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2020年01月18日17:56

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(読書)『美しい生物学講義』(更科功著:ダイヤモンド社)

生物学や人類学について、最近の学問の進歩に基づく知見をふんだんに取り入れて読者の興味を惹くような書き方をしている啓蒙書である。下記の目次に紹介するように、この本には19もの章があり、様々なトピックを幅広く取り入れる構成となっている。しかし、逆に間口を広げすぎて中身が薄いという印象があることは否定できない。章の数を半分以下の7〜8章ぐらいに絞って、その代わり各章をもう少し掘り下げて説明するような書き方をしたほうが良かったのではないだろうか。

しかしそんな中でも、私が特に興味を持った章がある。それは、「第11章 大きな欠点のある人類の歩き方」と「第12章 人類は平和な生物」の章である。この章で展開している著者の見解について、私の感想を述べてみたい。

まず、「第11章 大きな欠点のある人類の歩き方」では、ヒトには生物として4つの特徴があるとしている。すなわち、

1.直立二足歩行すること
2.牙を失ったこと
3.体毛が薄いこと
4.脳が大きいこと

である(P174)。そして化石からの推測で、「直立二足歩行すること」と「牙を失ったこと」が最初にほぼ同時に進化し、後から「体毛が薄いこと」と「脳が大きいこと」の特徴が出現したとしている。

この本は生物学の啓蒙書という性格を持っているので、やむを得ない面もあるが、人間の進化を論じるのであれば、生物学の視点からのアプローチだけでは限界があるのではないだろうか。例えば、人間の進化の過程のどのステージで人間は言語を獲得したか、それが人間の進化の様相にどんな相互作用をもたらしたかというあたりは、本当は避けて通れない本質的な問題なのではないだろうか。

例えば本書では、人間が「直立二足歩行するようになった」ことと「牙を失った」ことの要因のひとつが、人間が一夫一婦制を形成したことによって説明できないか、という仮説を提案している(P194)。私はこの仮説には違和感を覚える。「一夫一婦制の成立」という人類学的もしくは社会学的事象を、生物学という自然科学の一分野の土俵上だけで論じ切るのはたぶん無理があると思う。特に私が注目するのは、「直立二足歩行」と「一夫一婦制の形成」の因果関係は完全に逆ではないかと思うのだ。

どこかのものの本で読んだことがあるが、対面性交をするのは人間だけらしい。私の想像では、人間は直立二足歩行をするようになってから、男女が対面性交をするようになったのではないだろうか。このため、性交という営みが、「オスとメスとの交わり」から「あなたという個体とわたしという個体との交わり」という性格を強く持つようになったのだ。このことは、一夫一婦制の形成を強く促進したのではないだろうか。つまり、因果関係の論理は、「一夫一婦制が形成されたから直立二足歩行するようになった」のではなく、「直立二足歩行するようになったから一夫一婦制が形成された」のではないだろうか。

さらに、一夫一婦制の成立によって、男同士による女の奪い合いは抑制され、男同士で争うときの牙の必要性も低下すると考えられる。もしこの因果関係の論理を認めるのなら、「一夫一婦制が形成されたから牙が退化した」のである。整理すると、「直立二足歩行するようになった」→「対面性交するようになった」→「一夫一婦制が形成された」→「牙が退化した」という順番になるのではないだろうか。

もう一つ、人間の直立二足歩行発生に関連する考察として欠かせないのが「言語」だと思う。本書にP176〜178に、人間が直立二足歩行を開始した要因として7つほどの項目が挙げられている。この中で、6つ目に挙げられている「両手が空くので武器が使える」という要因が重要だと思う。少なくとも、7つ目に挙げられている要因の「両手が空くので食糧が運べる」よりも、「両手が空くので武器が使える」という要因のほうが直感的には素直に結びつくような気がする。

