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2020年08月20日15:25

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(読書)『地球はなぜ「水の惑星」なのか』(唐戸俊一郎著:講談社ブルーバックス)

以前に『海はどうしてできたのか』(藤岡換太郎著:講談社ブルーバックス)という本を読んでみた。私がこの本を読んでみようと考えた動機は、すでに別の日記でも記したように、1999年に亡くなった父が生前著した本『灼熱の氷惑星』という本が、どの程度自然科学の教養を前提に書かれている本なのか、その「まじめ度」を検証してみたいという欲求があったからである。

この『灼熱の氷惑星』という本は、「地球の水は多すぎる」という着想が出発点になって書かれている。だが、この「多すぎる」という記述は、厳密にいうと「科学的なものの見方」という観点からは非常に隔たっている。すなわちある物事(例えば地球上にある海水の量など)について「多すぎる」、「少なすぎる」といった判断を下すためには、そのような判断が下せるための科学的根拠が必要なはずである。

つまり、どういう基準量と比較して、その量が「多すぎる」とか「少なすぎる」とか判断できるのだろう。「多すぎる」とか「少なすぎる」とかいった判断を主張するかぎりは、そう判断できる根拠となる理論を示す責任がある。ところが、『灼熱の氷惑星』には、その判断の根拠となる理論が全くといっていいほど示されていない。

私はこの根拠になり得る考え方を探るために、まず『海はどうしてできたのか』という本を手にしてみたのである。だが、私が期待していたような上記の「根拠」と関連する参考情報は、この本からはあまり得られなかった。そこで再び手にしてみた本が、この『地球はなぜ「水の惑星」なのか』(唐戸俊一郎著:講談社ブルーバックス)という本である。

この本は、『海はどうしてできたのか』と比較すると、かなり私の「期待」に応えてくれるものであった。3つほどポイントとなることを紹介しよう。

(1)まず注目してみたいのが、地球の海水の総量は、地球全体の重量との比較において、「多い」と言えるかどうか、その直感的把握である。この本を読むと、地球の海水の量は、地球全体の質量の0.023%に過ぎないということが書かれている。つまり、海水の量は地球の質量の1/4000以下である。これは直感的に言って「多い」とはとても言えないのではないだろうか(P80)。

(2)地球の地殻の下にマントルと呼ばれる層があることはよく知られている。このマントルは、上部マントル、遷移層、下部マントルの3層に分かれている。このうち、遷移層を構成する鉱物は水の溶解度が非常に高く、遷移層は水の貯蔵庫になっていると考えられているようだ(P36)。つまり、地球の表層には、「海洋」という形で地球の質量の1/4000未満の海洋水が蓄えられているが、地球には、この海洋以外にも水の貯蔵庫があるということなのだ。つまり、地球には、海洋水以外にも水を貯える能力があるのだ。このことからも地球の水、特に海洋水の量は、格別多すぎるという判断は妥当しないとみていいと思う。

(3)もうひとつ、「地球の海洋水が多すぎるのか少なすぎるのか」ということとは別のことなのだが、この本の第5章の「注5」に、オーストリア出身の科学哲学者、ポッパーの興味深い指摘が掲載されている(P199)。それは、

『ある仮説が正しいことを観測によって証明することはほとんど不可能である』

ということである。その理由は、その仮説ではなく、別の仮説でも同じ観測を説明できるかもしれないからだというのである。

実は上に紹介した『灼熱の氷惑星』という本では、「地球の海洋水は惑星に蓄えられている水の総量としては多すぎる。何らかの原因で、地球の外部から水がもたらされたに違いない」という主張がなされている。そしてその原因として父が考えたものが、太陽系には水(氷)でできた未知の惑星(←これを『灼熱の氷惑星』と呼んでいる)が存在しており、それが地球に接近したとき、大量の降雨で氷惑星から地球にもたらされた」という仮説が唱えられているのである。

つまり、この本全体の主張の構成は、「氷惑星仮説は、地球の水が多すぎるという観測結果によって正しいと証明されているのではないか」という骨格になっているのである。しかし、「地球の水が多すぎる」という判断は、科学的な観測結果というにはあまりにも妥当性を欠いている。しかも、この「観測結果」を「氷惑星仮説が正しいことの証拠なのではないか」と提案しているわけだから、『灼熱の氷惑星』という本全体の主張の構成は荒唐無稽だと言わざるを得ないのではないだろうか。

【関連項目】

(読書)『海はどうしてできたのか』(藤岡換太郎著:講談社ブルーバックス)

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