私が高校で生物を勉強したのは相当昔の話だ。その後大学は理工学部機械工学科に進学し、入試は物理と化学で受験した。このため、高校の生物の勉強とはほぼおさらばしてしまった経緯がある。そこで、今の高校の「生物」の科目内容はどうなっているのか、復習の目的で購入して読んでみた。
興味を惹いておもしろいところはたくさんあるが、「高校生でここまで勉強する必要はあるのかな」と疑問を感じる、いわば専門的すぎるところもなくはない。例えば第2章の中に、「2−3呼吸のしくみ」、「2−4光合成のしくみ」という節があるが、高校生を対象にしている割にはやや専門的すぎるという印象を持った。
ただし、将来大学に進学して生物学、生化学、医学、農学などを専攻したいと思っている高校生ならば、この程度のことは高校段階で知っておいた方がいいのかもしれない。高校生という段階は、その課程の履修内容でどの程度専門的に学ぶかということが難しい段階なのかもしれない。その高校生の進路が生物学、生化学、医学、農学などの方面であれば、「2−3呼吸のしくみ」、「2−4光合成のしくみ」といった節で説明しているような専門的なことは理解しておいた方がいいだろう。しかし、そういう進路とは関係ない方向に進むのであれば、「クエン酸回路」だとか、「電子伝達系」だとか、「カルビン回路」だとかいった専門知識は、まず不要と見ていいように思う。
将来大学に進学して生物学、生化学、医学、農学などを必ずしも専攻しない人が読んでもためになることもたくさん書かれている。例えば、第5章に「5−2ヒトはどうして病気になるのか」という節がある(P284)。この中に「4.欠点だらけのヒトのからだ」という節があり(P290)、非常に興味深いことが書かれている。
例えば腰痛、ヘルニア、痔(ぢ)といった病気は、ヒトが二足歩行するようになったこととの引き換えで、なりやすくなった病気らしい。また、ほ乳類の中ではヒトがいちばん難産であるといわれる。その理由もヒトが二足歩行するようになったこととの引き換えらしい。
また、ヒトは咽頭腔(いんとうこう)と呼ばれるのどの奥の空間が広がることによって言葉を話すことができるようになったと言われる。咽頭腔が狭いチンパンジーには複雑な音を出すことはできない。しかし咽頭腔の空間を持ち、複雑な音を出せるようになったこととの引き換えに窒息死というリスクを背負うことになったようだ。
「第7章生態系のしくみ」の中の「里山の自然」という記述も非常に興味深かった(P377)。陽樹林、陰樹林という言葉も初めて知った。雑木林は、人間が手入れをせずに放置しておくと、陽樹林はやがて陰樹林になってしまうようだ。里山の景観の美しさは、人が手入れをして陽樹林の状態を維持しているから保たれているのだ。
「第8章生物学と地球の未来」の中の「ヒトは地球の救世主か」という節(P420)に、動物生理学者のシュミット・ニールセンの興味深い知見が紹介されている。ヒトの体重はヒツジとそれほど変わらないが、ヒトはゾウと同じくらいのエネルギーを消費しているという。その理由は記されていないが、多分、人間の場合は脳が非常にエネルギーを消耗するのだろう。
このエネルギー消費から計算すると地球上に生存できる適正なヒトの数は1億8000万人だという。これはどういうことを前提にしているのか詳細は記されていないが、たぶん人間が農業ということを全くしない場合で計算しているのだろう。人間は農業のおかげで過剰な数の個体数がこの地球上に生存しているのである。
【目次】
第1章 生命の誕生と進化
第2章 細胞の構造とエネルギー代謝
第3章 遺伝・生殖・発生
第4章 行動のしくみと進化
第5章 ヒトのからだと病気・医療
第6章 植物のからだと生殖
第7章 生態系のしくみ
第8章 生物学と地球の未来
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