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2020年12月02日17:11

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(読書)『経済学の堕落を撃つ』(中山智香子著:講談社現代新書)

最近『経済学の堕落を撃つ』(中山智香子著:講談社現代新書)という本を読んだ。著者がこの本で行っている問題提起は、「なぜ経済学は人間の幸福に役に立たなくなったのか」という点にある。著者の認識によると、現代の経済学は、経済学的な問題のための分析ツールに過ぎなくなっている。経済学者が自分の勉学によって得た「分析ツール」としての経済学によって分析可能な問題を探し求め、解決可能な適当な題材がみつかると、それをこのツールで分析してそれで事足れりというレベルに終始しているという。

いったい、経済学はいつからそのような堕落の道を歩み始めたのか。この問題を解明するために、まず著者は、経済学の発展の歴史を振り返り、いったいどの時点で経済学は人間の幸福に役立つための発展の道を踏み外したのか、その原因の根源を探ろうとする。この本は新書版で270ページ余りの本ではあるが、この新書版の本のページの大半を、経済学史の解説と分析に費やしている。著者自身は、これからの経済学はどういう方向に発展すべきか、その具体像を示すことには成功していないように見える。やはり、あまりにも巨大な問題なのだろう。

なお、この本における経済学史の解説と分析の部分には、あまりにも多数の経済学者や経済学の事項が登場する。このため、読者としては、巻末に人名索引や事項索引が設けられていることを望んでしまう。しかしそういった人名索引や事項索引を設けてしまうと、もはやこの本は単行本の体裁を必要としてしまうだろう。このため、新書版の値段では収まらなくなるだろう。読者としては、新書版の低廉なコスト(税込みで1100円)で、「なぜ経済学は人間の幸福に役に立たなくなったのか」という観点に立った経済学史を読めるメリットを享受できたことで納得しなければなるまい。

【目次】

はじめに
第1部 経済学の分岐点−−「倫理」から倫理「フリー」へ
第1章 市場は「自由競争」に任せるべきか−−理念と方法を問う
第2章 「暮らし」か「進歩」か−−ダーウィニズムと経済学
第3章 「逸脱」のはじまり
第4章 経済学からの「価値」の切り離し−−「社会主義経済計算論争」の行方

第2部 「アメリカニズム」という倒錯
第5章 「自由」か「生存」か−−大戦間期の「平和」の現実
第6章 マネジメント=市場の「見える手」
第7章 経済成長への強迫観念と、新たな倒錯のはじまり
第8章 (特別編)工業化される「農」−−食にみるアメリカニズム

第3部 新たな経済学の可能性をもとめて−−擬制商品(フィクション的商品)の呪縛から離れて
第9章 世界システム分析の登場
第10章 「人間」をとりもどす−−「労働」から「人間」へ
第11章 「おカネ」とはなにか−−「レント」および「負債」をめぐる思考
第12章 「土地」とはなにか−−そして「誰かとともに食べて生きること」
終わりに

【関連項目】

版元ドットコム 経済学の堕落を撃つ

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784065219539
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