人間は直立二足歩行することによって、走ることが遅くなった(P181)。このため、猛獣に襲われると非常な危険に直面する。しかし、両手が空いていて武器を使えるとなると、話は別になる。さらに、仲間と協力して猛獣と戦えば、さらに人間にとって有利になる。この「仲間との協力」を効果的に進めるには言語が重要な役割を果たすに違いない。この観点から言語と直立二足歩行との関連を見出すことができないだろうか。この場合、「言語がいつごろどのように発生したか」についても考察することが必要になろう。しかしこれは明らかに自然科学としての生物学の範疇の外にある。このため、生物学の啓蒙書である本書の中で扱うのは難しいかもしれない。

【目次】

はじめに

第1章 レオナルド・ダ・ヴィンチの生きている地球
『モナ・リザ』を書いた理由
地球の中に血管がある?
ノアの大洪水が原因?
岩石が上昇するメカニズム
なぜ地球を生物と考えたのか

第2章 イカの足は10本か?
科学は大きな川のように
100パーセント正しい演繹
100パーセントは正しくない科学

第3章 生物を包むもの
生物とは何か
どんな膜で仕切ればよいか
細胞膜にはドアがある
細胞膜は何十億年も進化していない

第4章 生物は流れている
私たちと自動車が似ているところ
私たちと自動車が似ていないところ
生物の体は物質の流れ
生物は平衡状態ではない
生物は散逸構造である
なぜ生物は散逸構造なのか

第5章 生物のシンギュラリティ
人類は人工知能に滅ぼされる?
怠け者の発明
シンギュラリティとしての自然選択
自然選択は生物の条件

第6章 生物か無生物か
代謝をしない生物はいるか
複製を作らない生物はいるか
仕切りのない生物はいるか
地球の生物は富士山のようなもの

第7章 さまざまな生物
ミドリムシは動物か植物か
分類と系統の違い
マイアの考え
細菌やアーキアの多様性
細菌やアーキアは下等な生物という偏見

第8章 動く植物
虫を捕まえるハエジゴク
植物の神経?
植物はどのくらい長生きか
植物の年齢の測定法
生きているときから樹木の大部分は死んでいる

第9章 植物は光を求めて高くなる
生きるためにはエネルギーが必要
葉緑体の起源
高くなる植物
なぜ裸子植物は高くなれるのか

第10章 動物には前と後ろがある
前とは何か
受精卵から成体へ
体の外側と内側
さまざまな動物
高等な動物も下等な動物もいない

第11章 大きな欠点のある人類の歩き方
人類の2つの特徴
人類以外に直立二足歩行をする生物はいない
直立二足歩行の利点
直立二足歩行の欠点

第12章 人類は平和な生物
人類は平和な生物
昔は人類は狂暴な生物だと思われていた
仮説を検証するにはどうするか
直立二足歩行の利点と一夫一妻的な社会
オスが子育てに参加
進化で重要なのは子どもの数

第13章 減少する生物多様性
肉食獣に食べられることも必要
多様性が高いと生態系は安定する
ヒトは地球に何をしてきたか
なぜ生物多様性をまもらなければならないか

第14章 進化と進歩
そんなにヒトは偉いのだろうか
ダーウィンではなくスペンサー
トカゲはヒトより優れている?
ヒトは進化の最後の種ではない
「存在の偉大な連鎖」を超える進化

第15章 遺伝のしくみ
積み重ねが大切
生物の遺伝情報
タンパク質はDNAの塩基配列から作られる
DNAの塩基配列以外の遺伝情報

第16章 花粉症はなぜ起きる
農業をする昆虫
抗生物質はなぜ細菌だけを殺すのか
真菌の生えたハエ
数十億とも言われる抗体の種類
なぜ抗体の種類はこんなに多いのか
花粉症はなぜ起きるか

第17章 がんは進化する
細胞がたくさん集まっても多細胞生物にはならない
がんは多細胞生物のなかの単細胞生物
がん細胞が免疫にブレーキをかける
がん細胞をどこまでも追いかける

第18章 一気飲みしてはいけない
アルコール量の計算
アルコールは体中に広がる
アルコールは脳を麻痺させる
なぜ子供はアルコールを飲んではいけないのか

第19章 不老不死とiPS細胞
若さへの憧れ
幹細胞とは何か
ES細胞の課題
クローン羊の誕生
体細胞を初期化したiPS細胞

おわりに

参考文献
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