリティにも

深刻な影響を与えているが、日本政府の取り組みは先住民族政策としても、

一般的な人権保障としても国際的な水準には達していないとしばしば批判されてきた。

「国民の理解」のみならず「世界の理解」を求めるためには避けて通れない課題である。

人権に絡んで非常に問題なのが、過去にアイヌ墓地から収奪され大学や博物館などに

保管されてきた遺骨の扱いである。

中でも北海道大学には一千体を超える遺骨があり、多くはアイヌの意に反して

掘り返され持ち去られたものである。

現在これらの遺骨を「民族共生象徴空間」に集約する計画が進んでいる。

これらの遺骨の返還を求める訴訟も起こされているものの、返還されたものは

ごく一部に過ぎず、ほとんどは引取先がないという口実で白老に移動させられようとしている。

過去の研究者の収集方法からして、これらの遺骨は謝罪の上で

元の場所に返されるべきであるのに、白老に移してさらに研究利用したいという意図が

計画に関わっている研究者の発言から透けて見える。

さらにいえば、研究のために収集された遺骨以外の人体試料(血液など)の問題は

まったく手付かずである。

政府には「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現する」気がどれだけあるのだろうか。

近年日本社会ではアイヌ民族や外国籍者との「多文化共生」が口にされることが

多くなってはきたものの、現状では政府に強制された「共生」ではないかと思ってしまう。

権利保障や謝罪といった内容を取り除き、観光を中心とした表面的「共生」にすぎないという
意味である。

さらに、「民族共生象徴空間」の開設がもともと東京オリンピックに合わせた計画だった

こともあり、統計問題や沖縄基地問題などで失点続きの政府が人気取りに利用するのではないかという懸念もある。

「新法は初めの一歩だ」という声が一部のアイヌや政治家らから聞かれるようだが、

そのような楽観は禁物である。

もちろん新しい法律に対してアイヌの中でも意見が分かれ、

北海道アイヌ協会関係者を含め期待する人もいるのは分かる。

しかし、政府に期待するには政府に対して影響力を行使できることが条件であり、

現状はそれにはほど遠い。

本件に関して最も詳しく報道してきた北海道新聞は、2019年2月16日付の社説で

「アイヌ民族を先住民族と初めて明記した意義は大きい」と前向きなコメントをしているが、

すでに述べたようにこれは過大評価である。

ただ、せっかくアイヌ民族に関して日本や海外の主要メディアが取り上げるのだから、

議論が深まる機会にしたいものだ。

政府による「国民の理解」の促進が期待薄の状況の中で、メディアが果たせる役割は小さくない。

国際的な水準の政策実現のため、政府に対して批判的な目を持ち、

継続的かつ踏み込んだ報道を求めたい。



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